上 下
266 / 281
3学年 後期

第265話

しおりを挟む
「…………」「…………」

 勝利のポーを取るピモを、無言で見つめる柊親子。
 自分たちが勝てそうにないような魔人を、弱小魔物で有名なピグミーモンキーが仕留めてしまったのだから、そうなる気持ちも分からなくはない。

「ったく、倒しちまったよ……」

「そうだね……」

 信じられないが、この結果からピモは自分よりも認めざるを得ない。
 まさかピグミーモンキーよりも下なんて、落ち込みたくなるような出来事だ。
 しかし、ピモは伸の従魔。
 これだけ心強い味方はいない。
 そのことを考えると、あまり落ち込まない自分がいるから不思議だ。
 そんな風に思い呟く俊夫と同じ思いなのか、綾愛は同意するような呟きを返した。

「キキッ!!」

「んっ?」

 決めポーズを終えたピモは、俊夫の方に向き、手招きをする。
 それに気づいた俊夫は、ピモの方へ向かていく。

「何だ?」

 何のために自分を呼んだのか、俊夫はピモの側に立ち問いかけた。

「キキッ! キーッ!」

「……あぁ、魔石か……」

 俊夫の質問に、ピモがオレガリオの死体を指さしたりしてジェスチャーをする。
 最初は何が言いたいのか分からなかった俊夫だが、少ししてピモが何を言いたいのか分かった。
 他の魔人の魔石を体内に取り込むと、魔人はパワーアップを計ることができる。
 上位種ともいうべきオレガリオの魔石だ。
 下位の魔人からしたら、成功すれば相当なパワーアップをすることができると考えるかもしれない。
 そうなると、他の魔人はオレガリオの魔石を手に入れてパワーアップを計ろうとするはずだ。
 それを阻止するために、他の魔闘師たちが戦っているうちに魔石を取ってしまえとピモは言いたいのだろう。

「分かった!」

 ピグミーモンキーのピモでは、魔石を取り出すことは難しい。
 だから、代わりに自分がやるしかないとピモの頼みを受け入れ、俊夫は刀を使用してオレガリオの胸を斬り裂いて魔石を取り出した。

「キキッ!!」

「んっ? この刀?」

 魔石を取り出して懐に入れた俊夫に、ピモは今度は別の方向を指さす。
 何かと思ってその方向を見つめると、オレガリオが使用していた刀が転がっている。
 その刀が何かあるのかと、俊夫は鞘と共に拾い上げた。

「……う~ん、なかなかの業物のようだな……」

 オレガリオの刀を見ると、刃こぼれ1つ付いていない。
 魔力を纏っていたとはいってもここまで頑丈なのは、相当な業物なのだろう。
 それに反し、自分の刀は所々刃こぼれしている。
 強力な魔力を纏ったオレガリオの攻撃を防いだことの代償だろう。

「キーッ! キキッ!」

「……もしかして、こいつを使えってことか?」

「キーッ!」

 まだ魔人は他にもいる。
 刃こぼれしている刀では仕留めそこなう可能性がある。
 そうならないように、ピモはオレガリオの刀を使うようジェスチャーで進言しているのかもしれない。
 正解を求めるように俊夫が問いかけると、ピモは親指を立てて喜んだ。
 思った通り正解だったようだ。

「……分かった」『細かいところまで見えているんだな……』

 懸命だったこともあり俊夫自身が気付いていなかった刃こぼれに気付いていたなんて、とても冷静で視野が広い。
 素早い動きだけでなく、そういった部分までピグミーモンキーらしからぬところだが、ピモの指摘は正しいので、俊夫は自分の刀を放って、オレガリオの刀を腰に差した。

「……ピモだったか? 綾愛たちを護衛して医療班のところに連れて行っててくれるか?」

「キキッ!!」

 浅いとはいっても、綾愛は怪我をしている。
 自分では回復魔術を掛けることはできないため、俊夫はピモに会場の近くに待機しているであろう医療班の所まで綾愛たちを連れて行ってくれるように頼む。
 それを受けたピモは、敬礼をするようにして了承し、綾愛の方へと向かって行った。

「大丈夫? 奈津希……」

「うん。綾愛ちゃんは?」

「とりあえず大丈夫」

 多少回復したのか、綾愛は自分の足で奈津希のいるところへと向かって行く。
 足取り重くたどり着いた綾愛は、奈津希と体調確認し合う。

「金井君は……ちょっと深いわね。急ぎましょう!」

「うんっ!」

 奈津希には大した傷はない。
 それも了が庇ってくれたおかげだ。
 呼吸は安定しているので、気を失っているだけでのようだ。
 奈津希が自分の服を使って処置したからか、了の背中の出血は治まっているように見える。
 しかし、出血量から背中の傷は深いように思えるため、すぐに医療班の所へ向かうことを提案する。

「護衛よろしくね。ピモちゃん」

「キキーッ!!」

 魔人が他にどこにいるか分からない。
 その魔人から自分たちを守ってもらうため、綾愛はピモに護衛をお願いする。
 それを、任しとけとでも言わんばかりに、ピモは先頭を歩き始めた。

「……さて、俺は残りの魔人を倒すか……」

 ピモを先頭にした綾愛たちの姿が見えなくなっていく。
 オレガリオほどの魔人を倒すようなあの護衛なら、心配する必要はないだろう。
 ひとまず安堵した俊夫は、他の魔闘師たちが戦っている魔人たちを倒すために動くことにした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~

mimiaizu
ファンタジー
 迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。 その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。 ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。 それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。 そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。 ※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー
ファンタジー
まさに社畜! 内海達也(うつみたつや)26歳は 年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに 正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。 夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。 ほんの思いつきで 〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟 を計画するも〝旧友全員〟に断られる。 意地になり、1人寂しく山を登る達也。 しかし、彼は知らなかった。 〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。  >>> 小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。 〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。 修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。

半世紀の契約

篠原 皐月
恋愛
 それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。  一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...