悪役令嬢リティシア

如月フウカ

文字の大きさ
上 下
12 / 196

パーティ編 その3

しおりを挟む
「ちょ、ちょっとリティシア…!」


 私が歩き始めると、焦ったようなアルターニャ王女の声が背後から聞こえたので、私は振り返り、真顔で言葉を返す。


「一国の王女様が私を見てくださることは大変光栄に思いますが…他の方々も王女の目に止まりたいのではないでしょうか。私だけではなく皆様とどうぞお関わりになってくださいませ」


 私に関わるなと言う意味も多少は…いや相当籠もってるけど、でも悪役令嬢リティシアにしては丁寧…よね?


 できるだけ論理的に言えたはず…これでアルターニャが諦めるといいんだけど。


 幸いな事に、アルターニャがそれ以上私を深追いすることはなかった。


 その理由は単純で、彼女は一国の王女である為、隣国との結びつきをなんとか作ろうと集まってきた沢山の人に囲まれていたからだ。


 その取り巻きの令嬢は多すぎる人々に困惑した顔をしていただけであったが、アルターニャだけは私を無言でじっと睨みつけていた。


 …おかしいわね、一応丁寧な口調で伝えたはずなんだけど。きっとまだ話したいことがあったのかもね。でも何を言われても私はアレクシスをヒロイン…主人公以外に譲る気はないわ。


 その後も誰かと話すことを積極的に試みたがやっぱりすぐに避けられてしまう為、隅の方で用意されていた飲み物に手を出す。


 しかしそれがワインであることに気づき、未成年の私はとても飲む気が起きなかった。


 周りの同年齢くらいの令嬢を見たところ、この世界では未成年は飲んではいけないというルールがそこまで厳しくなさそうだが、かといって飲もうとも思えない。


 手に取ったからには戻すのはマナー違反かと思い一人で悩んでいると、同じくワインを片手にした男が、令嬢を口説く姿が目に飛び込んできた。


「ねぇ、パーティを抜け出して…これから俺と遊びに行かない?」


「や、やめてください、困ります…」


 絡まれた令嬢は涙目でふるふると首を横に振っている。男はそんな彼女の手を強引に掴み、外へ連れ出そうと引っ張り続ける。


「えぇ?良いじゃん!ワインを溢したお詫びに奢るからさ」


 よく見ると令嬢の黄色い鮮やかなドレスには大きな染みが出来ていた。濃いワインの色はとても隠し通せるようなものではなく、綺麗に落とせなければもう着ることは出来なさそうだ。


「け、結構です。着替えてきますので道を開けてください…」


「着替えてからでいいからさ、これから俺と…」


「やめてください…お願いします」


 これは、リティシアのイメージを少し挽回するチャンスなのでは?と思いつつも、やはり悪役令嬢らしさを貫いて無視するべきなのか…二択で揺れていたのだが、令嬢の辛そうな瞳を見て全てが吹っ飛んだ。


 アレクシスならきっと、無条件に…彼女の事を助けるわ。それに私も、彼女を助けたい。


 見てなさい、これが悪役令嬢リティシアの恐ろしさよ。


「あら、手が滑った」


 手が滑ったとは到底思えない程の速度…最早ワインを投げつけたとしか言いようのないスピードで男に思い切りぶつける。


 真っ白なタキシードに瞬く間に染みが出来、投げ捨てられたグラスが豪快に割れる音をたてる。


 その破裂音に一気に空気が静まり、私に視線が集中する。…本当は、注目されたくないのだけど…仕方ない。困ってる人を見捨てたくはないもの。


 男は自身の礼装が汚れた事に怒り、ワインをぶつけた主にその怒りをぶつけようとしたのだが…私を見た途端怒りの表情が驚きに変わり、そして言葉を失う。


「それじゃぁワインを溢したお詫びに私が奢るわ。さぁ、行きましょう?」


 にやりと意地悪く笑ってみせると、男は震えながら笑みを浮かべる。全然上手く笑えてないわよ。


「い、いや、リティシア様とは…その、自分なんか身分が釣り合わないと言いますか…」


 私は更に極上の笑みを浮かべるとひっ、と男から情けない声が溢れる。


「あらそう?遠慮しなくていいのに。じゃぁ代わりにその子と出掛けようかしら。さぁ、その子を渡してくれる?」


 驚いて固まっている令嬢の手を取ろうとするも、諦めの悪い男が私の前に強引に立ちはだかる。だが、威勢が良かったのは立ちはだかったその瞬間まで。私を見るや否やボソボソとか細い声で反論を加えてくる。


「いえ、それは…この子は、俺と出掛ける、予定で…」


「何?私の言うことが聞けないの?折角私の誘いを断ったことを見逃してあげたのに…。そう、どうしても罰を受けたいのね。良いわ。何をしてほしい?私の魔法で…火炙りにする?」


「い、やその…申し訳ありませんでした!」


 火炙りは言いすぎたかしら…髪を燃やしてアフロにするくらいにした方が良かったかな…。ってそんなことはどうでもいいわ。


 無様に土下座をする男を私は冷たく見下ろし、低い声で呟く。


「私の前で不愉快な行為をするんじゃないわよ。もう二度としないと誓える?あぁ、聞く必要なかったわね」


 そこで息を吸い、本当は緊張していて今にも上ずりそうになる声を飲み込み、どうにか整える。


「誓いなさい。今ここで。そして謝罪なさい」


 リティシアってこんな怖い声も出るのね。流石としか言いようがないわ…。


 できるだけ問題は起こしたくないけど…まぁ仕方ない、この子を守るためだもの。


 この子を無視したら、きっと私は後悔するわ。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

処理中です...