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七月
夏だ! 海だ! 無人島だ!? その17
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入ってきた爺さんに、俺は備えつけの椅子を「どうぞ」と示したが、爺さんは「お気になさらず」とワゴンを引いて部屋へ入ってきた。湯気の立つポットやら、美味そうなクッキーに、俺の腹が無意識に鳴る。
「少し護様とお話をしたいのですが。構いませんかな?」
「まぁ、うん、いいけど」
爺さんが慣れた手つきでお茶の用意をしていく。俺はさっき、爺さんに座れと示した椅子に自分が座って、その手際よく用意されていくお茶を眺めていた。
「それで。屹立家の爺さんがなんの用だよ。あの兄弟と仲良くなれって話なら、悪いけど聞けねぇからな」
正直、今の一方的に気に入られてる状況も勘弁してほしいのに、これ以上仲良くなるなんて願い下げである。しかし爺さんは「いえいえ、違います」と朗らかに笑うと、
「護様、貴方は転生者でございますね?」
と予想外の台詞を言ってきたのだ。俺は自分が思うより酷い顔をしていたのだろう、爺さんが俺を見て可笑しそうに喉を鳴らした。
「なんで、それを……」
「あぁ、驚かせるつもりはなかったのです。ご安心くださいませ、私めもまた、貴方と同じなのです」
「俺と、同じ? 爺さんも転生者なのか!?」
爺さんは「左様でございます」と俺にミルクティのカップを示してきた。甘い匂いにつられて飲めば、高ぶった気持ちが少しだけ落ち着いた。
「それにしても護様は、いいスキルを持って転生したご様子。それではあれではないですか、乾く暇もないのではないですか?」
「いや、むしろ乾いたままでいい! 濡れたらおしまいなんだよ、色々と!」
「もしや護様……、そういった経験をなされてこなかったのですか?」
「してこなかったし、これからもしたいと思わねぇよ!?」
俺は俺の処女を誰にもやるつもりはないし、これから先も手放すつもりはない。墓まで持っていってやるって、生まれた時に決めたんだ!
「第一、爺さんもそうだろ? だから独り身なんじゃねぇの?」
「いえ? 私めには家内と、可愛い娘が五人おりますが」
「どういうこと!?」
話に矛盾がある気がする。それは爺さんも感じたようで、首を傾げると、
「護様、詳しくお伺いしても?」
と真剣な眼差しを向けてきたのだ。
一通りの話を聞き終わった爺さんは「ほう」と顎に手をやり考えてから、
「どうやら護様は、私めとは少し状況が違うようですな」
と空いたカップに再びお湯を注いで、暖かい紅茶を作ってくれた。
「爺さんは違うのか?」
「えぇ、私めはエロ……ごほん、ギャルゲに転生させて頂きましてな。幼馴染の女性と結婚した次第でございます」
「おい。今なんつった」
「それにしても、BLでございますか。そうしますと、相手方はぼっちゃまや御学友の皆様になるわけですな」
「おい。なんつった、なぁ」
爺さんは確かにエロゲ言ったよな? なんつー羨まし……いや待て、ここはBLじゃないのか?
「なぁ爺さん。もしかして、物語は変えられるのか?」
「……私めの幼馴染、いえ推しの彼女は、他のキャラから疎まれておりましてな。所謂、悪女というやつです」
「は、はぁ……」
いきなり何を言い出すのかと思えば。よくある年寄りの昔話ってやつか?
「彼女は死ぬことが確定しておりましたので、それを助けるために、私めは転生したわけですな」
死んでしまう? 可笑しい、さっきその幼馴染は嫁で、子供もいるって言っていたよな? 俺の疑問に答えるように、爺さんはひとつ頷き、ポケットから小さな写真入れを取り出した。
「護様が疑問に感じた通り。私めは彼女を死なせたくなかった。思ったことはございませんか? アニメ、ゲーム、漫画、小説、それらに登場する彼女らを助けたいと。死ぬ未来を回避したいと」
「……」
ないわけじゃない。そんなの、いくらでも考えたことはある。だけど所詮は二次元だ。自分のリアルに干渉することなんてないし、いつかは記憶の中に埋もれていく。
「そうして私めは彼女を救い、その未来を回避したまでは良かったのですがな。なにぶん彼女は位の高いお人だったもので、あの世界では結婚など出来なかったのです」
爺さんが写真入れを懐にしまう。懐かしげに細めた視線の先には、一体何が見えているのだろうか。
「私めは自分に与えられた力全てを使い、この世界に来たわけです。その際に助けて頂いたのが、先代当主様でございます。護様」
「ん?」
優しく、幸せに満ちた笑顔を、爺さんは俺に向けた。
「物語など変えられます。貴方がそれを望むのならば。つまり護様、ぼっちゃま二人を堕とすことも可能というわけです」
「いい話が台無しだな、おい」
「少し護様とお話をしたいのですが。構いませんかな?」
「まぁ、うん、いいけど」
爺さんが慣れた手つきでお茶の用意をしていく。俺はさっき、爺さんに座れと示した椅子に自分が座って、その手際よく用意されていくお茶を眺めていた。
「それで。屹立家の爺さんがなんの用だよ。あの兄弟と仲良くなれって話なら、悪いけど聞けねぇからな」
正直、今の一方的に気に入られてる状況も勘弁してほしいのに、これ以上仲良くなるなんて願い下げである。しかし爺さんは「いえいえ、違います」と朗らかに笑うと、
「護様、貴方は転生者でございますね?」
と予想外の台詞を言ってきたのだ。俺は自分が思うより酷い顔をしていたのだろう、爺さんが俺を見て可笑しそうに喉を鳴らした。
「なんで、それを……」
「あぁ、驚かせるつもりはなかったのです。ご安心くださいませ、私めもまた、貴方と同じなのです」
「俺と、同じ? 爺さんも転生者なのか!?」
爺さんは「左様でございます」と俺にミルクティのカップを示してきた。甘い匂いにつられて飲めば、高ぶった気持ちが少しだけ落ち着いた。
「それにしても護様は、いいスキルを持って転生したご様子。それではあれではないですか、乾く暇もないのではないですか?」
「いや、むしろ乾いたままでいい! 濡れたらおしまいなんだよ、色々と!」
「もしや護様……、そういった経験をなされてこなかったのですか?」
「してこなかったし、これからもしたいと思わねぇよ!?」
俺は俺の処女を誰にもやるつもりはないし、これから先も手放すつもりはない。墓まで持っていってやるって、生まれた時に決めたんだ!
「第一、爺さんもそうだろ? だから独り身なんじゃねぇの?」
「いえ? 私めには家内と、可愛い娘が五人おりますが」
「どういうこと!?」
話に矛盾がある気がする。それは爺さんも感じたようで、首を傾げると、
「護様、詳しくお伺いしても?」
と真剣な眼差しを向けてきたのだ。
一通りの話を聞き終わった爺さんは「ほう」と顎に手をやり考えてから、
「どうやら護様は、私めとは少し状況が違うようですな」
と空いたカップに再びお湯を注いで、暖かい紅茶を作ってくれた。
「爺さんは違うのか?」
「えぇ、私めはエロ……ごほん、ギャルゲに転生させて頂きましてな。幼馴染の女性と結婚した次第でございます」
「おい。今なんつった」
「それにしても、BLでございますか。そうしますと、相手方はぼっちゃまや御学友の皆様になるわけですな」
「おい。なんつった、なぁ」
爺さんは確かにエロゲ言ったよな? なんつー羨まし……いや待て、ここはBLじゃないのか?
「なぁ爺さん。もしかして、物語は変えられるのか?」
「……私めの幼馴染、いえ推しの彼女は、他のキャラから疎まれておりましてな。所謂、悪女というやつです」
「は、はぁ……」
いきなり何を言い出すのかと思えば。よくある年寄りの昔話ってやつか?
「彼女は死ぬことが確定しておりましたので、それを助けるために、私めは転生したわけですな」
死んでしまう? 可笑しい、さっきその幼馴染は嫁で、子供もいるって言っていたよな? 俺の疑問に答えるように、爺さんはひとつ頷き、ポケットから小さな写真入れを取り出した。
「護様が疑問に感じた通り。私めは彼女を死なせたくなかった。思ったことはございませんか? アニメ、ゲーム、漫画、小説、それらに登場する彼女らを助けたいと。死ぬ未来を回避したいと」
「……」
ないわけじゃない。そんなの、いくらでも考えたことはある。だけど所詮は二次元だ。自分のリアルに干渉することなんてないし、いつかは記憶の中に埋もれていく。
「そうして私めは彼女を救い、その未来を回避したまでは良かったのですがな。なにぶん彼女は位の高いお人だったもので、あの世界では結婚など出来なかったのです」
爺さんが写真入れを懐にしまう。懐かしげに細めた視線の先には、一体何が見えているのだろうか。
「私めは自分に与えられた力全てを使い、この世界に来たわけです。その際に助けて頂いたのが、先代当主様でございます。護様」
「ん?」
優しく、幸せに満ちた笑顔を、爺さんは俺に向けた。
「物語など変えられます。貴方がそれを望むのならば。つまり護様、ぼっちゃま二人を堕とすことも可能というわけです」
「いい話が台無しだな、おい」
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