主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

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3学年 前期

第194話

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「フフッ!」

「くっ!?」

 少ししてドーム状にできた壁が崩れ始める。
 その中から、1体の生物が出現した。
 異様なその生物の姿に、康則は表情を歪める。

「その姿……」

 黒く光る表皮に覆われ、頭には角のようなものが付いている。
 2足歩行で人型に近いが、その姿から康則はテレンシオがどのような魔物から進化したのかに思い至った。

「ゴキ……」

「カブトムシだ!!」

 てっきりゴキブリだと思っていたが、どうやらカブトムシだったようだ。
 もしかしたら、テレンシオの方も気にしているのかもしれない。
 ツッコミがかなり速かった。

「……どちらにしても、厄介だな……」

 ゴキブリでもカブトムシでも、どちらにしても面倒なことは変わらない。
 虫系統の魔物は、人間の何倍もの力を持っている。
 そもそも、虫が人間と同じサイズになった時点で強力だというのに、それが知能を得たとなれば、当然脅威でしかない。
 それに加え、カブトムシとなると、その表皮が問題だ。
 硬い表皮に傷をつけるには、かなりの威力が必要となる。
 これまでのように素早い剣劇で斬りつけようとも、威力がなければ傷をつけることなどできないだろう。
 そうなると、テレンシオは斬られても傷がつかないことを見越して戦うことができる。
 相打ち狙いでも、康則の方だけ傷を負うことになりかねない。
 速く、そして強く斬りつけなければならないことに、康則はなかなか勝機を見いだせないでいた。

「フッ!!」

「っっっ!!」

 自身の角に似た二叉の槍を構え、地を蹴るテレンシオ。
 人間の姿の時は大した速度ではなかったが、やはり本来の姿に変身したからか、一気に移動速度が変わった。
 地を蹴った瞬間、あっという間に距離を詰めて突きを放ってきた。
 その速度に驚きつつ、康則は必死に刀で突きを弾いた。

「くぅ……」

 テレンシオの攻撃を防いだ康則は、すぐさま距離を取る。
 その表情はすぐれない。
 なぜなら、突きを防いだことで手が軽く痺れているからだ。
 本性を現したことでたしかに移動速度が上がったが、まだ対処できる程度だ。
 それよりも問題なのは、パワーがとんでもないことだ。
 身体強化を最大にして弾いただけだというのに、ここまで衝撃が伝わってくるということは、威力がとんでもないということだ。
 こんな威力の攻撃を放つテレンシオ相手に、どうすれば自分が勝てるのかが見えてこない。

「ハッ!!」

「っ?」

 康則への追撃を狙うテレンシオ。
 そんなテレンシオに向かって魔力球が飛んでいく。
 しかし、テレンシオはその魔力球を躱すことなく直撃を受ける。
 躱さなかった理由。
 それは、直撃してもダメージを受けないと分かっていたからだ。
 魔力球を放ったのは道康。
 そんな道康に、テレンシオは「何かしたか?」と言わんばかりに首を傾げた。

「ハァ!!」

 テレンシオが人間の姿をしていた時と一番違うのは、移動速度なんかではない。
 並外れたパワーだ。
 そのパワーに正面から当たっては勝ち目はない。
 テレンシオの速度が上がったとはいっても、所詮は対応できるレベルだ。
 速度でならまだ勝てると、康則は速度重視の攻撃を放つ。

「フッ!」

 康則の攻撃に対し、テレンシオは僅かに笑みを浮かべる。

“ガキンッ!!”

「チッ! やっぱりか……」

 左腕を斬り落としてやろうと振った康則の攻撃。
 しかし、その攻撃がテレンシオに当たった瞬間弾かれ、傷をつけることはできなかった。
 どうやら、康則が思っていたように、相当な力を込めない限り傷をつけることもできないほど強固な表皮になっているようだ。

「こいつはやばいな……」

 移動速度が上がったとはいってもまだ対処の使用はあるが、自分の攻撃は強撃でなければダメージを与えられそうにない。
 しかし、強い攻撃を加えようとすれば、おのずと隙ができてしまう。
 そこを狙われたら、こちらはひとたまりもない。
 そのため、康則は戸惑いの声が漏れた。

「あんなのどうすれば……」

 自分の援護攻撃が通用しないだけでなく、父の攻撃が通用していない。
 そんな攻防を見たことで、道康も戸惑っていた。
 援護以外で、自分があの魔人との戦いで役に立てることはない。
 そう思っていたというのに、その援護すら意味がなくなってしまった。
 魔人の脅威を目の当たりにし、体中から冷や汗が流れていた。

「諦めな! 当主の義康は明日の予定なんだろ?」

 先程の攻防で、康則たちの攻撃が自分には通用しないことを証明した。
 そんな自分相手に、2人が勝つなんて不可能だ。
 2人自身も、勝つ見込みがないはず。
 しかし、まだ勝負を諦めていない様子のため、テレンシオは2人の気持ちを折ろうと話しかける。
 自分に勝つとするのなら、2人だけでは難しい。
 それなら、他にも援軍が来れば話は別だ。
 その中でも、鷹藤家当主の義康が来れば、優位な状況に持ち込めることだろう。
 ただ、その義明がここに到着するのは明日だということは調べがついている。
 そのことを分からせるように、テレンシオは2人に余裕の笑みを浮かべた。

「っ!?」

「そんな……」

 テレンシオの狙いは見事に当たり、康則と道康は鷹藤家内の情報が洩れていることに精神的衝撃を受けた。

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