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3学年 後期
第222話
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「オレガリオ……」
「ハッ!」
魔人島の中心に立つ城の中で、2人の魔人が会話をしている。
1人は弱っていたカサンドラとテレンシオを殺し、鷹藤家に侵入して文康を連れ去ったオレガリオ。
そして、もう1人は魔人たちから王と呼ばれるバルタサールだ。
「お前の言っていることは本当か?」
バルタサールは、疑いの目でオレガリオに問いかける。
指令を遂行して帰った彼から受けた報告が、とても信じがたいものだったからだ。
「はい! 本当のことでございます!」
バルタサールからの若干の圧を受け、オレガリオは嫌な汗を掻きつつも、声を詰まらせることなく返答する。
自分は見たまま、嘘偽りのない報告をしているため、何も恐れおののく必要はないと考えているからだ。
「日向皇国において最大の脅威は柊家の婿だと……?」
自分の指示に従って動く、魔人の中でも強者である四天王。
その四天王であるカサンドラを、無傷で捕縛するような高校生。
そんなのが存在するなんて、言われてすぐに理解しろという方がおかしいというものだ。
それが、柊家の跡継ぎなどではなく、その婿となる以外無名の人間なんて本当であっても嘘だと思うのが普通だ。
嘘だとしても何のメリットもないし、オレガリオの返答と表情からは何のためらいも感じない。
そのため、嘘を言っていないことは分かるが、バルタサールからすると信じがたかった。
「……はい」
バルタサールに嘘など通用しない。
なので、本当のことしか言っていないが、自分でも嘘と捉えられても仕方がないと自覚しているため、オレガリオは最悪の可能性も考えつつ返答をした。
「……フフッ! 面白い。ぜひとも相手をしてみたいものだ……」
短命の人間とは違い、魔人は長寿である。
人間の中にも突然変異とも呼べるような者は出現するとはいっても、長年生きてきたことにより魔人の王と呼ばれるようになった自分の相手になる者など存在するはずがない。
その自信から、バルタサールは柊家の婿である伸に関心を持ち、四天王で倒せないのなら自分が出向くしかないという思いから、ワクワクが沸き上がってきた。
「……次はバルタサール様自ら赴くということでしょうか?」
まるで、次は自分が出ると言っているかのようなバルタサールの発言。
そう感じたオレガリオは、確認をするためにバルタサールに問いかける。
「その通りだ。使えるのがお前だけしかいなくなったのだからな」
何度もチャンスを与えたというのに、四天王の者たちはことごとく失敗し、自分を不機嫌にさせた。
その四天王の中でも、転移という貴重な能力を持っているオレガリオはそう簡単に切り捨てるわけにはいかない。
しかし、転移は貴重だが、他の四天王よりも戦闘力という面では僅かに劣る。
その新田とかいう柊家の婿の始末に向かわせるのは、実力的に心もとないため自分が行くしかない。
まあ、それはあくまでも自分が行きたいという思いを誤魔化すための理由でしかないのだが。
「しかし……」
自分が行くことに、オレガリオは反対と言わんばかりの表情をしているが、それを口にできるわけもなく、言葉を飲み込むしかなかった。
「……何だ? まさかそいつは私よりも強いとでも言うのか?」
「いいえ! バルタサール様よりも強い生物など、この世界にいるはずがありません!」
反対だと口に出しはしないが、その表情から読み取ったバルタサールは、若干不機嫌そうに問いかける。
確かに、柊家の婿は自分たち四天王よりも上の実力をしていた。
しかし、バルタサールほどの恐ろしさは感じなかった。
それはつまり、柊家の婿よりもバルタサールの方が強いと本能的に判断したからだろう。
そのことから、バルタサールが負けるはずがないと思っているオレガリオは、力強い口調で返答した。
「されど、敵の方が数の有利があります。バルタサール様でも痛手を負う可能性があるのではないかと……」
柊家の婿に負けるとは思っていないが、魔人のこの力に対し、人間は数の力がある。
バルタサールからすれば、人間のこの力なんて大したことないだろうが、塵も積もれば山となるという言葉がある。
塵のような人間の力でも、バルタサールに痛手を負わせることができるかもしれない。
バルタサールのことを考えれば、僅かな可能性でも排除するのが忠臣の役割だ。
その思いから、オレガリオは自分の考えを述べた。
「なるほどな……」
オレガリオの言っていることは理解できる。
自分が人間に脅威を覚えるとするのなら、それは数の力が個以上のものになった時だ。
しかしながら、生まれてから人間どころか他の生物から脅威を受けたことがないため、バルタサールとすれば脅威というものも味わってみたいという気持ちもあるところだ。
「では少しの期間を与える。その間に魔人の数を増やせ」
臨んだわけではないが、自分は一応魔人の王という立ち位置に立っている。
そのため、オレガリオの進言は受け入れておこうと考えたバルタサールは、対抗策として魔人の数を増やすことにし、オレガリオに指示を出した。
「……畏まりました!」
簡単に言ってくれるが、魔人を作り出すのは思っている以上に難しいことだ。
ただ、オレガリオにはそうする以外にバルタサールに対する脅威を排除する方法がないため、指示を受け入れるしかなかった。
「ハッ!」
魔人島の中心に立つ城の中で、2人の魔人が会話をしている。
1人は弱っていたカサンドラとテレンシオを殺し、鷹藤家に侵入して文康を連れ去ったオレガリオ。
そして、もう1人は魔人たちから王と呼ばれるバルタサールだ。
「お前の言っていることは本当か?」
バルタサールは、疑いの目でオレガリオに問いかける。
指令を遂行して帰った彼から受けた報告が、とても信じがたいものだったからだ。
「はい! 本当のことでございます!」
バルタサールからの若干の圧を受け、オレガリオは嫌な汗を掻きつつも、声を詰まらせることなく返答する。
自分は見たまま、嘘偽りのない報告をしているため、何も恐れおののく必要はないと考えているからだ。
「日向皇国において最大の脅威は柊家の婿だと……?」
自分の指示に従って動く、魔人の中でも強者である四天王。
その四天王であるカサンドラを、無傷で捕縛するような高校生。
そんなのが存在するなんて、言われてすぐに理解しろという方がおかしいというものだ。
それが、柊家の跡継ぎなどではなく、その婿となる以外無名の人間なんて本当であっても嘘だと思うのが普通だ。
嘘だとしても何のメリットもないし、オレガリオの返答と表情からは何のためらいも感じない。
そのため、嘘を言っていないことは分かるが、バルタサールからすると信じがたかった。
「……はい」
バルタサールに嘘など通用しない。
なので、本当のことしか言っていないが、自分でも嘘と捉えられても仕方がないと自覚しているため、オレガリオは最悪の可能性も考えつつ返答をした。
「……フフッ! 面白い。ぜひとも相手をしてみたいものだ……」
短命の人間とは違い、魔人は長寿である。
人間の中にも突然変異とも呼べるような者は出現するとはいっても、長年生きてきたことにより魔人の王と呼ばれるようになった自分の相手になる者など存在するはずがない。
その自信から、バルタサールは柊家の婿である伸に関心を持ち、四天王で倒せないのなら自分が出向くしかないという思いから、ワクワクが沸き上がってきた。
「……次はバルタサール様自ら赴くということでしょうか?」
まるで、次は自分が出ると言っているかのようなバルタサールの発言。
そう感じたオレガリオは、確認をするためにバルタサールに問いかける。
「その通りだ。使えるのがお前だけしかいなくなったのだからな」
何度もチャンスを与えたというのに、四天王の者たちはことごとく失敗し、自分を不機嫌にさせた。
その四天王の中でも、転移という貴重な能力を持っているオレガリオはそう簡単に切り捨てるわけにはいかない。
しかし、転移は貴重だが、他の四天王よりも戦闘力という面では僅かに劣る。
その新田とかいう柊家の婿の始末に向かわせるのは、実力的に心もとないため自分が行くしかない。
まあ、それはあくまでも自分が行きたいという思いを誤魔化すための理由でしかないのだが。
「しかし……」
自分が行くことに、オレガリオは反対と言わんばかりの表情をしているが、それを口にできるわけもなく、言葉を飲み込むしかなかった。
「……何だ? まさかそいつは私よりも強いとでも言うのか?」
「いいえ! バルタサール様よりも強い生物など、この世界にいるはずがありません!」
反対だと口に出しはしないが、その表情から読み取ったバルタサールは、若干不機嫌そうに問いかける。
確かに、柊家の婿は自分たち四天王よりも上の実力をしていた。
しかし、バルタサールほどの恐ろしさは感じなかった。
それはつまり、柊家の婿よりもバルタサールの方が強いと本能的に判断したからだろう。
そのことから、バルタサールが負けるはずがないと思っているオレガリオは、力強い口調で返答した。
「されど、敵の方が数の有利があります。バルタサール様でも痛手を負う可能性があるのではないかと……」
柊家の婿に負けるとは思っていないが、魔人のこの力に対し、人間は数の力がある。
バルタサールからすれば、人間のこの力なんて大したことないだろうが、塵も積もれば山となるという言葉がある。
塵のような人間の力でも、バルタサールに痛手を負わせることができるかもしれない。
バルタサールのことを考えれば、僅かな可能性でも排除するのが忠臣の役割だ。
その思いから、オレガリオは自分の考えを述べた。
「なるほどな……」
オレガリオの言っていることは理解できる。
自分が人間に脅威を覚えるとするのなら、それは数の力が個以上のものになった時だ。
しかしながら、生まれてから人間どころか他の生物から脅威を受けたことがないため、バルタサールとすれば脅威というものも味わってみたいという気持ちもあるところだ。
「では少しの期間を与える。その間に魔人の数を増やせ」
臨んだわけではないが、自分は一応魔人の王という立ち位置に立っている。
そのため、オレガリオの進言は受け入れておこうと考えたバルタサールは、対抗策として魔人の数を増やすことにし、オレガリオに指示を出した。
「……畏まりました!」
簡単に言ってくれるが、魔人を作り出すのは思っている以上に難しいことだ。
ただ、オレガリオにはそうする以外にバルタサールに対する脅威を排除する方法がないため、指示を受け入れるしかなかった。
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