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エリーゼ

エピローグ

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今日は父親は工事現場で泊まりで、帰ってこない予定だがアーヴィンが来てくれたと知ったら会いたかったろうな、などと思っていたら、一旦離れていたアーヴィンの腕が私を抱き寄せたから驚いた。いつもアーヴィンは私がハグをすれば受け入れてはくれたが自分からしてくれたことはほとんどなかった。

「ど、どしたの?」
「酷いことを言って、悪かった…」
「酷いこと?」
「距離を置くとか…番を探すとか…結婚してから番に会ったら不幸になるしかないとか…」
「ああ…」

彼はぎゅうぎゅうと私を抱きしめながら、自分の額を私の頭にくっつけている。まるで彼が私に甘えているかのような感じなのだが、一体何があったのだろうか。てか、ここ玄関ホール…。ダイニングルームにでも入ろうと声をかけようと思ったのだが、その前にふうっとため息をついてアーヴィンが言った。

「僕は怖かったんだ…」
「怖かった?」
「うん、いつかエリーが僕から離れていってしまうかもと思って」

ん?
逆じゃない?

「僕はもうずっと子供の頃からエリーが可愛くて可愛くて…でもいつかエリーが番に会ったら僕のことを捨てそうな気がしてたから…それを考えると怖かったんだ。だからお前を試す感じであんなことを言ってしまった。本当に最低だった」


否定はしない。










しかし残念なことに、私はアーヴィンが罪を犯したとしても、彼のことを理解しようと努める女である。対幼馴染に関しては完全に阿呆な女なのである。自覚はある!自覚はあるから責めないで下さい!

「でもマークから実際にエリーが番を見つけたって聞いた時はもう…居ても立ってもいられてなくてすぐに駆けつけてきてしまった。案の定、あいつとデートしてたし、抱きしめられてるの見たらもう我慢できなくって…。ごめん。傷つけた責任は取る。こんな僕がフラレても仕方ないと思ってる」

そう言いながら、ぎゅうぎゅうに抱きしめている腕はまったく緩む気配が見られない。言ってることとやってることが別なんですけどー?まるで私のことを離せないって言ってるみたいだ。

「ふは」

そう思ったら面白くて、私は笑ってしまった。

「あのね、アーヴィン。私ね、あの人といてもまったくときめかなかったんだよ。私にとってアーヴィンは、番よりもね、番らしいから。アーヴィンにしかときめかない」
「エリー!許してくれるのか」
「ううん、許さない」

えっ、とアーヴィンが私を抱きしめたまま固まった。

「アーヴィンが番を見つけても、私を不幸にしないって約束して欲しい」
「…うん、本当に傷つけて悪かった」

あの言葉は私の心臓にぐいっと打ち付けられた楔のようだった。
これからきっと一緒にいつづけても、私の心には一生不安が残り続けるだろう、アーヴィンが実際に番をみつけて、それでも尚、私と居続けてくれるという選択肢をしない限りは。


「怒らないで聞いてほしいんだけど…実は僕もう番見つけてるんだ」
「え・・・ええええええ?!!?」

ちょっと待って!
新事実すぎて頭の中が混乱中でございます!

「お前も知ってるけど…ミシェルさん」
「ああああの美人の?」

ミシェルさんは、兄とアーヴィンの共通の学校の友人である。ミシェルさんっていうと数年前には出会っているはず。え、でもミシェルさんとアーヴィンってホントただの友人のような気がしてるけど…?

「同じだったんだ。僕、お前のことが好きすぎてまったく反応しなかった。匂いすらも分からなかったから番だって気づかなかったくらいなんだ。ミシェルさんは分かったみたいだけど、あまりにも僕が反応しないから呆れてた。僕たちは何にもなかったし、今はもうミシェルさんには恋人がいるからね?」
「…う、うん」
「僕にとってはエリーはずっと番以上の存在だったけど…エリーがいつか番を見つけたら離れていくって思ったら怖くなってきて…最近エリーがどんどん綺麗になってこの前も告白されてただろう?」
「うん」

同級生に告白されて、瞬殺で断りましたけどね!

「自分から離れていく日が来るのかと思ったら…ごめん本当に…もう自分でも止められなくて、勝手に口が動いて酷い嘘ついた。マークにも拗らせてるって叱られた」

要するに彼は…
番は既に見つけていたけど自分にとっては番はたいしたものではなかった。
けど、私がどれくらいアーヴィンのことが好きか分からなかったから、私が番を見つけた時に、もしかしたら捨てられるって思った。ほほーん。なるほど。私がどれくらいアーヴィンが好きなのか、自信がなかったってわけね。ちゃんと見てくれたら私がどれだけ彼が好きかって分かるはずなんですけど。









でももう一度言いますね。
私、対幼馴染限定で、ちょろい女なんです。自覚はある!後悔はしていない!


そうか、だから番と結婚しているのは10%くらいしかいないのか、とふと思いついた。番に運良く巡り合ったとしても、もうその時に他に好きでしょうがない人がいたら反応しない場合があるんだ。そもそもまわりでも番に会ったっていう人はそんなにいないから、まぁ仮説だけど、ね。でももしかしたら番に会っても、アーヴィンみたいに気づきもしないパターンもあるのか?…とにかく、2人共が同じ気持ちでなければなかなか結婚までは至らないだろうから、番同士の成婚率が低いのかも知れない。そこは普通の恋愛と同じだ。

「本当にごめん。ずっと謝り続けるから、いつか許して欲しい…」

彼はどうやら私を離せないらしく、抱きしめたまま懇願している。
はいここ玄関ホール…。
私は最早この状況がシュール過ぎて笑ってしまっていて、笑ってる時点で許すも許さないもないんだが、アーヴィンにこんなに求められてるっていうのが嬉しすぎて返答できずにいた。しばらくして、ぽんぽんと彼の腕を叩いた。


「うん、もういいよ、アーヴィン。怒ってない」
「エリー!」

いつもずっと私ばかりが追いかけていると思ってた。
彼は仕方なく私のことを受けいれてくれていると思ってたけど、そうじゃなくって彼もちゃんと私のことを好きでいてくれたんだって思ったら、嬉しくって仕方ない。それが分かったから、思いきってこの街に来て、良かったと思う。

「エリー、キスしていい?」
「え」

今までほっぺにはそりゃあ何百回とされたし、してきたキスだけど、これはそう…じゃないのかな?などと思っていたら、ちゅっとアーヴィンが唇にキスを落とした。それからまたぎゅうぎゅう抱きしめてくる。

「僕が拗らせてたからエリーのファーストキスをあいつに取られた。許せない。僕が悪いけど。くそ、許せない」

(ああこの人、もしかして…)

今まで頑張って隠してたけど、めちゃくちゃ独占欲強い人、だったのかな。
自分が好きな人がこれだけ執着してくれてたんだったら…そりゃ番に私が惹かれないよね~。

「また帰ってきてくれるよね?」
「え?せっかく転校したのに?しかも学校結構面白そうなんだけど…」
「駄目だ!この街はお前の番が住んでるから絶対に駄目だ!」
「え、でもルーカスは結構いいひと……」
「あいつの名前は聞きたくない!」
「せめて一学期はこっちの学校通おうかなー。お父さんも喜んでくれるし」
「僕が耐えられない!」


あれれ。思ってた以上に執着…いいえ、溺愛されているようです。
私達、結局48時間も離れていられなかったんですよね。

私はぎゅうぎゅうに抱きしめられながら、番よりも番らしく愛してくれる幼馴染の背中に手を回したのであった。




<君は僕の番じゃないから、終わり>



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