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2 頼りになる同期

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「いい加減そのサイズ合ってない服やめよーよ」

就業後、会社近くのコーヒーチェーン店。
コーヒーを片手に席に着いた途端、会社の同期である亜紀に言われて、優美は思わず目を瞬いた。

優実の就職活動はうまくいった、と思う。

地元から離れようと決めた高校3年生の時、姉が就職するであろう地元にUターンすることは避けようと決め、大学は就職に有利であろう経済学部に進んだ。東京でいくつかの面接を経て、自分の能力に見合った堅実な会社に営業補佐として雇われたとき、一番最初に頭に浮かんだのは、これで地元へ戻らないことに後ろ指をさされないですむ、という安堵感だった。

会社は役員含め100人足らずの工業用ポンプを扱う会社で、社風からか老若男女問わず穏やかな同僚が多く、とても風通しのいい働きやすい環境だ。優美の年度は同期が5人いるが、前年の定年退職者との兼ね合いで異例の多さだと聞いている。通常は1-2名ほどしか新規採用されないとか。

秘書課の亜紀とは入社当初から馬が合って仲良くしているが、社外の人と会う機会も多い秘書らしく亜紀は頭のてっぺんから足の爪先までいつも小綺麗にしている。流行りを取り入れるのもうまく、華やかな装いが得意だ。

「せっかく今から合コンに行くのに…その服じゃ優実の良さ半減、いや全滅」

「全滅……合コンて…異種業飲み会じゃん」

「飲み会という名の合コンに決まってるじゃないの」

ふふんと笑う亜紀は今日も相当可愛い。白の薄手のアンサンブルニットにパステルブルーのふんわりしたプリーツスカート、エナメルのパンプスを合わせた彼女はお化粧もぬかりなく確かにこのまま合コンに行っても決して浮かないだろう。

対して、優実が量販店で買った白ブラウスとグレーのパンツスーツは若干サイズが合わないことに気付いてはいるが頓着しないため、もう2年は着続けている。このスーツの魅力は、値段が安いこと、座っても下着を気にしなくていいこと、動きやすいこと、ただその点につきる。

亜紀は3ヶ月前に前の恋人と別れたばかり。肉食の彼女は別れてからすぐ、積極的にいくつかの会社の若手有志で開かれる『異種業飲み会』に参加していて今や社外の友達も多い。今日は人数が足りないからどうしても来て、金曜で翌日の仕事にも差しさわりないでしょ、来週ランチを奢るから、と頼み込まれてまったく興味がないというのにも関わらず、しぶしぶ参加することになった。

「優実が久々に合コンにくるから、井上も今日来るらしいよ」

「井上くんが?」

その名前を聞くだけで、どきんと胸が高鳴る。

井上 雄大は同期で、同じ営業部のエースでもある。国立大学出身で、端正な容姿をあわせ持つ会社一のモテ男だ。正直彼ほどの人材が何故今の会社で満足しているのか不思議に思うこともある。大企業でバリバリ働いていても、まったく遜色ない男なのだ。同期だから気安く話しているが、同期でなかったら優美の性格では怖気づいて喋ることさえできなかったと思う。

さっきまで隣の席にいた同期の横顔を思い浮かべる。営業部のエースの彼はまだ残業中だろう。

「そ、井上~。今までどんなに誘ってもめんどくせえって言って絶対に来なかったのにさ、優実が来るよていったら即答だったよ」

亜紀は何故か前々から雄大が優実に気があると思っているようだ。雄大とは仕事のこともありよく話す。仕事の仕方を見ているとその人となりがわかる、とは誰が言ったのか。雄大の仕事は視野が広く、公平で的確。一緒に仕事をしているうち、いつしか優美は、彼の外見の華やかさではなく、彼の内面に惹かれていた。けれど彼が振り向いてくれるわけはないと、その気持ちには蓋をして、見ないふりを決め込んでいる。

「前から言ってるけどさ…ないって」

「あるったらある。同期飲み会でも井上絶対優実の隣に座るじゃん、会社の飲み会でも絶対優実の近くにいるじゃん、そもそもいつも優実のことばっか見てるじゃん!!あんなに分かりやすいのに、本人に伝わってないってある意味可哀そう…」

「同じ営業部だから話しやすいだけだって」

「ああいう男が目的もなしにそういうことはしない!成果のために最短距離を走るやつだよ、あいつは」

亜紀の口調に熱が入る。定時で仕事が終わった2人であるが、いろんな会社の有志が集まる合コンは遅めの開始時間が設定されている。始まるまでにまだ3時間ほどあるため、ひとまずこのコーヒーショップで時間を潰すことになったのだが、時間が来るまではずっとこの話を聞かないといけないのかもしれない…。

「その割には3年放置されてるけどなぁ…」

この話をもうこれで切り上げるべく、優実は冗談めかして、小さく呟いてみた。亜紀はにやっと笑って、

「それは優実に隙がないから、様子を窺ってるだけだって。試しにちょっとでも外見を変えてみたら他の男に取られる!って絶対に焦って寄ってくるって」

と、とんでもないことを言い出した。

外見を変える…

確かに優実は、外見を整えることに興味がまったく持てない。佳織が自分の美貌を生かす手段を知っているのとはまったく違う。なぜなら昔から優実がどんな髪形をしても、どんな服を着ても、どんな化粧をしても、誰からも何の反応もなく、結局みんな美しい佳織のことしか見ていないから、すっかり興味をなくしてしまっていた。それはずっと変わらず、地元を離れた大学時代も優実はいつも地味で目立たない恰好ばかりしていた。

「優実は肌めっちゃ綺麗で、瞳も薄茶色で大きいし、鼻筋も通ってるから、ちゃんとすれば絶対に3倍は綺麗になる!」

亜紀は出会った当初から言ってくれていることを今日も熱弁している。携帯を開いて何かを検索していたが、

「私がいつも行ってる美容院、今から飛び込みでいけるから、カットだけでもしてもらおうよ!ここから近いし、1時間くらいで終わるよ。クーポン出てて安くなるし」

「え・・・」

「てか予約しちゃった~よし行くぞ!今すぐ行くぞ!!」

「えええ」

謎の使命感に燃えている亜紀に半ば強引にひきずられて、コーヒーショップを出る優実なのであった…。

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