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本編
怖いんだよ、馬鹿
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「……流奈、何したんだろう」
「なんか急に連れてかれたね……海月は大丈夫?」
「うん、もう、気持ち悪くはないかな……」
さらさらとした長い髪を心配そうに撫でる翔悟。ドアの外では流奈が洗いざらい吐かされていることなど、二人は微塵も知らない。
「……心当たりなんか、あるわけないか」
「ない……こんなの、初めてだし。……手紙は、あったけど」
伊達に、『美少女三人組』のあだ名はついていない。三人の入学当初はロッカーに五、六通以上は封筒が入っていたし、呼び出しも数多かった。
「花は、なかったんだ。そっか」
「……うん」
ベッドに体育座りをして、膝の間に顔を埋めた。
「……流奈、絶対怒ってる」
「うん、あの子ならシュレッダーにかけそう……写真は撮ったから、証拠はあるし。そうしても大丈夫なんだけどね」
「はやいね……」
「ありがとう。……吐き気する?」
「しない……ちょっと頭、痛いだけ」
流奈の言った通り、海月のバッグには薬が入っていた。慣れた様子でそれらの中から薬を選定した保健室の先生──慣れていた。
「……ごめん。もう、教室行っていいから」
「行かない」
「昼休みに行くから、心配しないで。もう、八時だし」
「行かないって言ってるだろ」
「っ、でも」
「行かない。……何回言ったって、変わらない。大丈夫だ」
少しだけあげた顔を、また膝に埋めた。
糸が、緩んだ。
「……っ、なんで……っ!?」
強く爪を立てた細い腕に、涙が垂れた。
「……大丈夫、大丈夫」
「っ、花なんか、置かないでよっ、嫌だっ」
「うん、俺も嫌だ」
背中をさする手は海月のひび割れた欠片を集め、自分色に染めて、元に戻す。
もう何回も繰り返されたその甘いキャッチボールは、一方を一方色に染める。
「なんか急に連れてかれたね……海月は大丈夫?」
「うん、もう、気持ち悪くはないかな……」
さらさらとした長い髪を心配そうに撫でる翔悟。ドアの外では流奈が洗いざらい吐かされていることなど、二人は微塵も知らない。
「……心当たりなんか、あるわけないか」
「ない……こんなの、初めてだし。……手紙は、あったけど」
伊達に、『美少女三人組』のあだ名はついていない。三人の入学当初はロッカーに五、六通以上は封筒が入っていたし、呼び出しも数多かった。
「花は、なかったんだ。そっか」
「……うん」
ベッドに体育座りをして、膝の間に顔を埋めた。
「……流奈、絶対怒ってる」
「うん、あの子ならシュレッダーにかけそう……写真は撮ったから、証拠はあるし。そうしても大丈夫なんだけどね」
「はやいね……」
「ありがとう。……吐き気する?」
「しない……ちょっと頭、痛いだけ」
流奈の言った通り、海月のバッグには薬が入っていた。慣れた様子でそれらの中から薬を選定した保健室の先生──慣れていた。
「……ごめん。もう、教室行っていいから」
「行かない」
「昼休みに行くから、心配しないで。もう、八時だし」
「行かないって言ってるだろ」
「っ、でも」
「行かない。……何回言ったって、変わらない。大丈夫だ」
少しだけあげた顔を、また膝に埋めた。
糸が、緩んだ。
「……っ、なんで……っ!?」
強く爪を立てた細い腕に、涙が垂れた。
「……大丈夫、大丈夫」
「っ、花なんか、置かないでよっ、嫌だっ」
「うん、俺も嫌だ」
背中をさする手は海月のひび割れた欠片を集め、自分色に染めて、元に戻す。
もう何回も繰り返されたその甘いキャッチボールは、一方を一方色に染める。
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