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五月

GWは引きこもっていたかった! その7

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 会長は俺と奴(双子弟のことだ)のことを顎に手をやりながら愉しそうに眺め、鼻を軽く鳴らすと、

「全く。護くん、オレだけでは飽き足らず、ソレにまで手を出すとは……」
「いや、違うんすけど。何から何まで違うんすけど」

 弟が乗っているせいで説得力も何もあったもんじゃないが、しかし断言は出来る。俺は早く帰りたいと。しかし弟はそんな俺とは反対に、手錠をかけた俺の手の上で腰をくねらせながら、

「ん……ねぇ、壱も早くこっち来て……? 今日は三人で愉しも?」
「やめろ! 俺は断固拒否する! てかなんだ、今日って! いつも二人でナニしてんだ!」

 魂の叫びのように、俺は部屋中に響き渡るほどの声量で叫んだ。会長は「全く……」と呆れながらも、弟の頼みとあれば断れないのか、俺たちにゆっくりと近づいてきて――

「いいかげんにしないか」

と弟の首根っこを掴んで引き剥がした。もちろん剥がされた弟は「なんで!? 離して!」と暴れるが、俺はそれよりも、会長が助けてくれるとは思っておらず、ただ呆然と二人のやり取りを眺めていた。

「終。オレは彼のことに関して、誰の手を借りるつもりはない。いくら貴様であろうとも、だ」
「は、壱……」

 助けてくれたように見せかけて、やっぱりなんか違う気がする。いや、今は会長に感謝するのが吉、か?

「それにオレは、このようなやり方は好かん。強制的に従わせるのは簡単だ。だが、あちらから懇願し、乞う姿を見るのがまた愉しいのだ」

 前言撤回だ。やはりこいつはただの変態だった! ドン引きするオレに構うことなく、センパイは名残惜しげに「でも」と会長を反抗的に見上げたのだが。

「終」

 鶴の一声とはまさにこれ。黙ってしまった弟を離してから、会長は「すまなかったね」と俺の手錠を両手で持つと、バキッというヤバい音と共に外してくれた(壊したとも言う)。

「どーもー……」

 人とは思えない技に、俺は背中に汗が吹き出すのを感じながら、なんとか作り笑いを浮かべて手首を擦った。多少赤くはなったが、傷にはならなさそうだ。

「じゃ、俺はこれで」

 何事もなかったように立ち上がり、そのまま出ていこうとして、

「待ちたまえ、護くん。折角、終がキミのために用意したんだ。食べていきたまえ」
「いや、センパイが用意したわけじゃ」
「何か言ったかね?」

と会長のヒヤリとする笑みを見せられては、俺は再びソファに座るしかなかった。だって会長こえぇんだよ!



 カチャカチャと食器の音が鳴る。俺の皿から。やはり金持ちの息子、テーブルマナーはばっちりなのか、微塵たりとも食器の音が鳴らない。ただの変態にも長所ってあるんだな(失礼)。

「そういえば護くん」
「はい」
「GWが明けたら中間考査なわけだが……。キミは勉強しているかな」
「中、間……?」

 なんのこっちゃと頭を傾げれば、会長は「やれやれ」と食器を優雅にテーブルへ戻した。

「覚えていないのか、ならば都合がいい。何、成績が悪くても補講を受ければいいだけのこと」
「赤点取ったら、壱が補講の講師をしてくれるんだよ。教え方も上手いし、立ち姿もカッコいいし、一回受けるとクセになるんだ!」
「……はぁ、終」

 会長が深いため息をついた理由はなんとなく察する。だけど俺にとっては、今だけ弟、いやセンパイに心の中で感謝を送った。
 あの会長、本当のことを伏せた上で俺に補講をするつもりだったな? 恐らく適当に言い訳でもつけて、マンツーマンでするのは目に見えている。そんな特別補講なんぞ、こっちから願い下げだ!

「まぁ、いい。とにかくそういうことだ、護くん。オレとしては、キミに勉学を教えることはやぶさかではないのだが……」
「いや。会長の手を煩わせるわけにもいかないんで、うん、俺、頑張りますわ」

 もちろん口から方便である。

「帰って勉強しますんで。ここいらでおいとまさせていただきます!」
「オレは補講をしてもなんら問題はないが……。クク、やはりキミはオレを愉しませてくれるようだ」
「あーあーあー! じゃ、さよならっす!」

 なんか会長言ってたか? いや、なんも言ってなかったわ!
 ちなみに帰りは、あのSPとやらが下まで送ってくれた。双子よりいかついはずのSPのほうが怖くなかったのは、きっと気のせいじゃない。
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