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八月

恐怖体験、コミックマーケット! その3

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「御竿さん……」

 観手が床に落ちた(叩きつけた)本に目をやる。俯き気味でよく見えないが、流石にやりすぎたかと内心焦りだした俺に、

「も~! 実はちゃんと読んでたんですね! 恥ずかしがり屋さんなんですから~!」
「は!? どういうこと!?」

と、これでもかというほどに頬を高揚させて、観手は鼻息荒く本を拾い上げると、あるページを開いてみせた。半強制的に読ませられる形になり、見たくもない絵(絵はとても上手い)と台詞が目に入ってくる。

『そもそもなんで会長みたいなすげぇ奴が、俺なんかに構うんだよ』
 ~中略~
『否定的な割に、キミのここはオレを待っていたようだが? 身体は正直なようで何よりだ』
『あっ、んん……。待って、たまる、か……クソッ』
『その強がりもいつまで保つか……、楽しみだ』
『かい、ちょう……、もう』

 俺はそこまで目を走らせ、観手の手から本を引ったくるようにして取り上げた。

「なんで俺がこんなに乙女なんだよ!」
「あれ、もしかして左右逆でした? 解釈違いかな~」
「解釈どころか、そもそも、最初から、前提が違うんだよ!」

 首を傾げる観手。もう相手してられるかと、俺はブースの裏に行きかけ、

「待ちたまえ、護くん」
「うわっ」

 突如として後ろから伸びてきた手によって、自分の意思とは関係なく引き止められることに。

「折角、彼女たちが一生懸命作ったものだ。そんな言い方はないだろう」

 もちろん俺を引き止めたのは会長だ。何を思ったのか、あの表紙と全く同じ構図、同じポーズを取り、俺の顎に手を滑らせる。当たり前だが、あの本みたいな声が出るわきゃない。

「ぎゃあああ! 寒気! 寒気が!」
「夏だというのにか? それならオレが暖めよう」
「やめてぇぇえええ!」

 その腕から逃れようとするが、なんだこいつ、細い割に力ありすぎだろ! いや会長だぞ、人間なわけがなかった! 馬鹿だろ俺!
 指が顎から耳に移動する。全身がぶるりと震えたのは薄ら寒さからだ、決して観手や周囲のお姉様方が望む展開からではない。

「会長! お願いします、この台詞を読んでください!」

 興奮したままの観手が、試し読みの一冊を手にし、会長にどんとページを突きつける。会長が「ほう、面白い」と耳元で話すものだから、俺は更に鳥肌が立った。

「“自分がオレに相応しくないと思っているのだろう? ならばわからせるまでだ。キミが、キミの心が、キミの身体に素直になるまで”」
「ひぃいいいい!」

 背中どころか全身に鳥肌が立つ。心なしか頭も痛くなってきた。お姉様方はなんか悲鳴を上げてるし、観手はもちろん俺の言葉なんて届かないだろう。
 ヨシさんはどうかといえば。

「良い……」

 あかん! あの人もやっぱり同類だったよこんちくしょう!

「離せぇぇえええ! 嫌だあああ!」

 まじで限界が迫った時。
 足元に小さな筒が転がってきたかと思うと、それはすごい音を発し、一瞬にして視界を真っ白に染め上げた。俺は前世でこれを見たことがある。
 FPSでよく使われる、フラッシュバン、だ――
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