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本編
おはよう
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「……くしゅっ」
朝。気温が低いためか、朝からくしゃみを一つした翔悟。二月の気温は、起きたばかりの体には冷たい──外は、一面の銀世界だ。まだ雪も降っている。
「ん……」
「……おっと」
海月を起こさないように起き上がりながら、そっと毛布をかけて部屋を出た。
「あぁー、おはよう、彼氏さん」
「……一応、あんたの弟なんだけど」
朝からニヤニヤと笑われる──それもそのはず、アンナはあの写真を持っている。
「めっちゃ仲良いね、翔悟と海月ちゃん」
「……急になんだよ、気持ち悪い」
英里奈の淹れた紅茶をすすりながら、目を細める。
「添い寝ー」
「ぶふっ……!! おい、姉貴っ!」
「大丈夫よ、拡散はしないからっ! それに親も公認なんだしっ」
「そういう問題じゃねーよっ!」
かちゃんとカップを置いて、アンナのスマートフォンを奪うべく小走りに走った翔悟。
「あはははっ、耳まで真っ赤っか! かーわいいっ!」
「うるさいっ」
「まぁまぁいいじゃないの。いやあ、久しぶりに萌えたわ」
「失せろオタク」
冷たい声。
「人の趣味を否定しないでよ。そういえば海月ちゃんは?」
「まだ寝てる」
「置いて来たの? もう、起こしてあげれば良かったのに」
唇をとがらせ、不満げに言ったアンナ。彼女は大層海月がお気に入りのようだ。
「いいじゃないの、せっかく安眠できているんだし。それに起きても寒いわ……今年は大雪かしらね」
カーテンを開け、窓の外を見つめた。
「ねぇねぇお母さん、雪だるま作ってもいい?」
「何言ってるの、風邪をひくわよ」
「オタクは勉強しとけ。オタク受験生」
「っさっきからオタクオタクうるっさい! んのリア充!」
「それ褒めてんの? ありがとー。可愛い彼女がいて幸せでーす」
先ほどまでのアンナと同じように口角を上げた翔悟。また紅茶に手をつけ始め、少し冷めて飲みやすくなったのか一気に飲み始めた。
「っ、嫌味かっ!」
思わず叫んだアンナ。彼女には彼氏と呼べる存在はおらず、弟に先を越される形となってしまった──しかし、想い人はいるようだ。
「しーっ、海月が起きる」
「ぐぬぬ……」
「人にはそれぞれ魅力があるんだし、大丈夫よ。それをちゃんと見てくれる人を選べばいいの」
「そーそー」
「お母さんには賛成だけど、知ったように頷く翔悟が気にくわない……くーっ」
「まあ、海月ちゃんはちゃんと見てくれてるみたいだし……あら、おはよう、海月ちゃん」
目をこすりながらリビングへ降りて来た海月。
「おはようございまふ……くしゅっ」
「……寝起きさえも可愛いとは……よしお母さん、引き取ろう」
「なーに寝ぼけたこと言ってんのよ。海月ちゃん、寒くない? 外、まだ雪が降ってるから」
「そんなに……ふあぁ」
「あー、あーっ、萌える……」
「……あ、あはは……!?」
声では笑っているが、目は笑っていない。
「姉貴、海月が引いてる」
「ひっ引いてないですっ!」
「えっ、嘘っ! 引かないで海月ちゃん! ちょっとオタクなだけだから!!」
──海月は、知らずのうちに笑っていた。
しかし、嵐は彼女の知らないところで育っていた。
「……おはよう」
「……ん、はよ」
朝。気温が低いためか、朝からくしゃみを一つした翔悟。二月の気温は、起きたばかりの体には冷たい──外は、一面の銀世界だ。まだ雪も降っている。
「ん……」
「……おっと」
海月を起こさないように起き上がりながら、そっと毛布をかけて部屋を出た。
「あぁー、おはよう、彼氏さん」
「……一応、あんたの弟なんだけど」
朝からニヤニヤと笑われる──それもそのはず、アンナはあの写真を持っている。
「めっちゃ仲良いね、翔悟と海月ちゃん」
「……急になんだよ、気持ち悪い」
英里奈の淹れた紅茶をすすりながら、目を細める。
「添い寝ー」
「ぶふっ……!! おい、姉貴っ!」
「大丈夫よ、拡散はしないからっ! それに親も公認なんだしっ」
「そういう問題じゃねーよっ!」
かちゃんとカップを置いて、アンナのスマートフォンを奪うべく小走りに走った翔悟。
「あはははっ、耳まで真っ赤っか! かーわいいっ!」
「うるさいっ」
「まぁまぁいいじゃないの。いやあ、久しぶりに萌えたわ」
「失せろオタク」
冷たい声。
「人の趣味を否定しないでよ。そういえば海月ちゃんは?」
「まだ寝てる」
「置いて来たの? もう、起こしてあげれば良かったのに」
唇をとがらせ、不満げに言ったアンナ。彼女は大層海月がお気に入りのようだ。
「いいじゃないの、せっかく安眠できているんだし。それに起きても寒いわ……今年は大雪かしらね」
カーテンを開け、窓の外を見つめた。
「ねぇねぇお母さん、雪だるま作ってもいい?」
「何言ってるの、風邪をひくわよ」
「オタクは勉強しとけ。オタク受験生」
「っさっきからオタクオタクうるっさい! んのリア充!」
「それ褒めてんの? ありがとー。可愛い彼女がいて幸せでーす」
先ほどまでのアンナと同じように口角を上げた翔悟。また紅茶に手をつけ始め、少し冷めて飲みやすくなったのか一気に飲み始めた。
「っ、嫌味かっ!」
思わず叫んだアンナ。彼女には彼氏と呼べる存在はおらず、弟に先を越される形となってしまった──しかし、想い人はいるようだ。
「しーっ、海月が起きる」
「ぐぬぬ……」
「人にはそれぞれ魅力があるんだし、大丈夫よ。それをちゃんと見てくれる人を選べばいいの」
「そーそー」
「お母さんには賛成だけど、知ったように頷く翔悟が気にくわない……くーっ」
「まあ、海月ちゃんはちゃんと見てくれてるみたいだし……あら、おはよう、海月ちゃん」
目をこすりながらリビングへ降りて来た海月。
「おはようございまふ……くしゅっ」
「……寝起きさえも可愛いとは……よしお母さん、引き取ろう」
「なーに寝ぼけたこと言ってんのよ。海月ちゃん、寒くない? 外、まだ雪が降ってるから」
「そんなに……ふあぁ」
「あー、あーっ、萌える……」
「……あ、あはは……!?」
声では笑っているが、目は笑っていない。
「姉貴、海月が引いてる」
「ひっ引いてないですっ!」
「えっ、嘘っ! 引かないで海月ちゃん! ちょっとオタクなだけだから!!」
──海月は、知らずのうちに笑っていた。
しかし、嵐は彼女の知らないところで育っていた。
「……おはよう」
「……ん、はよ」
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