主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

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3学年 前期

第190話

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「それにしても……」

「んっ?」

「何?」

 魔物退治をおこないながら山の中を進む伸や綾愛たち。
 そんななか、話をしながら前を進む伸と正大。
 その後ろをついて行く形をとっていたところ、上長家の麻里がふと声を漏らした。
 何か気になった様子の呟きに、隣を歩く綾愛と奈津希が反応する。

「あっさり進んで行くなと思って……」

「あぁ、それね……」

 車が通れない獣道ともいえるような山道を、時折出現する魔物をあっさりと討伐しながら進み、今日予定していた調査範囲の半分近くがもう終了している。
 あまりにもサクサクと進んで行くため、麻里は緊張が抜けてしまいそうで不安に思えてきた。
 そのため、思わず声を漏らしたのだが、その理由を知った綾愛は納得したように呟く。

「それは新田君の探知範囲が広いからよ」

「……そういえば、ゴブリンの巣の内部の全容を探知してましたもんね」

 なんだかどや顔で言ってくる綾愛の言葉に、麻里は少し反応に困る。
 いくら探知魔術が得意でも、さすがに広すぎるような気がしたからだ。
 しかし、以前のゴブリン退治をおこなった時のことを思い出したら、なんだかすんなりと受け入れられた。
 あの時、大量のゴブリンが身を隠しておけるだけの深い洞窟だったというのに、伸はその内部を探知していた。
 そんなことができるのだから、広範囲を探知することなんて造作もないのだろう。

「もう少ししたら、前と後ろを交代してもらうつもりだから、気を抜かないでね」

「はい!」

 今のままだと、ほとんど何もしないまま今日の仕事は終了となってしまう。
 お給料を頂けるというのに、これでは申し訳ない気がする。
 そんな麻里の考えを察したのか、綾愛は注意を込めて今後のことを伝える。
 1年の時から伸と共に柊家の仕事をおこなっているが、最初のうちは今のように伸1人で仕事のほとんどが終了してしまうことがあった。
 魔物退治は自分たちにとっても訓練の場になるというのに、これでは1日無駄にした気分になってしまう。
 そのため、特別な場合でないのなら、なるべく自分たちにも戦わせてほしいと進言した。
 それを受け、半分は自分で請け負い、残りの半分を綾愛たちに任せるようにすればいいという結論になった。
 なので、今回も半分進んだところで交代することになっている。

「そろそろ交代するか?」

「そうね」

 綾愛たちの会話が聞こえていたわけではないが、地図を見ると今日の調査範囲の半分まで到達した。
 それを見て、伸は後ろにいる綾愛たちに前後の交代を提案する。
 綾愛たちからすると待ってましたといったところだったため、すぐにその提案を受け入れた。

「全部俺がやって、速く終わらせて海に行くって手もあるけど……」

「……それもいいかもね」

 半分は自分がやって、残地は綾愛たちに交代する。
 それがいつものことなので交代を提案したが、今は夏休みだ。
 仕事はさっさと終わらせて、余った時間を海で遊ぶという手もある。
 その伸の言葉を受けて、綾愛は少し考えてしまう。
 いつもなら確かに半分半分でいいかもしれないが、 夏休みも満喫したいという気持ちもなくはない。
 伸と共に海で遊ぶことを想像をすると、その手もありなのではないかと思えてきた。

「先輩……」

「じょ、冗談よ」

 さっきは自分と同じく交代を待っていたようだったのに、急に意見を変えた綾愛に、麻里はジト目を向ける。
 そんな麻里の反応を受け、綾愛は自身の発言を撤回した。

「さ、さあ! 行きましょう!」

「そうですね……」

 気を取り直してと言わんばかりに、綾愛は先へと進むことを指示する。
 それに従うように麻里は頷きを返す。
 先へと進み始めた綾愛のことを見つめ、麻里は印象が変わりつつあった。
 名家柊家の長女で、対抗戦を2連覇するような女傑。
 きっとストイックな訓練を重ねることで、そこまでの実力を手に入れたのだろう。
 そんな思いから麻里は地元を離れ、綾愛のいる八郷学園に通うことを決断した。
 しかし、この数か月一緒にいたことで、想像とは違い、綾愛も普通の女子なんだと思うようになっていた。
 印象が変わったからと言って、麻里の中で綾愛への憧れは変わっていない。
 普通の女子という面を持っていても、強くなれるのだという印象に変わっただけだ。

『新田先輩の実力は柊先輩よりも上。だからといっても、私の目標は柊先輩よ』

 大量のゴブリン殲滅。
 あんなことは綾愛でもできない。
 その時点で、綾愛よりも無名の伸の方が実力が上だということは分かる。
 そこで正大のように伸に憧れるという思いは浮かばなかった。
 もちろん実力は認めているが、自分が憧れたのは綾愛だ。
 綾愛のようになるためにはどうしたら良いのか。
 その思いから、綾愛に付いて行くという気持ちを変えない麻里だった。





◆◆◆◆◆

【そっちはどうだ?】

「本当に来たわ」

 魔物討伐をする伸たちを、遠く離れた場所から眺めている人間がいた。
 その者は、スマホを手に会話をしている。

【じゃあ、予定通り】

「そうね」

 目的の人物が、聞いていた通りの場所へと出現した。
 この時のために、自分たちは策を練ってきた。

【決行だ!】「決行ね!」

 スマホで会話する2人は、声を揃えて先戦決行を決意したのだった。

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