1 / 10
prologue
しおりを挟む
暗い雲が垂れ込めるエルゾ峠。入り込むほど木々は密生し魔が潜み、旅人達にとっては難所となっている。最も峠が深くなる手前に、魔物を寄せつけないしっかりした造りの森小屋が見える。峠を越える彼らのために親切で建てられたものだが、今その中では、野蛮な男達による女への心無い暴虐が行われていた。
「まだか?」
「もうちょい……ぐ、うへへ」
「ちっ。おい、見張りは怠るなよ」
男達は、屈強な戦士達の一団と見える。服が脱ぎ散らかされているが、壁際に剣や槍が立てかけられ、なめし革の鎧や胸当ても並べられている。欲求に飢えていたであろう、そのような男ら数人に囲まれて、女ひとりでは成す術もなかった。賊徒か落ち武者か、素性はわからない。だが彼らは容赦なく蹂躙した。
「おう新入り。貴様らは見ているだけで満足なのか?」
暴漢どもの宴もたけなわ、頭目らしき男が部屋の隅にいる若衆に呼びかける。モヒカン頭の少年と、もう一人はそれより幾らか年長の、黒尽くめの服に黒の長髪。
「いいのかい、順番ならもうすぐ回るぜ。準備しとけや」
「ケッ、だがよう」モヒカンが前に出て言う。「なんでい、女ったって、そいつ三十路くらいのババァじゃねーすか? オレはいいっすよ!」
男達が笑う。長髪の方は窓際にもたれたまま反応しなかった。
「本当にいーのか? 峠越えるまで、もう女にありつけるチャンスなんざねーぞ。ここまでだって何日も我慢してたろ。こんな峠の真ん中で女捕まえられるなんざラッキーだぜぇ?」
「馬鹿だなぁ若いの、」行為中の男が振り返って、いやあらしい笑みで付け加えた。「まだ大人の味を知らんのかい。使い込まれてて、キモチイーゼー?!」
ハハハハ、とまた男達が薄汚い笑いを撒き散らせる。
「それに、見ろ」男は女の顔をぐいと持ち上げる。肩までのきれいで真っ直ぐな髪は乱され、男らの体液と汗とに塗れ見る影もないが、すっと整った目鼻の顔立ち。もしここが獣の宴会場などでなく、静かな家で、微笑みを湛えたこの人が目の前にいたなら、男は安らぎを感じることだろう。しかしこの男達は、そんな女の顔が苦痛と屈辱に歪む様に今は悦びを見い出していた。
「どうだ。なかなか、そそるだろう?」
「く、」モヒカンは、先輩達の言葉が胸に響いたのかベルトに手をあてて、また一歩前に出た。「や、やるやる! 次、オレだ!」ガチャガチャと音をさせて宴の中へ入っていくのであった。
長髪の方は、全く興味がないのか窓の外をぼんやり見つめたままだ。すでに欲望をたっぷりと放出し終えた頭目が、肌蹴させたままの格好で寄ってくる。
「おう貴様はあれか、もしかして、女に興味がないくちかな?」
窓の外は暗く、長髪の目が一体何を捉えているのか、頭目には皆目わかりもしなかった。
「フン、まあいいさ。しかし、俺のケツは貸さんからな。ヘヘ……お、もう一発やりたくなってきたなあ。ン?」
宴の方からどっと声が沸いた。
「お、お願いそれだけは――」女の懇願する声だ。
「ウ、ウー」モヒが絶頂に達する声。
「あ~あ。コイツ中に出しやがった」
「まーイーサ。コイツで最後だろ」
「って、あれお頭? もう一発やるつもりだったんすか?」
男どもの笑いが響く中に、女のすすり泣く声が細く聴こえる。長髪には、その声も耳に入っていないのか別の音に耳を済ませているといったふうだ。その目は虚ろで、流れていく怪しい雲よりもっと不吉な何かをその奥に映し出しているようであった。
「まだか?」
「もうちょい……ぐ、うへへ」
「ちっ。おい、見張りは怠るなよ」
男達は、屈強な戦士達の一団と見える。服が脱ぎ散らかされているが、壁際に剣や槍が立てかけられ、なめし革の鎧や胸当ても並べられている。欲求に飢えていたであろう、そのような男ら数人に囲まれて、女ひとりでは成す術もなかった。賊徒か落ち武者か、素性はわからない。だが彼らは容赦なく蹂躙した。
「おう新入り。貴様らは見ているだけで満足なのか?」
暴漢どもの宴もたけなわ、頭目らしき男が部屋の隅にいる若衆に呼びかける。モヒカン頭の少年と、もう一人はそれより幾らか年長の、黒尽くめの服に黒の長髪。
「いいのかい、順番ならもうすぐ回るぜ。準備しとけや」
「ケッ、だがよう」モヒカンが前に出て言う。「なんでい、女ったって、そいつ三十路くらいのババァじゃねーすか? オレはいいっすよ!」
男達が笑う。長髪の方は窓際にもたれたまま反応しなかった。
「本当にいーのか? 峠越えるまで、もう女にありつけるチャンスなんざねーぞ。ここまでだって何日も我慢してたろ。こんな峠の真ん中で女捕まえられるなんざラッキーだぜぇ?」
「馬鹿だなぁ若いの、」行為中の男が振り返って、いやあらしい笑みで付け加えた。「まだ大人の味を知らんのかい。使い込まれてて、キモチイーゼー?!」
ハハハハ、とまた男達が薄汚い笑いを撒き散らせる。
「それに、見ろ」男は女の顔をぐいと持ち上げる。肩までのきれいで真っ直ぐな髪は乱され、男らの体液と汗とに塗れ見る影もないが、すっと整った目鼻の顔立ち。もしここが獣の宴会場などでなく、静かな家で、微笑みを湛えたこの人が目の前にいたなら、男は安らぎを感じることだろう。しかしこの男達は、そんな女の顔が苦痛と屈辱に歪む様に今は悦びを見い出していた。
「どうだ。なかなか、そそるだろう?」
「く、」モヒカンは、先輩達の言葉が胸に響いたのかベルトに手をあてて、また一歩前に出た。「や、やるやる! 次、オレだ!」ガチャガチャと音をさせて宴の中へ入っていくのであった。
長髪の方は、全く興味がないのか窓の外をぼんやり見つめたままだ。すでに欲望をたっぷりと放出し終えた頭目が、肌蹴させたままの格好で寄ってくる。
「おう貴様はあれか、もしかして、女に興味がないくちかな?」
窓の外は暗く、長髪の目が一体何を捉えているのか、頭目には皆目わかりもしなかった。
「フン、まあいいさ。しかし、俺のケツは貸さんからな。ヘヘ……お、もう一発やりたくなってきたなあ。ン?」
宴の方からどっと声が沸いた。
「お、お願いそれだけは――」女の懇願する声だ。
「ウ、ウー」モヒが絶頂に達する声。
「あ~あ。コイツ中に出しやがった」
「まーイーサ。コイツで最後だろ」
「って、あれお頭? もう一発やるつもりだったんすか?」
男どもの笑いが響く中に、女のすすり泣く声が細く聴こえる。長髪には、その声も耳に入っていないのか別の音に耳を済ませているといったふうだ。その目は虚ろで、流れていく怪しい雲よりもっと不吉な何かをその奥に映し出しているようであった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる