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七月
夏だ! 海だ! 無人島だ!? その7
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太刀根と猫汰を連れて鏡華ちゃんのところへ戻ると、一体どこから調達してきたのかわからない丸太が、ゴロゴロと砂浜に転がっていた。
「お、御竿。太刀根と猫汰も一緒か」
「森で合流してさ。鏡華ちゃんこそ、こんなにたくさんどうするつもり?」
俺は抱えていた蔓を砂浜に置くと、その立派な丸太にそっと触れる。皮がぽろぽろと剥がれ落ちるが、中までは腐ってないのか結構硬い。
「これを柱にして、簡単に寝床を作ろうと思ってな。ここから出るために船を作るにしろ、助けを待つにしろ、野晒しはよくねぇ。それに」
鏡華ちゃんがちらりと視線をやった先。顔色のよくないセンパイが、何を言うでもなく、静かに焚き火を見つめていた。死にそうな目は、さながらさっき食べたイワシを思い出させた。
「終の体調もよくねぇ。あのままじゃ大変なことになる。早いとこ休ませてやらねぇとな」
その“大変なこと”が何かはわならないが、鏡華ちゃんが言うのだ。なら早いとこ休ませたほうがいいに決まってる。
「で。御竿、葉っぱは?」
「へ、葉っぱ? ……あ」
そういや言ってた。蔓と葉っぱ集めてこいって。すっかり忘れていた俺は「ごめん!」と鏡華ちゃんに頭を下げ、それからすぐに「取ってくる!」と再び森へと走り出した。
「護! 俺も一緒に」
「太刀根、おめぇはその丸出しのやつをなんとかしろ」
「え? あ、あぁ!?」
何も着ていない太刀根の声が砂浜に響くのを背に、俺はまたあの森へと入っていった。
さっきはそれほど思わなかったが、この森、日光が入らないくらい木々が生い茂り、膝丈まで雑草が伸び切っている。もちろん足元は悪く、すぐに草に足を取られて転びそうになった。
「奥は行かないほうが懸命だな……」
いくら俺が主人公、御竿護だとしても、危険に合わない保証などどこにもない。いやむしろ逆かもしれない。主人公だからこそ、ヤバい目に合うことも考えられるのだ。
恐るべし、主人公補正。
「お、これ良さそうだな」
俺より少し低いくらいの草木を見つけ、その葉っぱを物色する。某映画で傘に使われてそうな大きなそれは、鏡華ちゃんの求める葉っぱにはばっちりだろう。
再びカッターで、葉の根本を少しずつ切っていく。茎から水が滴り、それが微かに手についたようだが、ベタベタするわけでもなし、服が溶ける様子もなし。気にせず何枚か葉を切り終えた。
「よしよし。戻るか……っ!?」
振り返った俺は、森の中からこちらを見る四つの目に気づき、小さく息を呑んだ。ギラギラと光るそれは、どう見ても人間のそれじゃない。
「はは……。いやいや、俺主人公だし? 補正で死ぬわけない……、ない、よな?」
暗闇から出てきたそれは、涎をだらだらと垂らしている二匹の狼だった。黒毛と白毛で、野生の割に毛並みがいい。初めて見る狼に、俺は「ひっ」とその場にへたり込んだ。
「グル、グルルル」
「ま、待て待て。俺美味くねぇし。だから、ほら、しっしっ」
言葉なぞ通じるはずもなし。
動けない俺に狙いをつけるなんて簡単だ。狼が左右からそれぞれ飛びかかってきた!
「うわぁ!」
頭を抱えて俺は小さく縮こまった! 前世もロクでもない死に方だったが、今生もロクでもない生き方だった。あぁ、せめて家族には挨拶くらい……ん? 変だな、痛くないぞ?
「あ、あれ?」
恐る恐る目を開けてみれば、二匹の狼は、俺を襲うどころか、むしろ側に座り込むと、俺の頬をザラザラとした舌で舐めてきたのだ。
「は?」
左右から交互に顔を舐められるたびに、獣臭さが鼻をついた。しかしこいつらは俺を襲う気などないようで、尻尾をパタパタとご機嫌に振っている。
「え。まじ、なんで……?」
とりあえず食われる様子はないようだし、俺は息をひとつ吐いて立ち上がろうとし――
「ぅ、わあ!」
黒狼が俺を押し倒すように上に乗ってきた。それなりにデカい狼だ、結構重い。
「や、やっぱり食うのか!? やめろ、食われるつもりはねぇよ!」
フカフカの毛に手を当て、必死にどけようと押し返す。だが動かないどころか、白狼のほうも調子に乗るように俺の首筋、耳を舐めてくる。
「やめ、やめろって! つか、お前ら雄かよ! ん、雄……。雄!?」
まさか。まさかまさかまさか!?
「敵は人間だけじゃない……?」
「グルルル!」
そうだと言わんばかりに喉を鳴らした黒狼を見て、こいつらは違った意味で食おうとしているのだと俺は気づいた。
「お、御竿。太刀根と猫汰も一緒か」
「森で合流してさ。鏡華ちゃんこそ、こんなにたくさんどうするつもり?」
俺は抱えていた蔓を砂浜に置くと、その立派な丸太にそっと触れる。皮がぽろぽろと剥がれ落ちるが、中までは腐ってないのか結構硬い。
「これを柱にして、簡単に寝床を作ろうと思ってな。ここから出るために船を作るにしろ、助けを待つにしろ、野晒しはよくねぇ。それに」
鏡華ちゃんがちらりと視線をやった先。顔色のよくないセンパイが、何を言うでもなく、静かに焚き火を見つめていた。死にそうな目は、さながらさっき食べたイワシを思い出させた。
「終の体調もよくねぇ。あのままじゃ大変なことになる。早いとこ休ませてやらねぇとな」
その“大変なこと”が何かはわならないが、鏡華ちゃんが言うのだ。なら早いとこ休ませたほうがいいに決まってる。
「で。御竿、葉っぱは?」
「へ、葉っぱ? ……あ」
そういや言ってた。蔓と葉っぱ集めてこいって。すっかり忘れていた俺は「ごめん!」と鏡華ちゃんに頭を下げ、それからすぐに「取ってくる!」と再び森へと走り出した。
「護! 俺も一緒に」
「太刀根、おめぇはその丸出しのやつをなんとかしろ」
「え? あ、あぁ!?」
何も着ていない太刀根の声が砂浜に響くのを背に、俺はまたあの森へと入っていった。
さっきはそれほど思わなかったが、この森、日光が入らないくらい木々が生い茂り、膝丈まで雑草が伸び切っている。もちろん足元は悪く、すぐに草に足を取られて転びそうになった。
「奥は行かないほうが懸命だな……」
いくら俺が主人公、御竿護だとしても、危険に合わない保証などどこにもない。いやむしろ逆かもしれない。主人公だからこそ、ヤバい目に合うことも考えられるのだ。
恐るべし、主人公補正。
「お、これ良さそうだな」
俺より少し低いくらいの草木を見つけ、その葉っぱを物色する。某映画で傘に使われてそうな大きなそれは、鏡華ちゃんの求める葉っぱにはばっちりだろう。
再びカッターで、葉の根本を少しずつ切っていく。茎から水が滴り、それが微かに手についたようだが、ベタベタするわけでもなし、服が溶ける様子もなし。気にせず何枚か葉を切り終えた。
「よしよし。戻るか……っ!?」
振り返った俺は、森の中からこちらを見る四つの目に気づき、小さく息を呑んだ。ギラギラと光るそれは、どう見ても人間のそれじゃない。
「はは……。いやいや、俺主人公だし? 補正で死ぬわけない……、ない、よな?」
暗闇から出てきたそれは、涎をだらだらと垂らしている二匹の狼だった。黒毛と白毛で、野生の割に毛並みがいい。初めて見る狼に、俺は「ひっ」とその場にへたり込んだ。
「グル、グルルル」
「ま、待て待て。俺美味くねぇし。だから、ほら、しっしっ」
言葉なぞ通じるはずもなし。
動けない俺に狙いをつけるなんて簡単だ。狼が左右からそれぞれ飛びかかってきた!
「うわぁ!」
頭を抱えて俺は小さく縮こまった! 前世もロクでもない死に方だったが、今生もロクでもない生き方だった。あぁ、せめて家族には挨拶くらい……ん? 変だな、痛くないぞ?
「あ、あれ?」
恐る恐る目を開けてみれば、二匹の狼は、俺を襲うどころか、むしろ側に座り込むと、俺の頬をザラザラとした舌で舐めてきたのだ。
「は?」
左右から交互に顔を舐められるたびに、獣臭さが鼻をついた。しかしこいつらは俺を襲う気などないようで、尻尾をパタパタとご機嫌に振っている。
「え。まじ、なんで……?」
とりあえず食われる様子はないようだし、俺は息をひとつ吐いて立ち上がろうとし――
「ぅ、わあ!」
黒狼が俺を押し倒すように上に乗ってきた。それなりにデカい狼だ、結構重い。
「や、やっぱり食うのか!? やめろ、食われるつもりはねぇよ!」
フカフカの毛に手を当て、必死にどけようと押し返す。だが動かないどころか、白狼のほうも調子に乗るように俺の首筋、耳を舐めてくる。
「やめ、やめろって! つか、お前ら雄かよ! ん、雄……。雄!?」
まさか。まさかまさかまさか!?
「敵は人間だけじゃない……?」
「グルルル!」
そうだと言わんばかりに喉を鳴らした黒狼を見て、こいつらは違った意味で食おうとしているのだと俺は気づいた。
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