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喜びの婚約破棄

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バンッ!!

忙しい朝の時間だと言うのに、ノックもせずに執務室のドアを乱暴に開け放つ粗野な男が私に怒鳴り込んでくる。

「ヘレナ・ブルーム!本来私が座るべき場所に我が物顔で居座るお前にはもう我慢ならぬ!」

頭が痛いことに、自分の力量も満足に把握できていないこの男は私の婚約者のトーマス・ブライスという。

「そうですか。それで、どうしたらよろしいのでしょうか?」

呆れ返った私は大量に積まれている書類に目を通しながら、片手間で婚約者に質問をする。

「…即刻貴様の元いた場所に帰るがいい!その場所は私がいるべき場所だ!」

とんでもないことを言い放つ婚約者に、思わず視線を向けて聞き返す。

「それは…一体どういうことを意味しているのでしょうか?」

意味はわかっていはいるが、ことの重大さに再度確認をしてしまう。

「そんなことも分からないのか?婚約を破棄すると言っているのだ!さっさと実家に帰るがいい!」

そう言って私を睨みつけてくるトーマスに思わずため息をつく。

今回の婚約が一体何のために結ばれたのか全く理解していないこの男に、何を言ってやればいいのか頭を悩ませる。

私だって好きでこんな男と婚約を結んだわけではない。

お家の事情でしょうがなくこの男の領地までやってきて、無能なこの男の代わりに領地運営を行なっているのだ。

「そんなことを言っても、あなたの両親はそんな妄言は許さないでしょう?もう一度よくものを考えてからおっしゃってください」

一度頭を冷やしてこいという意味で告げた私の言葉に、トーマスは小物臭がする笑いを浮かべて胸を張って語る。

「確かに我が愚鈍な両親は婚約破棄には反対していた。だが!この領地をここまで大きくした祖父に現状を告げたところ大賛成をしていただいたわ!それもそうであろう、私のこの広大な領地を田舎からやってきた小娘が運営をするなど本来あってはならぬ事なのは一目瞭然である!次の領地運営は祖父の意思をしっかりと理解している私が行っていくべきだとおっしゃられたのだ!」

本気で私との婚約を破棄し、私を追い出そうとしているこの婚約者に最後の確認をする。

「本当に婚約を破棄されるのですか?」

自分の表情がかわらないように口元にめいいっぱい力を入れて尋ねる

「何度も言っているであろう。お前との婚約は破棄することは決定だ!」

その瞬間、私は思わず俯いてしまう。

悲しくてではない。

あまりにも嬉しすぎて抑えきれない喜びの表情を元婚約者に見せないためにだ。

数秒ほど喜びを噛み締めて表情を繕えるようになると、元婚約者に告げる。

「分かりました、それでは即刻実家に帰らさせて頂きます」

そうして、ついに私はこのバカ男から逃れることができた。
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