上 下
222 / 281
3学年 後期

第221話

しおりを挟む
「「「「「………………」」」」」

 試合が開始され、会場の観客たちは声を失う。
 対抗戦出場権内の3位が決定した奈津希が、何故だか新田伸という男子生徒を名指しで決闘を申し込むなどという前代未聞ともいえる行為に出た。
 今年に入り、柊綾愛の婚約者として有名になった彼だが、実力に関しては平均より少し上という評価しかしていなかった。
 観客の誰もが、奈津希が彼を指名した意味が分からなかった。
 なんなら、決闘というより弱い者いじめにしかならないのではないかと思っていた者がほとんどだろう。
 しかし、蓋を開けてみたら全くの逆。
 速度が自慢の奈津希が、全然ついていけていない。

「ここまでとは……」

「……おい了! これどうなってんだ?」

 綾愛とは反対の選手入場口。
 そこから伸と奈津希の戦いを見つめる了と石塚。
 予想していた以上に奈津希を圧倒する実力に、了は思わず戸惑いの言葉を呟く。
 石塚の方は、伸がここまでの実力を有していると思っていなかったためか、了以上に戸惑っている様子だ。

「見ての通り、あれが伸の実力なんだよ」

「何だって……?」

 自分とは違い、伸と何度も剣術の稽古をした経験がないのなら、授業での成績で実力を判断するしかない。
 成績的には学年平均より少し上。
 だけど、頭の良さで実力差を埋めるタイプだと石塚と吉井は考えていたはずだ。
 しかし、伸はその予想を覆すかのような動きを見せている。
 そのため、石塚が戸惑うのも理解できる。
 だからこそ、了が見た通りだと告げると、石塚は信じられないという表情で、目だけは必死に伸の動きを追いかけた。





「やっぱりすごいですね」

「負けると分かっていて、どうして杉山は決闘を申し込んだんだ?」

 最初はあっという間に奈津希の背後を取るスピードを見せた伸だが、今度は防御能力を見せるようにその場から動かない。
 その状態で、綾愛すら全力で対応しないとならないような奈津希の高速攻撃を、難なく木刀で防いで見せる。
 しかも、右手一本でだ。
 死角となる背後から攻めているのに、伸は一瞥もくれることなく防いで見せる。
 奈津希の高速移動にも、余裕でついていけるほど探知能力が優れていることの表れだ。
 柊家当主の俊夫ですら、溺愛する愛娘を婚約者にすると言わせる実力を有している伸だ。
 これくらいはやってのけるだろうと奈津希自身分かっていたが、さすがに少し狼狽してしまう。
 そんな奈津希に対し、伸はこの戦いを申し込んできた理由を尋ねた。
 
「新田君は綾愛ちゃんの婚約者です。そして、私は柊家を補助する杉山家の人間。仕える相手が有能であればあるほど仕える者にとっては誇らしいもの……」

 杉山家の初代が魔物によって命を落としかけた時、その時の柊家当主によって命を救われたという歴史がある。
 それがなければ途絶えていた一族だ。
 その恩を返すべく、杉山家の人間は幼少期より柊家の右腕となるように言いつけられてきた。
 別にその言いつけに従う必要はないのだが、奈津希としてはそれを否定する気持ちもない。
 主従的な立場でありながら、綾愛の親友として育ったことがそう言った思考形成に行きついたのだろう。
 親友であり将来は支える立場の綾愛の配偶者は、誰もが認めるような人間であってほしい。

「だからこそ、綾愛ちゃんの相手はこの国……、いえ、世界一の魔闘師と知らしめたい」

 最有力候補である伸が隠すつもりがないのなら、世間に徹底的にその実力を知らしめてほしい。
 この先の柊家のことを考えれば、自分が対抗戦に出場して名を上げることよりも重要なことだ。
 だから、伸の名を広めることを優先すした奈津希は、負けると分かっている決闘を申し込んだのだ。

「……そうか」

 自分よりも柊家、そして綾愛の未来のことを真剣に考えての行動。
 その精神に関心せざるを得ない。

「ハァ、ハァ……」

 魔力切れを起こそうとも構わない。
 そんな思いで全力で伸に向かっていく奈津希。
 しかし、どんな攻撃をしても防がれ、躱される。
 とうとう息が続かなくなった奈津希は、足が止まり、肩で息をする。

「……終わりだ」

「っっっ!? ……ま、参った」

 奈津希の足が止まるのを待っていたかのように伸が動く。
 一瞬にして奈津希との距離を詰め、首筋に添えるように木刀を止める。
 その攻撃に反応できず、奈津希は降参を宣言するしかなかった。

「勝者! 新田!」

「「「「「……ワーーー!!」」」」」

 多くの者が奈津希の勝利を予想していたというのに、あまりにも真逆な勝利。
 戸惑いからか、会場の観客たちは審判役の三門の勝利者コールにワンテンポ遅れて歓声が上げた。

「杉山……」

「んっ? 何?」

 会場の歓声が響く中、伸は奈津希に声をかける。
 そして、奈津希の思いにこたえるように、自分の考えを伝えることにした。

「世界一は分からないけど、とりあえず対抗戦で日本一になってみせるよ」

「……フフッ!! 簡単に言ってくれますね。まぁ、本当のことなのだろうけど……」

 対抗戦で日本一ということは、優勝をすると宣言しているに等しい。
 本来ならば、校内戦の選手に選ばれなかった時点で対抗戦に出場する資格がなかった選手が対抗戦で優勝すると宣言するなんて、多くの者がおこがましいと言うことだろう。
 しかし、伸の実力を知っている奈津希からすると、本当に優勝できるのだろうと予想できる。
 それをあまりにも簡単そうにいうものだから、奈津希は思わず笑ってしまった。

「私の見る目も確かなものと思ってもらえるから、そうしてもらえると嬉しいわ」

「おう。任せとけ!」

 伸が優勝すれば、実力を見出して決闘を申し込んだ自分の評価にもつながる。
 対抗戦が終わったらそうなっているだろうという想像をしつつ、奈津希は伸に右手を差し出す。
 対抗戦の優勝することを奈津希に誓うように、伸も右手を出して握手を交わした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~

mimiaizu
ファンタジー
 迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー
ファンタジー
まさに社畜! 内海達也(うつみたつや)26歳は 年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに 正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。 夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。 ほんの思いつきで 〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟 を計画するも〝旧友全員〟に断られる。 意地になり、1人寂しく山を登る達也。 しかし、彼は知らなかった。 〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。  >>> 小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。 〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。 修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。

半世紀の契約

篠原 皐月
恋愛
 それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。  一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最弱の荷物持ちは謎のスキル【証券口座】で成り上がる〜配当で伝説の武器やスキルやアイテムを手に入れた。それでも一番幸せなのは家族ができたこと〜

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
※以前投稿していた作品を改稿しています。  この世界のお金は金額が増えると質量は重くなる。そのため枚数が増えると管理がしにくくなる。そのため冒険者にポーターは必須だ。  そんなポーターであるウォーレンは幼馴染の誘いでパーティーを組むが、勇者となったアドルにパーティーを追放されてしまう。  謎のスキル【証券口座】の力でお金の管理がしやすいという理由だけでポーターとなったウォーレン。  だが、その力はお金をただ収納するだけのスキルではなかった。  ある日突然武器を手に入れた。それは偶然お金で権利を購入した鍛冶屋から定期的にもらえる配当という謎のラッキースキルだった。  しかも権利を購入できるのは鍛冶屋だけではなかった。  一方、新しいポーターを雇った勇者達は一般のポーターとの違いを知ることとなる。  勇者達は周りに強奪されないかと気にしながら生活する一方、ウォーレンは伝説の武器やユニークスキル、伝説のアイテムでいつのまにか最強の冒険者ポーターとなっていた。

処理中です...