虹色の薔薇が咲く場所は

如月 りん

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4章 ファイナルライブ

232話 雨

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結局、予定していた番組を放送するには
尺が足らなすぎるため代替え番組が
放送された。諸事情により放送未定と
いうテロップを添えて。

「でも放送されてたら蓮のギャップが
さらに人気に滑車をかけたかも
しれないのに」
「せっかく、怖がりを演じたのに」
「嘘つけ。俺の服至る所にシワ
つけといて」

俺と類は同じタイミングで家を出た。
蓮は買い物。俺は打ち合わせに。
蓮と別れて打ち合わせを終わらせて
千鶴さんに
「1時間くらい待っててくれますか」
と言われて散歩しようと外に出ると
雨が降っていた。

5分くらい歩いているとずぶ濡れの
中学生くらいの女の子が歩いていた。
ポケットに手を入れてどことなく暗く、来ている服の隙間から包帯が見える。

すれ違う人はチラチラと彼女を見て
素通り、あからさまに避ける人で
彼女に手を差し伸べる人はいなかった
(なんだろう、このデジャヴ)

「ねぇ、君。大丈夫?」
(今までの俺だったら
イメージのために声をかけたと思う。
でも今は純粋に助けたい)

肩を震わせた女の子は逃げようとして
ポケットから出した手を咄嗟に掴んだ。
「待って、俺は助けたいんだ」
彼女はギッと擬音が出るような
鋭い目で睨む。

「助けたい?嘘つけ!
憐れな私を助けて優越感に浸りたい
だけだろ!?」
(おっ、と。でもとんがりはともかく
元気はあるみたい)
「それは俺の行動を見てから判断して
よ。決めつけはしないでほしいな」

大人しくなった彼女をとりあえず
事務所へ連れて行く。
(誘拐にならないかな、俺。)

「こ、こんなところ、大丈夫なの!?」
「大丈夫、俺の仕事場だから」
「仕事場!?」
予備で持ってきたジャージを渡す。

「とりあえずシャワー浴びてきたら?
これ、俺ので悪いけど、まだ
着てないから」
渋々受け取った彼女にシャワー室の場所と自分のいる部屋を伝えた。

数十分後、明らかに顔に生色が
戻った彼女。
「ごめん、だいぶ大きいでしょ」
頷いて向かいの椅子に座る。

「あれ、類くん。さっき、
帰って・・・え?」
「な、七瀬さん。これは」
「誘拐!?」
「違います!!」
部屋に入ってきた七瀬さんに事情を
説明すると

「なるほど、とりあえず君の名前を
教えてくれる?僕は七瀬、和樹」
(かずきって名前だったんだ)

七瀬さんの声に今度は俺の方を向いた。
「蒼葉 類」
「・・・高橋 楓」
「それじゃあ、楓さん。
なにがあったか話してくれる?」

「勝手に連れてきておいて
尋問されないといけないの?」
「一応、僕は今類くんの保護者って立場
だからね。わかってくれる?」
「保護者、」
七瀬さんはスマホを一瞬見て

「ごめんね、急用ができて出てくるね。すぐに戻るよ」
ドアが閉まり七瀬さんが離れて行く。

「シャワーの前に手当てが先だったね。しみたでしょ。」
リュックからあれを取り出す。

長袖のジャージ、襟を立てて袖も
下ろしたまま。
(襟や袖の裏には傷があるんだろうな)
「やる?それとも自分でする?」
「自分でできる。でも腕は頼みたい」
「わかった」

彼から大きめの袋をもらい
踵をソファに乗せて脱脂綿で水分を
取る。
ガーゼを当て、包帯を巻く。
(一度取ったのを使うのも気持ち悪いし
ありがたい)
「あんた、用意いいんだな」
「うちにもよく怪我する人が
いるからね」
(うち、か)
視線を上に向けると彼はスマホを
いじりながら睨めっこしていた。









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