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一ノ瀬紅羽の場合
43話
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処置室に入ってすぐ、僕は簡易ベッドに転がされた。仰向けにされたことで、身体の中心に籠もる熱が嫌でも見られることになり、僕は恥ずかしさで先生に背中を向けて体を丸くした。
「ひぐっ、や、そうすけ……」
「今来るから待っとけ。おら、採血すっから腕出せ」
「うぅっ」
颯介と離されて香りが薄くなったからか、昨日よりはまだ頭が回る。天井を向けている腕を、コートごと服を捲り上げて出せば、すぐにチクリとした痛みがきた。なお、僕は血が無理なタイプなので、採血されているのを見れる人間ではない。
「ひぅ……っ、ふ、ん」
「簡易検査と、それから精密検査用に二本取ったからな。もういいぞ、閉まっとけ」
「は、いっ」
腕を元に戻して、ひと息つく。首に巻いたままのマフラーから颯介の甘い香りがして、つい口元まで上げて大きく息を吸い込んだ。
「ふ、あっ」
身体が小刻みに震えて、下着が濡れる感触が広がる。まさかこんな場所で、先生の近くではしたない姿を見せてしまうなんて。最悪だ。消えたい。
先生には背中を向けたままだし、何をしているか、どんな顔をしているのかはわからない。でも、紙が擦れる音、金属同士が擦れる音が耐えずしている。お仕事中だろうか。
「紅羽さん……!」
勢いよく扉の開く音、続けて颯介の必死な声が聞こえた。今すぐ身体を向けて、名前を呼んで、抱きしめたいのに、股間に広がる冷たさでやけに冷静になって、それをするのに躊躇いが生まれる。
「颯介、遅かったな。簡易だが一応の結果が出た」
「何もしてませんよね」
「するか」
颯介がベッドの横に立っているのか、蛍光灯の明かりを遮るように影が落ちる。心配で伸ばされた手が腰に触れた瞬間、僕は「んっ」と足先に力が入り、びくびくとまた欲を吐き出した。
「ひぐっ、や、みない、で」
ぐすぐすと鼻をすすって、僕はさらに背中を丸くした。颯介のマフラーを噛んで、僕はもうこれ以上声が漏れないように必死に耐える。
「で、結果だが」
「この状態でよく言えますね」
「フェロモン自体はΩだ」
先生の言葉はやけにはっきりと聞こえた。
あ、僕、Ωになれたんだ。安心すると同時に「だが」と聞こえてきた先生の言葉に、緊張が走る。
「身体がΩになりきれていない」
そうなんだ。やっぱり完全なΩにはなれなかったんだ。胸の内に失望が広がり、頭は急激に冷えていく。なのに身体に熱は籠もったままで、この疼きを早く何とかしてほしかった。
「ま、詳しい話は後だな。Ω用の一番弱い薬やるから飲め」
「効くまでどれくらいかかります?」
「一時間もありゃ落ち着く」
後ろからそんな会話が聞こえてくるけれど、僕としては疼きをなんとかしたい気持ちのほうが大きい。でも颯介の身内のかたに、これ以上失礼な姿を見せたくない一心で理性を保っていた。
「紅羽さん、薬、飲めます?」
「……っ」
颯介の指が僕の髪に触れ、耳を出すように掻き分ける。それだけで身体がびくびくと動くのが嫌で嫌で、僕は声を押し殺して、また涙を零した。
「先生、ちょっと……」
「へいへい。鍵はかけとけ。三十分もしたらガキどもが帰ってくるから、声には気張っとけよ」
「あぁ……、はい」
扉が開く音、それからすぐにカチャンと金属音が響いた。さらに室内が少し薄暗くなったから、身体をなんとか動かして確認すれば、颯介がカーテンを閉めているところだった。
「颯介……」
気怠い身体を起こし、ぼーっとする頭を回転させて、僕は颯介に手を伸ばした。颯介はすぐに来てくれて、ベッドに腰かけ手を握り返してくれた。そのまま僕を引っ張り、暖かな腕の中へと迎えてくれる。
「颯介、そうすけっ」
縋るように、その広い背中に手を回す。首筋に顔を埋めて息を思いきり吸えば、待ち望んだ颯介の香りが巡り満たされた気持ちになる。
「紅羽さん、薬飲みましょう?」
「くすり……」
って、なんだっけ。上手く頭が回らない。それよりも早く颯介が欲しい。僕のナカを颯介ので満たして、いっぱいいっぱい、出してほしい。
「そ、すけ……、はやく」
少し身体を離してから、強請るように颯介の唇に自分のを重ねにいく。けれど、颯介が遮るよう間に手を入れてきて「駄目です」とやんわり拒んだ。拒否されたのが悲しくて、淋しくて「そうすけぇ……っ」と甘え声で名前を呼ぶ。
颯介は甘い笑顔を僕に向けてから、手元の何かをパキッと出した。白いカプセル型のそれを口に咥えて、そのまま僕の顎を軽く掬い上げ、唇を重ねてくれた。
「ん、ふ……ぅ」
舌先でそれを押し込まれ、カプセルが僕の口へと入り込む。そのまま喉の奥に飲み込めば、颯介が「いい子」と微笑んでから、一旦立ち上がり、隅にあるシンクでコップに水を入れて戻ってきた。
「そうす……」
今度は水を口に含んで、それを飲ませてくれる。それを何度か繰り返して、こくこくと僕の喉が鳴るのを確認してから、コップをまたシンクへと戻した。
「紅羽さん、どうしてほしいてすか?」
「そうすけの、おくに、いっぱいほしい……」
「んー。気持ちは嬉しいんですけど、流石にここでは……」
颯介はコートを脱いで、適当に机に置いた後、ベッドの前に膝をついた。
「帰ったらたくさん可愛がってあげますから、今はこれで我慢してくれませんか?」
「ぅ……?」
颯介にされるがままズボンを下着ごと取り払われ、まだ昂ったままの熱が外気に晒される。手をどこに置けばいいかわからず、そのあたりを彷徨っていると、颯介に促されるまま両肩に置く。
何をされるのだろうと不安で首を傾げていると、小さく震える僕の熱に、颯介が舌をゆっくりと這わせ始めた。
「ひぐっ、や、そうすけ……」
「今来るから待っとけ。おら、採血すっから腕出せ」
「うぅっ」
颯介と離されて香りが薄くなったからか、昨日よりはまだ頭が回る。天井を向けている腕を、コートごと服を捲り上げて出せば、すぐにチクリとした痛みがきた。なお、僕は血が無理なタイプなので、採血されているのを見れる人間ではない。
「ひぅ……っ、ふ、ん」
「簡易検査と、それから精密検査用に二本取ったからな。もういいぞ、閉まっとけ」
「は、いっ」
腕を元に戻して、ひと息つく。首に巻いたままのマフラーから颯介の甘い香りがして、つい口元まで上げて大きく息を吸い込んだ。
「ふ、あっ」
身体が小刻みに震えて、下着が濡れる感触が広がる。まさかこんな場所で、先生の近くではしたない姿を見せてしまうなんて。最悪だ。消えたい。
先生には背中を向けたままだし、何をしているか、どんな顔をしているのかはわからない。でも、紙が擦れる音、金属同士が擦れる音が耐えずしている。お仕事中だろうか。
「紅羽さん……!」
勢いよく扉の開く音、続けて颯介の必死な声が聞こえた。今すぐ身体を向けて、名前を呼んで、抱きしめたいのに、股間に広がる冷たさでやけに冷静になって、それをするのに躊躇いが生まれる。
「颯介、遅かったな。簡易だが一応の結果が出た」
「何もしてませんよね」
「するか」
颯介がベッドの横に立っているのか、蛍光灯の明かりを遮るように影が落ちる。心配で伸ばされた手が腰に触れた瞬間、僕は「んっ」と足先に力が入り、びくびくとまた欲を吐き出した。
「ひぐっ、や、みない、で」
ぐすぐすと鼻をすすって、僕はさらに背中を丸くした。颯介のマフラーを噛んで、僕はもうこれ以上声が漏れないように必死に耐える。
「で、結果だが」
「この状態でよく言えますね」
「フェロモン自体はΩだ」
先生の言葉はやけにはっきりと聞こえた。
あ、僕、Ωになれたんだ。安心すると同時に「だが」と聞こえてきた先生の言葉に、緊張が走る。
「身体がΩになりきれていない」
そうなんだ。やっぱり完全なΩにはなれなかったんだ。胸の内に失望が広がり、頭は急激に冷えていく。なのに身体に熱は籠もったままで、この疼きを早く何とかしてほしかった。
「ま、詳しい話は後だな。Ω用の一番弱い薬やるから飲め」
「効くまでどれくらいかかります?」
「一時間もありゃ落ち着く」
後ろからそんな会話が聞こえてくるけれど、僕としては疼きをなんとかしたい気持ちのほうが大きい。でも颯介の身内のかたに、これ以上失礼な姿を見せたくない一心で理性を保っていた。
「紅羽さん、薬、飲めます?」
「……っ」
颯介の指が僕の髪に触れ、耳を出すように掻き分ける。それだけで身体がびくびくと動くのが嫌で嫌で、僕は声を押し殺して、また涙を零した。
「先生、ちょっと……」
「へいへい。鍵はかけとけ。三十分もしたらガキどもが帰ってくるから、声には気張っとけよ」
「あぁ……、はい」
扉が開く音、それからすぐにカチャンと金属音が響いた。さらに室内が少し薄暗くなったから、身体をなんとか動かして確認すれば、颯介がカーテンを閉めているところだった。
「颯介……」
気怠い身体を起こし、ぼーっとする頭を回転させて、僕は颯介に手を伸ばした。颯介はすぐに来てくれて、ベッドに腰かけ手を握り返してくれた。そのまま僕を引っ張り、暖かな腕の中へと迎えてくれる。
「颯介、そうすけっ」
縋るように、その広い背中に手を回す。首筋に顔を埋めて息を思いきり吸えば、待ち望んだ颯介の香りが巡り満たされた気持ちになる。
「紅羽さん、薬飲みましょう?」
「くすり……」
って、なんだっけ。上手く頭が回らない。それよりも早く颯介が欲しい。僕のナカを颯介ので満たして、いっぱいいっぱい、出してほしい。
「そ、すけ……、はやく」
少し身体を離してから、強請るように颯介の唇に自分のを重ねにいく。けれど、颯介が遮るよう間に手を入れてきて「駄目です」とやんわり拒んだ。拒否されたのが悲しくて、淋しくて「そうすけぇ……っ」と甘え声で名前を呼ぶ。
颯介は甘い笑顔を僕に向けてから、手元の何かをパキッと出した。白いカプセル型のそれを口に咥えて、そのまま僕の顎を軽く掬い上げ、唇を重ねてくれた。
「ん、ふ……ぅ」
舌先でそれを押し込まれ、カプセルが僕の口へと入り込む。そのまま喉の奥に飲み込めば、颯介が「いい子」と微笑んでから、一旦立ち上がり、隅にあるシンクでコップに水を入れて戻ってきた。
「そうす……」
今度は水を口に含んで、それを飲ませてくれる。それを何度か繰り返して、こくこくと僕の喉が鳴るのを確認してから、コップをまたシンクへと戻した。
「紅羽さん、どうしてほしいてすか?」
「そうすけの、おくに、いっぱいほしい……」
「んー。気持ちは嬉しいんですけど、流石にここでは……」
颯介はコートを脱いで、適当に机に置いた後、ベッドの前に膝をついた。
「帰ったらたくさん可愛がってあげますから、今はこれで我慢してくれませんか?」
「ぅ……?」
颯介にされるがままズボンを下着ごと取り払われ、まだ昂ったままの熱が外気に晒される。手をどこに置けばいいかわからず、そのあたりを彷徨っていると、颯介に促されるまま両肩に置く。
何をされるのだろうと不安で首を傾げていると、小さく震える僕の熱に、颯介が舌をゆっくりと這わせ始めた。
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