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グラスにまた、カクテルを
波、ブルー・ムーン
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「ロングアイランド、美味しかった。また飲みたいな」
バー『GAZE』から帰り、薄暗い夜道を歩く二人。
「気に入ったならよかった。俺も久しく作ってなかったから、うまく作れたか──咲?」
急に立ち止まった咲の硬直した視線の先には、マンションの出入り口できょろきょろとあたりを見回す一人の女性──四十代後半にも見える。
「──あっ!」
「……っ」
「……咲、知り合い?」
「……継母」
小走りで近づいてくる女を、咲は避けようともしない。
「っ、お願いっ!」
香る香水に、咲と翔は顔をしかめた。きつい匂いが空気に混じり、口呼吸を始める──いかにも、嫌味ったらしい。
「……来ないでほしいと言いましたよね」
「っ、お願い、お願いしますっ!」
「……私に頼るとは、落ちぶれたものですね」
──英子は、今は亡き咲の母の親友だった女だ。少なくとも、咲は彼女が母の親友だとは認めていない──父の不倫相手だからだ。
「お願いっ、少しだけでいいのっ! だって、だってっ……!」
「……遺産の相続も私は放棄してあなたたちに譲りました。もうこれ以上お話しすることはありません」
「っ、咲ちゃ──」
「名前で呼ばないでくださいっ!!」
咲が珍しく出した大きな声に、翔は少し驚いた。いつもは穏やかでおとなしくて──そんな感じなのに、と。
「……これ以上、私に関わらないでください。もう、十分でしょう? まさか、湯水のように──なんて、していないでしょう?」
「──っ、でも、でもねっ……!」
「……なんだか分かりませんけど、仮にも自分の娘のこと、金づるみたいに思わない方がいいですよ、継母さん」
「っあなたには関係ないでしょっ!」
「えぇ、関係ないですよ。俺も咲も、今も昔もこれからも」
「……帰ってください」
「…………」
肩を落として、老女は去っていった。
「……ごめんね。変なところ見せちゃったね、ほんと」
「謝るくらいなら、泣くなよ」
「っ、ごめん、ごめんなさいっ……!」
「帰ろう? ちゃんと、話聞くから」
震える肩を抱いて、鍵穴に鍵を差し込んだ。
──一体何人、彼女を追い詰める奴はいるんだ。
バー『GAZE』から帰り、薄暗い夜道を歩く二人。
「気に入ったならよかった。俺も久しく作ってなかったから、うまく作れたか──咲?」
急に立ち止まった咲の硬直した視線の先には、マンションの出入り口できょろきょろとあたりを見回す一人の女性──四十代後半にも見える。
「──あっ!」
「……っ」
「……咲、知り合い?」
「……継母」
小走りで近づいてくる女を、咲は避けようともしない。
「っ、お願いっ!」
香る香水に、咲と翔は顔をしかめた。きつい匂いが空気に混じり、口呼吸を始める──いかにも、嫌味ったらしい。
「……来ないでほしいと言いましたよね」
「っ、お願い、お願いしますっ!」
「……私に頼るとは、落ちぶれたものですね」
──英子は、今は亡き咲の母の親友だった女だ。少なくとも、咲は彼女が母の親友だとは認めていない──父の不倫相手だからだ。
「お願いっ、少しだけでいいのっ! だって、だってっ……!」
「……遺産の相続も私は放棄してあなたたちに譲りました。もうこれ以上お話しすることはありません」
「っ、咲ちゃ──」
「名前で呼ばないでくださいっ!!」
咲が珍しく出した大きな声に、翔は少し驚いた。いつもは穏やかでおとなしくて──そんな感じなのに、と。
「……これ以上、私に関わらないでください。もう、十分でしょう? まさか、湯水のように──なんて、していないでしょう?」
「──っ、でも、でもねっ……!」
「……なんだか分かりませんけど、仮にも自分の娘のこと、金づるみたいに思わない方がいいですよ、継母さん」
「っあなたには関係ないでしょっ!」
「えぇ、関係ないですよ。俺も咲も、今も昔もこれからも」
「……帰ってください」
「…………」
肩を落として、老女は去っていった。
「……ごめんね。変なところ見せちゃったね、ほんと」
「謝るくらいなら、泣くなよ」
「っ、ごめん、ごめんなさいっ……!」
「帰ろう? ちゃんと、話聞くから」
震える肩を抱いて、鍵穴に鍵を差し込んだ。
──一体何人、彼女を追い詰める奴はいるんだ。
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