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四季折々に、挨拶を。
馬鹿が恋を釣る(?)
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「……うあああ! もう分かんないよ!!」
「勉強はしなくてはならないんです! ほら、どこが分からないんですか?」
「もう最初っからだよ! X座標はどこよ!?」
彼女たち以外誰もいない自習室。なぜこんなことになっているのかというと────。
***
「ごめん! 勉強教えて!」
「……は?」
「えー……」
手を合わせた凪沙の前で、流奈と海月が溜め息をついた。
「だってテスト近いし……」
「……しょうがないな……真面目にやってよ?」
学年最初のテストは始業式から二日後に行われる。そのテストには補習があり、もし補習にかかってしまうと一週間の間停部をくらい六時まで授業を受けなければならない。これまで凪沙はぎりぎりのところでどちらも避けてきた。
「……私、今日早く帰りたかったのに」
「ごめん、ほんと」
というわけで、今に至るのだ。
「……海月、大丈夫ですか?」
凪沙は知らないが、海月は今日少し体調が悪い。体育の授業がなくずっと座っていられたからいいものの、テンションは最悪レベルだ。
「うん……ごめん、終わったら起こして。寝たい」
「いいですよ」
唸っている凪沙を一瞥し、流奈はもう一度溜め息をついた。
「んー、X座標は求められたけど……」
「Y座標と点Pを通る式に代入するんです」
そうして問題を解いていくうち、海月の背中が上下し始めた。
「……解けた」
「はい、次は英語ですか」
「……海月寝ちゃったか」
「はい」
ノートを取り出し、目を伏せた。
「……自動詞と他動詞ですね。分かれば簡単です」
「だといいんだけど、ね……」
突如自習室の扉が開いた。
「あれ? 凪沙じゃん。……あ、え、えと……」
「藍咲さんね」
顔を出したのは理人と翔悟だ。
「ああ、先輩方も勉強ですか?」
「俺らは終わったから、たまにここでサボるの」
椅子を引き、腰掛けた。
「……あれ」
「起こさないであげてください。この馬鹿のせいで勉強会するはずだったんですけど、眠かったようで」
「りょーかい。理人、教えてやれよ。英語学年一位だろ」
「あのな、お前もだろ」
海月は相変わらず寝ている。
「……眠っ」
「お前ら揃って寝るなよ」
「最近寝るの遅いんだよ……」
「まあいいや。どこが分かんないの」
結局机に伏せることはなく、小説を読んでいた。
***
「……お、全問正解。やったじゃん」
「……なんか、疲れた」
「こっちも疲れましたよ」
皮肉げに言う流奈の横で、翔悟が小説を閉じ息を吐く。
「どした?」
「せめてヒロインは病気で死ぬラストを期待してた……悲しすぎる。ラストは泣きたくなる」
「翔悟の泣き顔見てみたいわ」
「アホか」
「……さて、そろそろ帰りましょうか」
熟睡している海月の肩を翔悟が揺らすと、すぐに彼女は起きた。
「……眠い」
「うん、ずっと寝てたよ。帰ろう?」
「…………」
「寝ないで? 寝るなら電車の中ね」
「…………」
とろんとした目のまま海月はぼーっとしているようだ。
「え、海月ちゃん雰囲気変わるね」
「名前で呼ばないでくんない?」
「ふ……翔悟も変わるな」
その後、凪沙と海月はそれぞれの電車の中、寝ていた。
「勉強はしなくてはならないんです! ほら、どこが分からないんですか?」
「もう最初っからだよ! X座標はどこよ!?」
彼女たち以外誰もいない自習室。なぜこんなことになっているのかというと────。
***
「ごめん! 勉強教えて!」
「……は?」
「えー……」
手を合わせた凪沙の前で、流奈と海月が溜め息をついた。
「だってテスト近いし……」
「……しょうがないな……真面目にやってよ?」
学年最初のテストは始業式から二日後に行われる。そのテストには補習があり、もし補習にかかってしまうと一週間の間停部をくらい六時まで授業を受けなければならない。これまで凪沙はぎりぎりのところでどちらも避けてきた。
「……私、今日早く帰りたかったのに」
「ごめん、ほんと」
というわけで、今に至るのだ。
「……海月、大丈夫ですか?」
凪沙は知らないが、海月は今日少し体調が悪い。体育の授業がなくずっと座っていられたからいいものの、テンションは最悪レベルだ。
「うん……ごめん、終わったら起こして。寝たい」
「いいですよ」
唸っている凪沙を一瞥し、流奈はもう一度溜め息をついた。
「んー、X座標は求められたけど……」
「Y座標と点Pを通る式に代入するんです」
そうして問題を解いていくうち、海月の背中が上下し始めた。
「……解けた」
「はい、次は英語ですか」
「……海月寝ちゃったか」
「はい」
ノートを取り出し、目を伏せた。
「……自動詞と他動詞ですね。分かれば簡単です」
「だといいんだけど、ね……」
突如自習室の扉が開いた。
「あれ? 凪沙じゃん。……あ、え、えと……」
「藍咲さんね」
顔を出したのは理人と翔悟だ。
「ああ、先輩方も勉強ですか?」
「俺らは終わったから、たまにここでサボるの」
椅子を引き、腰掛けた。
「……あれ」
「起こさないであげてください。この馬鹿のせいで勉強会するはずだったんですけど、眠かったようで」
「りょーかい。理人、教えてやれよ。英語学年一位だろ」
「あのな、お前もだろ」
海月は相変わらず寝ている。
「……眠っ」
「お前ら揃って寝るなよ」
「最近寝るの遅いんだよ……」
「まあいいや。どこが分かんないの」
結局机に伏せることはなく、小説を読んでいた。
***
「……お、全問正解。やったじゃん」
「……なんか、疲れた」
「こっちも疲れましたよ」
皮肉げに言う流奈の横で、翔悟が小説を閉じ息を吐く。
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「せめてヒロインは病気で死ぬラストを期待してた……悲しすぎる。ラストは泣きたくなる」
「翔悟の泣き顔見てみたいわ」
「アホか」
「……さて、そろそろ帰りましょうか」
熟睡している海月の肩を翔悟が揺らすと、すぐに彼女は起きた。
「……眠い」
「うん、ずっと寝てたよ。帰ろう?」
「…………」
「寝ないで? 寝るなら電車の中ね」
「…………」
とろんとした目のまま海月はぼーっとしているようだ。
「え、海月ちゃん雰囲気変わるね」
「名前で呼ばないでくんない?」
「ふ……翔悟も変わるな」
その後、凪沙と海月はそれぞれの電車の中、寝ていた。
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