凶器は透明な優しさ

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初めてのサシのみ 後編

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フラグってやはり回収されるためにあるんだなって思いました。

「せんぱ~い。どうして一緒におしゃけ飲んでくれないんですか?」
「うんうん、一緒に飲んでるよ~でも姫乃さんはちょっとお水を飲もうね~?」
「ひゃい、わかりました!」

私の目の前には呂律が怪しくなった姫乃さんがいる。
あの後まぁ大丈夫っていうならいっか?と能天気に考えた私は、焼酎のロックをその後4杯ほど飲んでいた。
姫乃さんも同じものを頼みそうだったので、あんまりお酒くさくないフルーティーな香りのする焼酎を続けて飲んでいた。

すると姫乃さんは私よりも少しだけペースは遅いけど、やはり私と全くおんなじものを頼んで美味しそうに飲んでいた。

あの時に止めておけばよかったんだよなぁ~。
でも美味しそうに飲みながら「先輩次は何飲むんですか?次はどんな美味しいのを選ぶんですか?」ってクリクリした目を輝かさるもんでついつい飲み過ぎてしまったんだよね。
まぁそれが今の現状に繋がっているんだけど。

「ちょっとまって姫乃さん!それお水じゃなくてお酒!?」
「ふぇ?そんなことないです。お水の味しかしませんよ」
「いやいやそれは酔っ払っているからでしょ!ほらあなたが飲むのはこっちね?」

そういって姫乃さんの目の前にお水の入ったコップを置く。

「まだちょっとしか酔ってません!なのでまだ大丈夫です!」

酔っ払いって本当にこんな事を言うんだなぁ。
逆に冷静になってしまった頭でどうやって水を飲ませようかと思案する。

「うんうん分かった分かった。そうだ姫乃さんちょっとだけその焼酎飲ましてくれる?今飲んでるのよりさっき飲んでいたそっちの方が好みだったの」
「へっ!私の焼酎ですか!?」
「うん、それじゃあ貰うね?」

そういって私は姫乃さんのコップをサッと奪い取り一気に焼酎を飲み干した

「あぁ~ごめん!美味しくてつい飲み干しちゃった。代わりに私のをあげるね?」

そうして渡すのは先ほど頼んで置いたもう1つのお水だ。このお店はお水もお酒もおんなじコップで出されるので見た目上はわからない筈だ。

「先輩の飲みかけのお酒・・・」

あれっ、もしかして人が飲んだものは気になるタイプだったのかな?本当はまだ口をつけてないけど新しく頼んだ方が良いかな?

「あっやっぱり人の飲みかけは嫌だよね?ちょっと新しく頼むね」
「ちょっと待ってください!飲みます飲まさせてください。」

食い気味に滑舌良く飲むアピールをしてくる姫乃さんにビックリする。
まぁ気にしていないならそれで良いか。

「それじゃあどうぞ」
「はい、いただきます」

そういった姫乃さんはコップをじっと見つめた後、私の差し出したコップを両手で受け取りゆっくりとその小さなお口を近づけていった。

「・・・んくっんくっんくっ」

両手でもったコップのから透明な液体が、姫乃さんの綺麗な喉が動いて飲み込まれているところをじっと見つめる。

「はふぅ。とってもおいしいです~」

ただの水ということに気づかずに姫乃さんはとっても幸せそうな顔で美味しさを伝えてくる。

「うん、それは良かったよ。私はもう一杯頼むけど姫乃さんも私とおんなじやつを頼むよね?」
「はい!せんぱいとおんなじお酒を私もいただきます!」
「分かったよそれじゃあちょっとお手洗いにいっておく時に頼んでおくね」

そういって私は、店員さんにお水2つを頼んでからお手洗いに行き、席に戻る。

「そういえば姫乃さん?」
「なんですか?」
「今日は田中くんを落とすための作戦会議だったけど、そのことについて全然話せてないんだけど大丈夫?」

そうなのだ、あまりにも姫乃さんが美味しい美味しいと言いながらお酒やおつまみを食べてくれるので、思わず作戦会議のことを忘れて普通の雑談をしてしまっていたのだ。

「あぁ~作戦会議ですか・・・」
「もともとはそれが理由で一緒に飲んでるんだもんね?」
「・・・先輩は私と一緒に飲むのは、嫌・・・なんですか?」
「へっ?」

突然の質問に頭がパニックになってしまう。

「いやそんな事ないよ?でも作戦会議やらないならわざわざ私でなくても良いかなとは思ったけど」
「!やっぱり私と飲むのは面倒なんですね・・・」

グスっと言いながら涙目になる姫乃さん。あれっ!?おかしい!どうしてこうなったんだ?私はただ今日の目的を再確認しただけなのに。

「いやいや違う違う!私は姫乃さんと一緒にお酒を飲めて楽しいよ?」
「でも・・・。私は先輩と一緒にお酒を飲めて、普段はしてくれないようなお話をしてくれて、本当に嬉しいのに・・・。先輩はそうじゃなさそうです」
「そんな事ないって、そんな顔しないで?どうしたら笑ってくれるの?」
「・・・それじゃあ約束してくれますか?」

約束と聞いて少しドキッとしたが、姫乃さんがする約束だから金銭的なものでは無いはずだ。
ちょっとした約束をするだけで笑顔になってくれるのなら良いだろ。

「いいよ?どんな約束かな?」
「また私と飲んでくれますか?作戦会議とか関係なく?」

やっぱり可愛らしい約束だった。しかもそんな事約束なんてしてくれなくても誘ってくれたらいつでも一緒にしてあげるのに。

「うん、もちろん良いよ?約束ね?」
「はい約束です!」

ふぅ~。ようやく姫乃さんにいつもの笑顔が戻ってきた
恋する女の子の気持ちはよくわかんないな~、なんで作戦会議の話をしちゃダメなんだろ?
やっぱり恥ずかしいのかなあ?
まぁ今後は田中くんの話はしない方が無難なのかな?
とりあえず今さっきの出来事は姫乃さんが酔っ払っていることが原因な気はしているけど・・・

「そろそろお店でる?あっ!違うよ?そろそろお腹が一杯だし私も大分酔ってきたからなんだけどね!?」

あぶない危ない。もう一度姫乃さんの泣き虫スイッチが入ってはいけないとフォローを入れる。

「そうなんですね?先輩がそういうならそろそろでますか」
「うんそうしよ?出る前にお水飲んでから出よ?」
「は~い」

今度は素直にお水を飲んでくれるようだ。さっきは結構酔っていたけど、この感じなら大丈夫かな?

「それじゃあいけるかな?」
「はいお待たせしました」

そうしてレジで2人分の会計を済まして(今回はと言って姫乃さんの分も払って)少し涼しい外に出て行った

「は~涼しくて気持ちい~。姫乃さん大丈夫気持ち悪いとかない?」
「大丈夫ですよ~」
「そうよかった。姫乃さんの家ってどこらへん?」

大丈夫とは言いつつも先ほどの姫乃さんを見る限りあまり信用できない。タクシーで帰ってもらうのが無難だろう。
そう思って姫乃さんの家の場所を聞くと、姫乃さんはスマホを鞄から取り出して、ゆらゆら揺れる指でスマホの画面を何度かタッチする

「私の家はここですよ~?」

そう言って姫乃さんは先ほどまで操作していたスマホをこちらに差し出した

「う~んと、ここはどこかな~。・・・うん?」

よく見るとなんだか見覚えのある道とコンビニがスマホで表示されている。ちょっとスマホ触っても良い?と一声かけてから画面を縮小してみる

「やっぱり!姫乃さんの家って私の家のすぐ近くじゃん」
「そうだったんですか?」
「みたいだね。こんなに近かったのに全然逢わなかったなぁ~。近くのコンビニってあんまり使わなかったの?」
「えっと基本的にはスーパーで大体の買い物を済ませるようにしていたので、コンビニはほとんど使わなかったですね」

なるほど、それが理由か。私の朝ごはんと晩ご飯は最寄のコンビニで成り立っている。だからこれまで逢わなかったのが不思議だった。
だけど確かにコンビニを使わないなら会うことも無いものか。

「それじゃあ家まで送ってあげるね。」
「いえそんな気を使ってもらわなくても大丈夫ですよ?」
「だ~め。そんな酔っ払っている子を一人でなんて帰せないよ。それに家も近いんだから気にしないで」
「すみません・・・」
「それじゃあ帰ろ?」
「はい、よろしくお願いします」

そうして私たちは姫乃さんの家に向けて足を動かし始めた。
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