悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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来訪者

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そして翌日、お母様は宣言通り昨日の内に届けるよう手配してくれたらしく、すぐにお城から従者がやってきた。


 彼は手紙を書く暇が全くなく、直接使用人を送った方が早いと考えたらしい。


 そしてスケジュールをどうにか調整してくれたらしく、明日にでも会えるとの返事であった。勿論心優しい王子様の事なので、こちらの予定に合わせるとも述べていた。


 …今頃王子の予定が大幅に狂って城は大騒ぎでしょうね。申し訳ない事をしたわ。


 でもそうまでして私と会う時間を作ってくれる彼は、将来奥さんの為に時間を作れる良い旦那さんになりそうだなとも思う。


 私は嫌われ者の令嬢で特に用もない暇人なので…従者には明日城に行く事を伝えて欲しいとお願いし、帰ってもらった。


 お母様とお父様はというと…リティに予定を合わせるのは当然の事だと口を揃えて発言していた。


 …お二人共、外では言わないでくださいね。私だけでなくお母様とお父様も社交界の嫌われ者になってしまいますから。


 そしてそのまま一日を過ごすと、すぐに日付が変わり、お日様が空へと登っていく。


 そういえば具体的な時間を決めていなかったなと思いながら私はゆっくりと準備を始める。


 ルナが着飾れと口うるさく言うから仕方なく引き出しに入っていたピンク色のバレッタを髪につけることにした。ドレスはパーティよりも派手じゃないものを選び、なるべく丈の短く動きやすいものにした。


 勉強目的だからどんなものでもいいんだけど、また丈の長いドレスを着てアレクを心配させてしまったらいけないからね。


 城へは歩いて行こうと考えて彼の上着を手に外に出たのだが、お母様とお父様が家から凄い勢いで飛び出してくる。


 そして歩いて行くなんて許さないと述べたかと思うと、馬車を用意しようとしてくれる。だが私が何気なしに見上げると屋敷の門の側からチラリと御者の姿が見える。


「お母様、お父様。もう馬車を準備してくれたんですか?」


「…いいえ?アーゼル、貴方は?」


「私も違うよ、リリー。…ではあれはもしかして?」


 何かを察したらしい二人は思わず顔を見合わせる。


 そしてその真横でルナが「王子殿下のご配慮に決まってますよ!」と声を張り上げて何故か自慢気に話してくる。


 そうね、私もそうだと思う。でも時間を言っていないのに…どうして?


「あの、もしかしてアレクシス殿下の…?」


 馬の手綱を持つ御者に近寄り話しかけると「はい。殿下の命でこちらに参りました。来訪を知らせず申し訳ありません。」と丁寧に答えてくれる。


「私は時間を伝えてないはずなのに…。それに来てくださったならすぐに教えてくだされば急いで来られましたのに。お待たせして申し訳ありません」


 私が頭を下げると「どうか謝らないでください。実はご令嬢には馬車が来た事をお伝えするなと言われまして…」と少し困った様な顔をして御者は述べる。


 私の為に寄越してくれた馬車なのに、来た事を伝えるな?…それはどういうことかしら?


 混乱する私に御者は「言っていいのか分かりませんが」と前置きをし、話し始める。


「実は殿下に…リティシア様にお伝えしたら恐らく焦らせてしまうだろうから朝早くから行って出てくるまで待っててほしいとお願いされてしまいまして…。何時間待つことになるか分からないから何度も謝罪された上に給料は五倍にすると言われてしまったんですよ。」


 苦笑いをする御者だが、どこか幸せそうに語る。全く困った上司だ…とでも言うように。


 …あぁきっと彼は優しい上司に仕える事が出来て幸せを感じているのね。


 というか、彼は本当にどれだけ優しいのかしら…。彼の優しさには終わりというものが存在せず、人の為になるならば自分の苦労を一切惜しまないのだろう。


 ここまで優しくされると私は主人公が…とても羨ましくなってくる。


 その感情に流されてしまう前に私はどうにか振り払い、馬車に手をかけた…その時だった。


「リティシア」


 馬車の中から突如聞こえたその声に私は目を丸くする。そして誰かがゆっくりと降りてくる。あまりの事態に衝撃を受け、一切言葉が出ない私を見た御者が微笑んで呟く。


「そして殿下は私だけ待たせる訳にはいかない、自分も行くと言って聞かなくてですね。こうして一緒にお待ちしていたという次第でございます。」


 その言葉も私の耳には殆ど入って来なかった。あの上から目線な手紙を送って忙しい本人がわざわざ馬車で現れるだなんて…一体誰が想像できたかしら?


 しかも私をずっと待っていただなんて…一体いつからいたの?


「おはようリティシア。連絡、ありがとな。迎えに来たよ。」


 私は目の前で微笑む青髪の美青年をただ呆然と見つめる事しか出来なかった。彼はいつも…私の予想を上回っている気がする。


 なんで…どうして悪役令嬢なんかに優しくするの?


 やめてよ、私は貴方とは絶対に結ばれない運命なのに。


 …結ばれてはいけないのに、どうしても…彼が迎えに来てくれた事を嬉しいと…そう思ってしまう。
 

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