3LOVE=6x x= (上)

天海 時雨

文字の大きさ
上 下
13 / 24

隠遁

しおりを挟む
「…………」

 シレーグナは今、カヌラ国にある森──この世界で一番大きい面積を誇る森、「フィランソの森林」の奥地の山小屋にいる。

「……いやぁ、まだあいつは子種撒き散らしてんのね? ばかねぇ」

 目の前で妙齢の美女が微笑んでいる。

「それぐらいしか能がないんだろう。外見は聡く見えるけどな」
「えぇ? あんなこと知っちゃえば外見なん──」
「あ、あの……」
「ん? どうかした?」
「お、お二人はどちら様で……?」

 シレーグナの座る木で出来た椅子を挟むようにして座っている男女。二人とも黒髪であり、よく見ればカトレル王の面影がどこかにあるような気もする。

「あぁ、あたしたちはあいつの愛人の子。私とこの──」
「トクラだ。よろしく」
「そ、トクラ。でまぁ腹違いの……兄? にあたる訳だけど、まぁ知らずに恋をした訳よ」
「え、えぇ……!?」
「だって俺ら戸籍認定されてねぇしな、いないも等しい存在ってわけ。そのいない存在が腹違いの妹と何しまいとカンケーねえし」
「え……共通する親は誰なんですか?」
「カトレル」
 
 臆することなく言った二人にシレーグナは瞠目した。

「…………」
「まぁそりゃそうなるよねぇ。父親が愛人二人も作ってたなんて」
「でも今は一人で娘が三人──」
「三番目も愛人よ。黒でしょ? 髪」
「え……ニーアリアンが?」
「あぁ、そうそうニーアリアン。あの子あたしの……えっと、姪?」
「じゃあ、マヤは私の……」
「義理の叔母ってやつかしらね」
「じゃあ私はなんで、金なんだろう……」
「染められてるだけよ」

 からからと笑うマヤ。その瞳には恨みなどという負の感情はなく、ただただ語るような瞳。そしてその瞳はダイアモンドのようにきらきらしており、その色は金に染まっている。

「…………」
「じゃあ俺は義理の叔父か?」
「そうなるわね。叔父叔母と暮らしてみる? シレーグナ」

 チャーミングに笑った。

「え……?」
「あんたの名前がシレーグナって分かったら、速攻引き戻されるわよ。それにあんたの戸籍はちゃんとあるから、私たちみたいにもなれないし」
「…………」

 ──嫌だ。戻りたくはない。少し汚れてしまったドレスの上で、シレーグナは拳を握りしめた。

「……まぁどっちにしろ、少しここで過ごしてみろ。名前はどうする?」
「……名前?」
「そ。ここで暮らす間のあんたの名前。こればっかりは私も決めたくないわ」
「なま、え……」
「…………」
「……ルカが、いいです」

 ──昔読んだ、冒険小説の主人公の名前。悪者を倒す格好良さに幼いながら憧れた。自分は程遠いけれど。

「そう。じゃあ、あなたは私の姪よ、ルカ。これからよろしく」
「……よろしく、マヤ」
「よろしくな、ルカ」

 なぜ、こんなことになったのだろう。
 その答えは、数時間前までさかのぼる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...