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八月
恐怖体験、コミックマーケット! その10
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こうして始まったなんちゃってショーは、意外にも満席状態だった。最前列に座る観手を小さく睨むも、あいつの興奮しきった顔を見るに気づいてすらいないだろう。はぁ……。
「我が屹立家の前では貴様らなぞただのモブ! 相手にすらならんわ!」
ついに自分の役も忘れて本名を名乗りだしたぞ、この人。もう止める気力すら残っていない俺は、好きにしてくれと言わんばかりに肩をがっくりと落とした。
「がんがれ、きちゅりちゅー!」
「ありがとう! ちびっ子たちよ! オレの力の源はキミたちだ!」
「意外と子供には優しいんすね……」
小さいお友達がすんなり受け入れているのも驚きだが、会長が意外にも子供に優しいことに驚いた。ちなみに、敵のモブや大きいお友達からの声援には徹底して毒づいている。
「なぁに。弟がいるからな。ちびっ子の相手も慣れたものだ」
「いや弟って同い年やないすか」
「同じようなものだ、気にするな」
頭に“はじめぇ”という甘えるセンパイがよぎり、あぁ確かにと少しだけ同意した。
「あ! 御竿く……、モップリン危ない!」
「へ!?」
ぐいと手を引かれ、猫汰 (ホウキナコ) のほうへ足をよろつかせる。ん? 何が? と疑問に思ったのも束の間、猫汰の鉄拳が俺の横を通り過ぎた。
「ぐっ」
そのまま会長の腹(厚底だからか高さがそこになった)に拳がめり込み、会長の口からくぐもった声が漏れる。
「か、会長、じゃなかった、チリトリコッタ! いやもう屹立さんでいいのか!? あぁもうよくわからんが、大丈夫か!?」
「あ、あぁ、心配するな。それにしてもホウキナコ、いいパンチだ……」
腹を押さえて踏みとどまった会長は、猫汰をこれでもかというくらいにギロリと睨む。
「申し訳ない、チリトリコッタ。敵がいたもので、つい手が出てしまったよ」
「敵!? いやどこにもいないけど!」
「いるよ。そこら中に」
「そうだったよ! お前にしてみれば全部敵だったわ!」
ショーそっちのけでツッコむが、子供たちからの受けは上々で、観客席からは笑いが聞こえてくる。
「ふっ。いいだろう、ホウキナコ。今日こそ、モップに相応しいのはこのオレ、チリトリかそれともホウキか、はっきりさせようではないか!」
「望むところだよ」
「いや、どう見ても普通はホウキとチリトリだろうが! モップを巻き込むんじゃねぇ!」
止めに入る敵役を薙ぎ倒し、舞台には死体の山が積み上がっていく。俺も止めようとはしたが、人外と人妖の戦いに、俺みたいな普通の人間が入れるわけもない。
「きちゅりちゅー! いけー!」
「はっはっはっ、任せろ!」
会長が持っていたチリトリを高く掲げた。
「悪は全て我が宝具 にてゴミ箱へと送ってやろう」
「そんなもの、振り払ってあげるよ」
猫汰も居合いをするようにホウキを低く構える。もう誰にも止めれないのか……、と俺は唇を噛んで俯いた。
「ちょっと! このボクを忘れて、何を楽しんでるの!」
観客席の後ろから現れたのは、ロングスカートの衣装を着たセンパイだった。青髪のキャラ、バケツブアンの格好をしている。ちなみにヅラがズレている、衣装係何してるんだ。
スカートの前の部分を持ち上げながら舞台まで駆け寄ってくると、センパイは「よいしょ」とよじ登ろうとする。しかし上手く登れず、ボクサーパンツが丸見えになったが、子供たちには大ウケだ。
「ちょっと、早く引き上げてよ」
「……」
俺は無言でセンパイを蹴り落とした。何か言っていたが聞こえないフリをした。
「あーもー! ここまで来たら太刀根も来いよ! お前なら止められるだろ、馬鹿野郎!」
もう舞台だろうが人前だろうが関係ない。俺はここにいないはずの太刀根を呼ぶ。いや、あいつなら呼べばくるはずだ。
俺の悲鳴にも近い声が会場に響き渡り、しばらくの後、
「護! 課題出来たぜ!」
と後ろのセットを破壊して出てきた太刀根は、布面積がこれでもかというほどに少ない水着型の衣装、ブラシフォンの格好をして仁王立ちしていたのだった。
「我が屹立家の前では貴様らなぞただのモブ! 相手にすらならんわ!」
ついに自分の役も忘れて本名を名乗りだしたぞ、この人。もう止める気力すら残っていない俺は、好きにしてくれと言わんばかりに肩をがっくりと落とした。
「がんがれ、きちゅりちゅー!」
「ありがとう! ちびっ子たちよ! オレの力の源はキミたちだ!」
「意外と子供には優しいんすね……」
小さいお友達がすんなり受け入れているのも驚きだが、会長が意外にも子供に優しいことに驚いた。ちなみに、敵のモブや大きいお友達からの声援には徹底して毒づいている。
「なぁに。弟がいるからな。ちびっ子の相手も慣れたものだ」
「いや弟って同い年やないすか」
「同じようなものだ、気にするな」
頭に“はじめぇ”という甘えるセンパイがよぎり、あぁ確かにと少しだけ同意した。
「あ! 御竿く……、モップリン危ない!」
「へ!?」
ぐいと手を引かれ、猫汰 (ホウキナコ) のほうへ足をよろつかせる。ん? 何が? と疑問に思ったのも束の間、猫汰の鉄拳が俺の横を通り過ぎた。
「ぐっ」
そのまま会長の腹(厚底だからか高さがそこになった)に拳がめり込み、会長の口からくぐもった声が漏れる。
「か、会長、じゃなかった、チリトリコッタ! いやもう屹立さんでいいのか!? あぁもうよくわからんが、大丈夫か!?」
「あ、あぁ、心配するな。それにしてもホウキナコ、いいパンチだ……」
腹を押さえて踏みとどまった会長は、猫汰をこれでもかというくらいにギロリと睨む。
「申し訳ない、チリトリコッタ。敵がいたもので、つい手が出てしまったよ」
「敵!? いやどこにもいないけど!」
「いるよ。そこら中に」
「そうだったよ! お前にしてみれば全部敵だったわ!」
ショーそっちのけでツッコむが、子供たちからの受けは上々で、観客席からは笑いが聞こえてくる。
「ふっ。いいだろう、ホウキナコ。今日こそ、モップに相応しいのはこのオレ、チリトリかそれともホウキか、はっきりさせようではないか!」
「望むところだよ」
「いや、どう見ても普通はホウキとチリトリだろうが! モップを巻き込むんじゃねぇ!」
止めに入る敵役を薙ぎ倒し、舞台には死体の山が積み上がっていく。俺も止めようとはしたが、人外と人妖の戦いに、俺みたいな普通の人間が入れるわけもない。
「きちゅりちゅー! いけー!」
「はっはっはっ、任せろ!」
会長が持っていたチリトリを高く掲げた。
「悪は全て我が宝具 にてゴミ箱へと送ってやろう」
「そんなもの、振り払ってあげるよ」
猫汰も居合いをするようにホウキを低く構える。もう誰にも止めれないのか……、と俺は唇を噛んで俯いた。
「ちょっと! このボクを忘れて、何を楽しんでるの!」
観客席の後ろから現れたのは、ロングスカートの衣装を着たセンパイだった。青髪のキャラ、バケツブアンの格好をしている。ちなみにヅラがズレている、衣装係何してるんだ。
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「ちょっと、早く引き上げてよ」
「……」
俺は無言でセンパイを蹴り落とした。何か言っていたが聞こえないフリをした。
「あーもー! ここまで来たら太刀根も来いよ! お前なら止められるだろ、馬鹿野郎!」
もう舞台だろうが人前だろうが関係ない。俺はここにいないはずの太刀根を呼ぶ。いや、あいつなら呼べばくるはずだ。
俺の悲鳴にも近い声が会場に響き渡り、しばらくの後、
「護! 課題出来たぜ!」
と後ろのセットを破壊して出てきた太刀根は、布面積がこれでもかというほどに少ない水着型の衣装、ブラシフォンの格好をして仁王立ちしていたのだった。
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