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3学年 後期

第227話

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「ハッ!!」

「…………」

 動き回りながら伸との距離を詰め、道康は木刀を上段から振り下ろそうとする。
 そんな道康を、伸は何も言わずに眺めている。

“スッ!!”

「っっっ!?」

 まさに紙一重と言えるほどのギリギリのところで、伸は道康の攻撃を躱す。
 躱された道康は、驚きで目を見開く。

“シュッ!!”

「クッ!!」

 攻撃を躱した伸は左手でジャブを繰り出し、道康に一撃入れる。

「このっ!!」

「…………」

 所詮はジャブのため、殴られたといってもジンジンするだけでしかない。
 なので、道康はすぐに伸へ薙ぎ払いにより、伸の胴へと攻撃する。

“カンッ!”

「あっ!?」

 道康の薙ぎ払いが木刀で受け止められる。
 しかも、伸は踏み込みながら防御しているため、拳が届く位置まで接近している。

“シュ、シュッ!!”

「クッ! ツッ!!」

 次はジャブの2連撃。
 攻撃終わりで隙だらけの道康は、左右の頬を殴られた。

「っ!?」

 軽いとはいえ痛みを受けて怒りが湧いた道康は、またもすぐさま攻撃をしようと伸のことを睨みつける。
 しかし、攻撃をするどころではない。
 何故なら、伸が左拳によるストレートを放とうと振りかぶっているのが見えたからだ。
 直撃すれば、ジャブなんかとは違って深いダメージを負う。
 そう考えた道康は、その場から飛び退くことで攻撃を回避した。

「逃がさん……」

「っっっ!!」

 バックステップしたところで安心する道康だったが、すぐにそれは間違いだと気付く。
 追いかけてきた伸が目の前に迫っていたからだ。

“シュ、シュッ!!”

「グッ! ウッ!」

 距離を詰めた伸は、またも木刀ではなくジャブを放ってきた。
 戸惑う道康は躱すことができず、ジャブを受けるしかなかった。

「このっ!!」

「……っ!」

 伸の姿を見て攻撃していたのでは、躱されて反撃を受けるだけだ。
 一旦距離を取りたい道康は、殴られた瞬間に伸がいるであろう場所に向かって木刀を振った。
 自分の拳が当たったと同時に向かってきた道康の攻撃。
 良い反応だと思いつつ、伸はバックステップしてその攻撃を躱した。

「……んっ?」

「……なんだよ? 何で今のが躱せんだよ……」

 距離を取ると、伸は道康の様子がおかしいことに気付く。
 殴られた瞬間の反撃なら、急所ではなくても体のどこかに当たると思っていた。
 それなのに、当たるどころか見事に躱された結果に、読んでいたという理由であっても納得いかない道康は青い顔をして伸に問いかけた。

「簡単だ……」

「…………?」

 問いかけられた伸は、何を言っているんだと言わんばかりの表情で答え始める。
 どんな答えが返ってくるのかを、道康は固唾を飲んで待ち受けた。

「実力差だ」

「………………ハ、ハハッ! ハーー、ハッハッハッ!!」

 あまりにもシンプルな答えだ。
 しかし、そんな答えが返ってくると思わなかったのか、道康は狂ったように笑い始めた。

「フザケルナ!!!!!」

「……いや、ふざけてないし……」

 急に笑いが止まったと思ったら、道康が急に顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げる。
 さっきの返答が、おちょくっているとでも思ったのだろうか。
 そんな道康を、「顔を青くしたり赤くしたりと忙しい奴だ」と思いながら、伸は愚痴るように呟く。
 それが、なおさら道康の怒りの火に油を注いだ。

「俺は鷹藤家の人間だぞ!! そんな俺がお前のような姑息な人間に劣るはずがない!!」

 以前目の前にいる人間に負けたのは、ルールの穴を付いた攻撃を受けたからだ。
 まともにやっても勝てないから、そんな方法を取ったはずだ。
 しかし、この大会ではルールの穴を付くようなことなどできないため、自分が負けるはずがない。
 そうやって下に見ていた相手なだけに、伸の言うことを受け入れることができないようだ。

「……ふ~ん」

 鷹藤家の人間だというのは分かっている。
 だからと言って、自分が道康より弱いという理由にはならない。
 そんなことも分かっていないほど、怒りで混乱しているようだ。
 こんな状態の人間に何を言っても無駄だろうと判断した伸は、面倒くさそうに返答した。

「でめえっ!!」

「っというか……」

 もう伸のことを殺しても構わない。
 伸の舐めた態度に、そう考えるほど頭に血が上った道康は、全魔力を使用して仕留めることに決めた。
 そして、常軌を逸した破壊力を秘めた攻撃を放とうとする道康に、試合を止めようする審判が動こうとする。
 しかし、その前に伸が動く。

「っっっ!!」

 消えたと思ったら、次の瞬間には目の前に現れた。
 そのことに驚く道康に向かって、伸は後輩へ注意を促す。

「先輩には敬語を使えよ!」

「へぶっ!?」

 怒りで我を忘れたためだろうが、道康はいつの間にか自分に対して敬語を使わなくなっていた。
 それまでだってちゃんとした敬語ではなかったが、タメ口を利かれると伸はさすがにイラッときた。
 そのため、その気持ちも込め、伸は強めのアッパーカットを道康の顎へをお見舞いした。

「……あっ? あ…あっ?」

 顎を殴られて脳が揺れたためか、足がふらつく道康。
 先程集めた魔力も霧散してしまった。
 自分の今の状況が理解できないのか、道康は目を回してその場に尻もちをついた。

「……ほいっ! 俺の勝ち……」

 ダメージのせいで立ち上がれず、座ったままの道康に伸がゆっくりと近づく。
 そして道康の目の前に立つと、伸は木刀を彼の頭の上で止めた。

「……しょ、勝負あり! 勝者新田!」

 自分が道康を止めるはずが、伸がそれよりも速く止めてしまった。
 あんな膨大な魔力を込めた一撃を食らえば、四肢が爆散していてもおかしくない。
 それなのに恐ろしくないのか。
 そんな思いから、審判はすぐに声を上げることができず、少しの間をおいて伸の勝利を宣言した。

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