25 / 167
五月
GWは引きこもっていたかった! その5
しおりを挟む
「またいらっしゃい、可愛い子」
「御竿先輩! また学校で!」
うんざりした顔の俺に、あのサロンのお姉さんと下獄が声高々に何かを言っている。正直もう来る気もなければ、あんな格好をするつもりもない。
ビルの窓に映る自分は、よく見慣れた御竿護の姿で、それにどうしようもない安心感を覚えた。たかだか数時間のことだというのに、だ。
「はぁ……、帰ろ……」
流石にあの三人は家に帰っただろう。牧地もサロンに俺を送るなり「楽しかったわ」と足取り軽く先に帰ってしまったし。
俺のGWは一体なんだったんだろう。いや、まだ二日がある。あと二日間こそは家から出ずに、何があろうと、それこそ駄女神が連絡してきたとしても、絶対に出るものか。
けれどもやはりゲーム。簡単には帰らせてくれないらしい。
視線の先にいる銀髪の双子弟に、俺はそうだよなと思った。ハァハァと苦しそうに蹲っていて、普通ならここで声でもかけるべきなのだろう。だが、俺は素知らぬフリをしてくるりと反対方向へ進路を変えた。
「うっ、ううっ、あぁ苦しい!」
「……」
なんだこのセンパイ、さっきより更に激しく息切れしだしたぞ。でも構わず無視だ無視! ここで折れたらセンパイの思う壺だぞ!
「ヒソヒソ、ヒソヒソ……あんなに苦しんでるのに」
「ねぇ……? ヒソヒソ、ヒソヒソ。知り合いなら助けてあげればいいのに」
なんだろう、おばさまがたからの視線が痛い。けれど負けるわけには……。
「うわぁぁああ、あぁ、痛い! あぁすごく痛い!」
「苦しいのか痛いのか、どっちなんだよ!」
しまった、つい声をかけてしまった。
「聞こえてるなら、早く声、かけなよね! すごく苦しかったんだから!」
「その割に元気デスネ。じゃ、俺はこれで」
「ちょ、ちょっと待ってって!」
足早に去ろうとする俺。その腰に手を回してなんとか引き止めようとするセンパイ。ずるずると引きずる様は、どう見ても俺のほうが悪者だ。
「離してくださいって! 俺は早く帰って見たいアニメがあるんですから!」
「そんなアニメよりボクに構ってよ!」
「うるせぇ! 早く離せ!」
既に敬語を使うのも忘れて、俺は更に力を込めて一歩一歩、確実に進んでいく。これじゃいつ家に着くのか予想すら出来ないが、それでも進むしかない。
「頼むよ、本当に辛いんだ」
「あ? 辛い?」
「辛いだよ! いったいどういう聞き間違いしてるのさ。字は一緒かもしれないけど、意味全然違うよ!?」
「うるせぇ、テキスト的には一緒だ」
「テキストって何!? ボクにもわかるように説明してよ!」
もちろん説明してやる義理はない。そうして百メートルほど歩いたところで、センパイがまた激しく咳込みだした。
「ちょっとセンパイ」
「うっ、ゲホッゲホッ。ガハッ」
「センパイ……?」
さっきは元気だったはずのセンパイが、顔面蒼白になっている。え、これまじ?
「だ、大丈夫っすか? そうだ、薬があるとか言ってませんでした?」
「わずれだ」
「は?」
「だがら、わずれだんだっでば。うぅ、だがらおぐっでぼじいんだっで……」
鼻水やら涙やら、しまいには白かったはずの顔まで真っ赤にして、センパイは恥をしのぶようにして懇願してきた。まぁ、俺も鬼ではないし(観手には散々、鬼やら悪魔やら言われているが)。
俺は仕方なくセンパイに背を向けて屈み「ん」と乗れと顎で示した。だが、センパイは何が気に食わないというのか、一向に乗る気配がない。
「センパイ?」
「お姫様抱っこがいい」
「誰がするか!」
「壱はしてくれるよ!」
「家に帰ったらたらふくやってもらえよ! てか何してんだよ、お前らは!」
それでもグズるセンパイを半ば強引に背負って、俺は改めて帰路へとついた。あぁ、周囲からの視線が痛い……。
「御竿先輩! また学校で!」
うんざりした顔の俺に、あのサロンのお姉さんと下獄が声高々に何かを言っている。正直もう来る気もなければ、あんな格好をするつもりもない。
ビルの窓に映る自分は、よく見慣れた御竿護の姿で、それにどうしようもない安心感を覚えた。たかだか数時間のことだというのに、だ。
「はぁ……、帰ろ……」
流石にあの三人は家に帰っただろう。牧地もサロンに俺を送るなり「楽しかったわ」と足取り軽く先に帰ってしまったし。
俺のGWは一体なんだったんだろう。いや、まだ二日がある。あと二日間こそは家から出ずに、何があろうと、それこそ駄女神が連絡してきたとしても、絶対に出るものか。
けれどもやはりゲーム。簡単には帰らせてくれないらしい。
視線の先にいる銀髪の双子弟に、俺はそうだよなと思った。ハァハァと苦しそうに蹲っていて、普通ならここで声でもかけるべきなのだろう。だが、俺は素知らぬフリをしてくるりと反対方向へ進路を変えた。
「うっ、ううっ、あぁ苦しい!」
「……」
なんだこのセンパイ、さっきより更に激しく息切れしだしたぞ。でも構わず無視だ無視! ここで折れたらセンパイの思う壺だぞ!
「ヒソヒソ、ヒソヒソ……あんなに苦しんでるのに」
「ねぇ……? ヒソヒソ、ヒソヒソ。知り合いなら助けてあげればいいのに」
なんだろう、おばさまがたからの視線が痛い。けれど負けるわけには……。
「うわぁぁああ、あぁ、痛い! あぁすごく痛い!」
「苦しいのか痛いのか、どっちなんだよ!」
しまった、つい声をかけてしまった。
「聞こえてるなら、早く声、かけなよね! すごく苦しかったんだから!」
「その割に元気デスネ。じゃ、俺はこれで」
「ちょ、ちょっと待ってって!」
足早に去ろうとする俺。その腰に手を回してなんとか引き止めようとするセンパイ。ずるずると引きずる様は、どう見ても俺のほうが悪者だ。
「離してくださいって! 俺は早く帰って見たいアニメがあるんですから!」
「そんなアニメよりボクに構ってよ!」
「うるせぇ! 早く離せ!」
既に敬語を使うのも忘れて、俺は更に力を込めて一歩一歩、確実に進んでいく。これじゃいつ家に着くのか予想すら出来ないが、それでも進むしかない。
「頼むよ、本当に辛いんだ」
「あ? 辛い?」
「辛いだよ! いったいどういう聞き間違いしてるのさ。字は一緒かもしれないけど、意味全然違うよ!?」
「うるせぇ、テキスト的には一緒だ」
「テキストって何!? ボクにもわかるように説明してよ!」
もちろん説明してやる義理はない。そうして百メートルほど歩いたところで、センパイがまた激しく咳込みだした。
「ちょっとセンパイ」
「うっ、ゲホッゲホッ。ガハッ」
「センパイ……?」
さっきは元気だったはずのセンパイが、顔面蒼白になっている。え、これまじ?
「だ、大丈夫っすか? そうだ、薬があるとか言ってませんでした?」
「わずれだ」
「は?」
「だがら、わずれだんだっでば。うぅ、だがらおぐっでぼじいんだっで……」
鼻水やら涙やら、しまいには白かったはずの顔まで真っ赤にして、センパイは恥をしのぶようにして懇願してきた。まぁ、俺も鬼ではないし(観手には散々、鬼やら悪魔やら言われているが)。
俺は仕方なくセンパイに背を向けて屈み「ん」と乗れと顎で示した。だが、センパイは何が気に食わないというのか、一向に乗る気配がない。
「センパイ?」
「お姫様抱っこがいい」
「誰がするか!」
「壱はしてくれるよ!」
「家に帰ったらたらふくやってもらえよ! てか何してんだよ、お前らは!」
それでもグズるセンパイを半ば強引に背負って、俺は改めて帰路へとついた。あぁ、周囲からの視線が痛い……。
1
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
触らせないの
猫枕
恋愛
そりゃあ親が勝手に決めた婚約だもの。
受け入れられない気持ちがあるのは分かるけど、それってお互い様じゃない?
シーリアには生まれた時からの婚約者サイモンがいる。
幼少期はそれなりに良好な関係を築いていた二人だったが、成長するにつれサイモンはシーリアに冷たい態度を取るようになった。
学園に入学するとサイモンは人目を憚ることなく恋人リンダを連れ歩き、ベタベタするように。
そんなサイモンの様子を冷めた目で見ていたシーリアだったが、ある日偶然サイモンと彼の友人が立ち話ししているのを聞いてしまう。
「結婚してもリンダとの関係は続ける。
シーリアはダダでヤれる女」
心底気持ち悪いと思ったシーリアはサイモンとの婚約を解消して欲しいと父に願い出るが、毒親は相手にしない。
婚約解消が無理だと悟ったシーリアは
「指一本触らせずに離婚する」
ことを心に決める。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる