124 / 196
ティーパーティ編 終
しおりを挟む
「殿下に…殿下に何か言われたんですか…?」
「いや、違うわ…」
わけも分からず流れ落ちる涙を必死にデイジー嬢が拭ってくれるが、なかなか止まってくれない。
悲しそうに表情を歪め、こちらを覗き込む彼女の姿すら涙でよく見ることができなかった。
「リティシア様、どうしよう、涙が止まりません…どうか泣かないで…」
「デイジー嬢…」
私は衝動的にデイジー嬢を強く抱きしめると彼女は驚いて両手を激しく動かす。
彼女は私よりも少し小さくて抱き心地がよく、何より安心できた。
「へっ!?あぁあの、リティシア様…」
焦ったような声が可愛くて思わず少し笑ってしまう。彼女は驚きながらも反射的に私のことを抱きしめ返していた。
「私…間違ってたのかな…」
「…リティシア様が間違えることなんて絶対ない!と言いたいところですけど…」
そこでデイジー嬢の言葉が一旦止まる。
そして彼女は私の頭を優しく撫でながらゆっくりと言葉を紡いでいく。
私はただその言葉をじっと待った。
「リティシア様のそのお顔が答えなんじゃないでしょうかね…」
私は彼女の言葉に驚き、目を見開く。
否定ができなかった。
そうか、私は間違えたのか。間違えたと思ってるから泣いているのね。
私の頭ではまだちゃんと理解していないけど身体が勝手に反応して泣いているんだわ。
「私、あんなことが言いたかったわけじゃないのに…」
「…そうですね。そんなこともありますよ。言いたくなかったことを言っちゃう時だってあります」
デイジー嬢の一つ一つの言葉が優しく、同い年の友達がいたらこんな感じだったのかなと思わされる。
前世の私には友達がいなかったから、私を尊敬し慕ってくれる彼女の存在は今でも不思議に思ってしまう。
「リティシア様は本当に殿下の事が大好きなんですね」
「いや…私は…」
「もうこれは誤魔化せませんよ。要は殿下に酷い事を言っちゃって泣いてるって事ですよね。ではどうして泣いているのか?理由は一つしかありません。リティシア様が殿下を愛しているからですよ」
違うのよデイジー嬢…。
私は確かにアレクが好きだけどそれは関係ないの…正直この気持ちは邪魔なのよ。
こんな気持ちさえなければ何の未練もなく主人公に引き渡せるのに。
いつもいつも私の感情が邪魔をする。彼を幸せにできるのは主人公…ヒロインただ一人だと誰よりも理解しているはずなのに。
私は返事をすることなく無言を貫いたが、彼女は気にせず言葉を続ける。
「ちゃんと謝れば殿下も許してくれますよ。殿下だってリティシア様を大切に想っているはずですから」
「…別に許してもらわなくても…」
「ダメですよちゃんと許してもらわなきゃ!今度お会いした時に謝って下さいね。私との約束ですよ」
許してもらわなくてもいいというのはその方が彼と別れやすいのではと考えたからだったのだが、彼女のあまりにも凄い剣幕に思わず吹き出してしまう。
「…ふふ、そうね。分かったわ。悪い事をしたら謝らないとね」
「それでこそリティシア様ですよ。リティシア様は…これからもずっと笑顔でいて下さい。殿下の隣でですよ?これも約束ですからね」
「…分かったわ」
ごめんなさいね、その約束はきっと近い内に破る事になるわ。
リティシアに転生したと気づいた時から環境は明らかに変わり始めている。
私とアレクの関係をよく思っていなかった者が、逆に祝福しようとしてくれたり、変わらず私を敵対視してくる者もいる。
だがいくら環境が変われど、変わらないものがただ一つある。
この世界が小説の世界であり、決められた幸せな結末があるということ。
私は彼を導かなければならない。
何があっても。私の感情など…いちいち気にしていられない。
この涙は墓場まで持っていこう。
きっと…アレクに知られたら心配されてしまうから。
なんなら謝るかもしれないわね。私が勝手に言って勝手に泣いてるだけなのに。
彼は…本当にどうしようもなく優しい人だから。
そしてデイジー嬢は少し違う話題を口にする。
「リティシア様、話は変わりますが…ヴィオラ嬢の事は今はマリーアイ嬢が説得してくれています。リティシア様や殿下に無礼な態度を取ったことは許されませんので私からも注意しておきましたからね」
「私の事はいいからアレクシスの事だけ謝らせて…」
「ダメです。どうしてリティシア様は自分はいいやって考えちゃうんですか。リティシア様を護りたい人は沢山いるんですよ?そんな人達の好意を踏みにじらないで下さい!」
踏みにじる、ねぇ…私みたいな悪役令嬢が誰かに愛される方が今までいじめられてきた人の思いを踏みにじる事になる気がするのよね。
「…私はいいわよ。だってそれだけのことをしてきたんだから」
「過去は関係ありません!私も皆も、今のリティシア様が大好きなんですから。今度ティーパーティを開き直したら真っ先に呼びますからね。いいですか?」
「丁重にお断りするわね」
「そんな、リティシア様がいないティーパーティなんてパーティじゃありません!」
「いや私がいなくてもパーティにはなるわよ…」
いつの間にか涙は止まっていた。
デイジー嬢が私の取れかけていた髪飾りをもう一度つけ直してくれる。
あまり乗り気ではなかったティーパーティであったが、結果として令嬢との仲が深まったように思う。
あの時助けた令嬢がデイジー嬢で良かったと私は心から感じたのであった。
…まぁ、デイジー嬢との仲が良くなった反面、アレクとの関係は悪化した気がするけどね…。
「いや、違うわ…」
わけも分からず流れ落ちる涙を必死にデイジー嬢が拭ってくれるが、なかなか止まってくれない。
悲しそうに表情を歪め、こちらを覗き込む彼女の姿すら涙でよく見ることができなかった。
「リティシア様、どうしよう、涙が止まりません…どうか泣かないで…」
「デイジー嬢…」
私は衝動的にデイジー嬢を強く抱きしめると彼女は驚いて両手を激しく動かす。
彼女は私よりも少し小さくて抱き心地がよく、何より安心できた。
「へっ!?あぁあの、リティシア様…」
焦ったような声が可愛くて思わず少し笑ってしまう。彼女は驚きながらも反射的に私のことを抱きしめ返していた。
「私…間違ってたのかな…」
「…リティシア様が間違えることなんて絶対ない!と言いたいところですけど…」
そこでデイジー嬢の言葉が一旦止まる。
そして彼女は私の頭を優しく撫でながらゆっくりと言葉を紡いでいく。
私はただその言葉をじっと待った。
「リティシア様のそのお顔が答えなんじゃないでしょうかね…」
私は彼女の言葉に驚き、目を見開く。
否定ができなかった。
そうか、私は間違えたのか。間違えたと思ってるから泣いているのね。
私の頭ではまだちゃんと理解していないけど身体が勝手に反応して泣いているんだわ。
「私、あんなことが言いたかったわけじゃないのに…」
「…そうですね。そんなこともありますよ。言いたくなかったことを言っちゃう時だってあります」
デイジー嬢の一つ一つの言葉が優しく、同い年の友達がいたらこんな感じだったのかなと思わされる。
前世の私には友達がいなかったから、私を尊敬し慕ってくれる彼女の存在は今でも不思議に思ってしまう。
「リティシア様は本当に殿下の事が大好きなんですね」
「いや…私は…」
「もうこれは誤魔化せませんよ。要は殿下に酷い事を言っちゃって泣いてるって事ですよね。ではどうして泣いているのか?理由は一つしかありません。リティシア様が殿下を愛しているからですよ」
違うのよデイジー嬢…。
私は確かにアレクが好きだけどそれは関係ないの…正直この気持ちは邪魔なのよ。
こんな気持ちさえなければ何の未練もなく主人公に引き渡せるのに。
いつもいつも私の感情が邪魔をする。彼を幸せにできるのは主人公…ヒロインただ一人だと誰よりも理解しているはずなのに。
私は返事をすることなく無言を貫いたが、彼女は気にせず言葉を続ける。
「ちゃんと謝れば殿下も許してくれますよ。殿下だってリティシア様を大切に想っているはずですから」
「…別に許してもらわなくても…」
「ダメですよちゃんと許してもらわなきゃ!今度お会いした時に謝って下さいね。私との約束ですよ」
許してもらわなくてもいいというのはその方が彼と別れやすいのではと考えたからだったのだが、彼女のあまりにも凄い剣幕に思わず吹き出してしまう。
「…ふふ、そうね。分かったわ。悪い事をしたら謝らないとね」
「それでこそリティシア様ですよ。リティシア様は…これからもずっと笑顔でいて下さい。殿下の隣でですよ?これも約束ですからね」
「…分かったわ」
ごめんなさいね、その約束はきっと近い内に破る事になるわ。
リティシアに転生したと気づいた時から環境は明らかに変わり始めている。
私とアレクの関係をよく思っていなかった者が、逆に祝福しようとしてくれたり、変わらず私を敵対視してくる者もいる。
だがいくら環境が変われど、変わらないものがただ一つある。
この世界が小説の世界であり、決められた幸せな結末があるということ。
私は彼を導かなければならない。
何があっても。私の感情など…いちいち気にしていられない。
この涙は墓場まで持っていこう。
きっと…アレクに知られたら心配されてしまうから。
なんなら謝るかもしれないわね。私が勝手に言って勝手に泣いてるだけなのに。
彼は…本当にどうしようもなく優しい人だから。
そしてデイジー嬢は少し違う話題を口にする。
「リティシア様、話は変わりますが…ヴィオラ嬢の事は今はマリーアイ嬢が説得してくれています。リティシア様や殿下に無礼な態度を取ったことは許されませんので私からも注意しておきましたからね」
「私の事はいいからアレクシスの事だけ謝らせて…」
「ダメです。どうしてリティシア様は自分はいいやって考えちゃうんですか。リティシア様を護りたい人は沢山いるんですよ?そんな人達の好意を踏みにじらないで下さい!」
踏みにじる、ねぇ…私みたいな悪役令嬢が誰かに愛される方が今までいじめられてきた人の思いを踏みにじる事になる気がするのよね。
「…私はいいわよ。だってそれだけのことをしてきたんだから」
「過去は関係ありません!私も皆も、今のリティシア様が大好きなんですから。今度ティーパーティを開き直したら真っ先に呼びますからね。いいですか?」
「丁重にお断りするわね」
「そんな、リティシア様がいないティーパーティなんてパーティじゃありません!」
「いや私がいなくてもパーティにはなるわよ…」
いつの間にか涙は止まっていた。
デイジー嬢が私の取れかけていた髪飾りをもう一度つけ直してくれる。
あまり乗り気ではなかったティーパーティであったが、結果として令嬢との仲が深まったように思う。
あの時助けた令嬢がデイジー嬢で良かったと私は心から感じたのであった。
…まぁ、デイジー嬢との仲が良くなった反面、アレクとの関係は悪化した気がするけどね…。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる