上 下
14 / 21
グラスにまた、カクテルを

波、ブルー・ムーン

しおりを挟む
「ロングアイランド、美味しかった。また飲みたいな」

 バー『GAZE』から帰り、薄暗い夜道を歩く二人。

「気に入ったならよかった。俺も久しく作ってなかったから、うまく作れたか──咲?」

 急に立ち止まった咲の硬直した視線の先には、マンションの出入り口できょろきょろとあたりを見回す一人の女性──四十代後半にも見える。

「──あっ!」
「……っ」
「……咲、知り合い?」
「……継母ままはは

 小走りで近づいてくる女を、咲は避けようともしない。

「っ、お願いっ!」

 香る香水に、咲と翔は顔をしかめた。きつい匂いが空気に混じり、口呼吸を始める──いかにも、嫌味ったらしい。

「……来ないでほしいと言いましたよね」
「っ、お願い、お願いしますっ!」
「……私に頼るとは、落ちぶれたものですね」

 ──英子えいこは、今は亡き咲の母の親友女だ。少なくとも、咲は彼女が母の親友だとは認めていない──父の不倫相手だからだ。

「お願いっ、少しだけでいいのっ! だって、だってっ……!」
「……遺産の相続も私は放棄してあなたたちに譲りました。もうこれ以上お話しすることはありません」
「っ、咲ちゃ──」
「名前で呼ばないでくださいっ!!」

 咲が珍しく出した大きな声に、翔は少し驚いた。いつもは穏やかでおとなしくて──そんな感じなのに、と。

「……これ以上、私に関わらないでください。もう、十分でしょう? まさか、湯水のように──なんて、していないでしょう?」
「──っ、でも、でもねっ……!」
「……なんだか分かりませんけど、仮にも自分の娘のこと、金づるみたいに思わない方がいいですよ、継母さん」
「っあなたには関係ないでしょっ!」
「えぇ、関係ないですよ。俺も咲も、今も昔もこれからも」
「……帰ってください」
「…………」

 肩を落として、老女は去っていった。

「……ごめんね。変なところ見せちゃったね、ほんと」
「謝るくらいなら、泣くなよ」
「っ、ごめん、ごめんなさいっ……!」
「帰ろう? ちゃんと、話聞くから」

 震える肩を抱いて、鍵穴に鍵を差し込んだ。
 ──一体何人、彼女を追い詰める奴はいるんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...