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隠遁
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「…………」
シレーグナは今、カヌラ国にある森──この世界で一番大きい面積を誇る森、「フィランソの森林」の奥地の山小屋にいる。
「……いやぁ、まだあいつは子種撒き散らしてんのね? ばかねぇ」
目の前で妙齢の美女が微笑んでいる。
「それぐらいしか能がないんだろう。外見は聡く見えるけどな」
「えぇ? あんなこと知っちゃえば外見なん──」
「あ、あの……」
「ん? どうかした?」
「お、お二人はどちら様で……?」
シレーグナの座る木で出来た椅子を挟むようにして座っている男女。二人とも黒髪であり、よく見ればカトレル王の面影がどこかにあるような気もする。
「あぁ、あたしたちはあいつの愛人の子。私とこの──」
「トクラだ。よろしく」
「そ、トクラ。でまぁ腹違いの……兄? にあたる訳だけど、まぁ知らずに恋をした訳よ」
「え、えぇ……!?」
「だって俺ら戸籍認定されてねぇしな、いないも等しい存在ってわけ。そのいない存在が腹違いの妹と何しまいとカンケーねえし」
「え……共通する親は誰なんですか?」
「カトレル」
臆することなく言った二人にシレーグナは瞠目した。
「…………」
「まぁそりゃそうなるよねぇ。父親が愛人二人も作ってたなんて」
「でも今は一人で娘が三人──」
「三番目も愛人よ。黒でしょ? 髪」
「え……ニーアリアンが?」
「あぁ、そうそうニーアリアン。あの子あたしの……えっと、姪?」
「じゃあ、マヤは私の……」
「義理の叔母ってやつかしらね」
「じゃあ私はなんで、金なんだろう……」
「染められてるだけよ」
からからと笑うマヤ。その瞳には恨みなどという負の感情はなく、ただただ語るような瞳。そしてその瞳はダイアモンドのようにきらきらしており、その色は金に染まっている。
「…………」
「じゃあ俺は義理の叔父か?」
「そうなるわね。叔父叔母と暮らしてみる? シレーグナ」
チャーミングに笑った。
「え……?」
「あんたの名前がシレーグナって分かったら、速攻引き戻されるわよ。それにあんたの戸籍はちゃんとあるから、私たちみたいにもなれないし」
「…………」
──嫌だ。戻りたくはない。少し汚れてしまったドレスの上で、シレーグナは拳を握りしめた。
「……まぁどっちにしろ、少しここで過ごしてみろ。名前はどうする?」
「……名前?」
「そ。ここで暮らす間のあんたの名前。こればっかりは私も決めたくないわ」
「なま、え……」
「…………」
「……ルカが、いいです」
──昔読んだ、冒険小説の主人公の名前。悪者を倒す格好良さに幼いながら憧れた。自分は程遠いけれど。
「そう。じゃあ、あなたは私の姪よ、ルカ。これからよろしく」
「……よろしく、マヤ」
「よろしくな、ルカ」
なぜ、こんなことになったのだろう。
その答えは、数時間前まで遡る。
シレーグナは今、カヌラ国にある森──この世界で一番大きい面積を誇る森、「フィランソの森林」の奥地の山小屋にいる。
「……いやぁ、まだあいつは子種撒き散らしてんのね? ばかねぇ」
目の前で妙齢の美女が微笑んでいる。
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「えぇ? あんなこと知っちゃえば外見なん──」
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「ん? どうかした?」
「お、お二人はどちら様で……?」
シレーグナの座る木で出来た椅子を挟むようにして座っている男女。二人とも黒髪であり、よく見ればカトレル王の面影がどこかにあるような気もする。
「あぁ、あたしたちはあいつの愛人の子。私とこの──」
「トクラだ。よろしく」
「そ、トクラ。でまぁ腹違いの……兄? にあたる訳だけど、まぁ知らずに恋をした訳よ」
「え、えぇ……!?」
「だって俺ら戸籍認定されてねぇしな、いないも等しい存在ってわけ。そのいない存在が腹違いの妹と何しまいとカンケーねえし」
「え……共通する親は誰なんですか?」
「カトレル」
臆することなく言った二人にシレーグナは瞠目した。
「…………」
「まぁそりゃそうなるよねぇ。父親が愛人二人も作ってたなんて」
「でも今は一人で娘が三人──」
「三番目も愛人よ。黒でしょ? 髪」
「え……ニーアリアンが?」
「あぁ、そうそうニーアリアン。あの子あたしの……えっと、姪?」
「じゃあ、マヤは私の……」
「義理の叔母ってやつかしらね」
「じゃあ私はなんで、金なんだろう……」
「染められてるだけよ」
からからと笑うマヤ。その瞳には恨みなどという負の感情はなく、ただただ語るような瞳。そしてその瞳はダイアモンドのようにきらきらしており、その色は金に染まっている。
「…………」
「じゃあ俺は義理の叔父か?」
「そうなるわね。叔父叔母と暮らしてみる? シレーグナ」
チャーミングに笑った。
「え……?」
「あんたの名前がシレーグナって分かったら、速攻引き戻されるわよ。それにあんたの戸籍はちゃんとあるから、私たちみたいにもなれないし」
「…………」
──嫌だ。戻りたくはない。少し汚れてしまったドレスの上で、シレーグナは拳を握りしめた。
「……まぁどっちにしろ、少しここで過ごしてみろ。名前はどうする?」
「……名前?」
「そ。ここで暮らす間のあんたの名前。こればっかりは私も決めたくないわ」
「なま、え……」
「…………」
「……ルカが、いいです」
──昔読んだ、冒険小説の主人公の名前。悪者を倒す格好良さに幼いながら憧れた。自分は程遠いけれど。
「そう。じゃあ、あなたは私の姪よ、ルカ。これからよろしく」
「……よろしく、マヤ」
「よろしくな、ルカ」
なぜ、こんなことになったのだろう。
その答えは、数時間前まで遡る。
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