191 / 281
3学年 前期
第190話
しおりを挟む
「それにしても……」
「んっ?」
「何?」
魔物退治をおこないながら山の中を進む伸や綾愛たち。
そんななか、話をしながら前を進む伸と正大。
その後ろをついて行く形をとっていたところ、上長家の麻里がふと声を漏らした。
何か気になった様子の呟きに、隣を歩く綾愛と奈津希が反応する。
「あっさり進んで行くなと思って……」
「あぁ、それね……」
車が通れない獣道ともいえるような山道を、時折出現する魔物をあっさりと討伐しながら進み、今日予定していた調査範囲の半分近くがもう終了している。
あまりにもサクサクと進んで行くため、麻里は緊張が抜けてしまいそうで不安に思えてきた。
そのため、思わず声を漏らしたのだが、その理由を知った綾愛は納得したように呟く。
「それは新田君の探知範囲が広いからよ」
「……そういえば、ゴブリンの巣の内部の全容を探知してましたもんね」
なんだかどや顔で言ってくる綾愛の言葉に、麻里は少し反応に困る。
いくら探知魔術が得意でも、さすがに広すぎるような気がしたからだ。
しかし、以前のゴブリン退治をおこなった時のことを思い出したら、なんだかすんなりと受け入れられた。
あの時、大量のゴブリンが身を隠しておけるだけの深い洞窟だったというのに、伸はその内部を探知していた。
そんなことができるのだから、広範囲を探知することなんて造作もないのだろう。
「もう少ししたら、前と後ろを交代してもらうつもりだから、気を抜かないでね」
「はい!」
今のままだと、ほとんど何もしないまま今日の仕事は終了となってしまう。
お給料を頂けるというのに、これでは申し訳ない気がする。
そんな麻里の考えを察したのか、綾愛は注意を込めて今後のことを伝える。
1年の時から伸と共に柊家の仕事をおこなっているが、最初のうちは今のように伸1人で仕事のほとんどが終了してしまうことがあった。
魔物退治は自分たちにとっても訓練の場になるというのに、これでは1日無駄にした気分になってしまう。
そのため、特別な場合でないのなら、なるべく自分たちにも戦わせてほしいと進言した。
それを受け、半分は自分で請け負い、残りの半分を綾愛たちに任せるようにすればいいという結論になった。
なので、今回も半分進んだところで交代することになっている。
「そろそろ交代するか?」
「そうね」
綾愛たちの会話が聞こえていたわけではないが、地図を見ると今日の調査範囲の半分まで到達した。
それを見て、伸は後ろにいる綾愛たちに前後の交代を提案する。
綾愛たちからすると待ってましたといったところだったため、すぐにその提案を受け入れた。
「全部俺がやって、速く終わらせて海に行くって手もあるけど……」
「……それもいいかもね」
半分は自分がやって、残地は綾愛たちに交代する。
それがいつものことなので交代を提案したが、今は夏休みだ。
仕事はさっさと終わらせて、余った時間を海で遊ぶという手もある。
その伸の言葉を受けて、綾愛は少し考えてしまう。
いつもなら確かに半分半分でいいかもしれないが、 夏休みも満喫したいという気持ちもなくはない。
伸と共に海で遊ぶことを想像をすると、その手もありなのではないかと思えてきた。
「先輩……」
「じょ、冗談よ」
さっきは自分と同じく交代を待っていたようだったのに、急に意見を変えた綾愛に、麻里はジト目を向ける。
そんな麻里の反応を受け、綾愛は自身の発言を撤回した。
「さ、さあ! 行きましょう!」
「そうですね……」
気を取り直してと言わんばかりに、綾愛は先へと進むことを指示する。
それに従うように麻里は頷きを返す。
先へと進み始めた綾愛のことを見つめ、麻里は印象が変わりつつあった。
名家柊家の長女で、対抗戦を2連覇するような女傑。
きっとストイックな訓練を重ねることで、そこまでの実力を手に入れたのだろう。
そんな思いから麻里は地元を離れ、綾愛のいる八郷学園に通うことを決断した。
しかし、この数か月一緒にいたことで、想像とは違い、綾愛も普通の女子なんだと思うようになっていた。
印象が変わったからと言って、麻里の中で綾愛への憧れは変わっていない。
普通の女子という面を持っていても、強くなれるのだという印象に変わっただけだ。
『新田先輩の実力は柊先輩よりも上。だからといっても、私の目標は柊先輩よ』
大量のゴブリン殲滅。
あんなことは綾愛でもできない。
その時点で、綾愛よりも無名の伸の方が実力が上だということは分かる。
そこで正大のように伸に憧れるという思いは浮かばなかった。
もちろん実力は認めているが、自分が憧れたのは綾愛だ。
綾愛のようになるためにはどうしたら良いのか。
その思いから、綾愛に付いて行くという気持ちを変えない麻里だった。
◆◆◆◆◆
【そっちはどうだ?】
「本当に来たわ」
魔物討伐をする伸たちを、遠く離れた場所から眺めている人間がいた。
その者は、スマホを手に会話をしている。
【じゃあ、予定通り】
「そうね」
目的の人物が、聞いていた通りの場所へと出現した。
この時のために、自分たちは策を練ってきた。
【決行だ!】「決行ね!」
スマホで会話する2人は、声を揃えて先戦決行を決意したのだった。
「んっ?」
「何?」
魔物退治をおこないながら山の中を進む伸や綾愛たち。
そんななか、話をしながら前を進む伸と正大。
その後ろをついて行く形をとっていたところ、上長家の麻里がふと声を漏らした。
何か気になった様子の呟きに、隣を歩く綾愛と奈津希が反応する。
「あっさり進んで行くなと思って……」
「あぁ、それね……」
車が通れない獣道ともいえるような山道を、時折出現する魔物をあっさりと討伐しながら進み、今日予定していた調査範囲の半分近くがもう終了している。
あまりにもサクサクと進んで行くため、麻里は緊張が抜けてしまいそうで不安に思えてきた。
そのため、思わず声を漏らしたのだが、その理由を知った綾愛は納得したように呟く。
「それは新田君の探知範囲が広いからよ」
「……そういえば、ゴブリンの巣の内部の全容を探知してましたもんね」
なんだかどや顔で言ってくる綾愛の言葉に、麻里は少し反応に困る。
いくら探知魔術が得意でも、さすがに広すぎるような気がしたからだ。
しかし、以前のゴブリン退治をおこなった時のことを思い出したら、なんだかすんなりと受け入れられた。
あの時、大量のゴブリンが身を隠しておけるだけの深い洞窟だったというのに、伸はその内部を探知していた。
そんなことができるのだから、広範囲を探知することなんて造作もないのだろう。
「もう少ししたら、前と後ろを交代してもらうつもりだから、気を抜かないでね」
「はい!」
今のままだと、ほとんど何もしないまま今日の仕事は終了となってしまう。
お給料を頂けるというのに、これでは申し訳ない気がする。
そんな麻里の考えを察したのか、綾愛は注意を込めて今後のことを伝える。
1年の時から伸と共に柊家の仕事をおこなっているが、最初のうちは今のように伸1人で仕事のほとんどが終了してしまうことがあった。
魔物退治は自分たちにとっても訓練の場になるというのに、これでは1日無駄にした気分になってしまう。
そのため、特別な場合でないのなら、なるべく自分たちにも戦わせてほしいと進言した。
それを受け、半分は自分で請け負い、残りの半分を綾愛たちに任せるようにすればいいという結論になった。
なので、今回も半分進んだところで交代することになっている。
「そろそろ交代するか?」
「そうね」
綾愛たちの会話が聞こえていたわけではないが、地図を見ると今日の調査範囲の半分まで到達した。
それを見て、伸は後ろにいる綾愛たちに前後の交代を提案する。
綾愛たちからすると待ってましたといったところだったため、すぐにその提案を受け入れた。
「全部俺がやって、速く終わらせて海に行くって手もあるけど……」
「……それもいいかもね」
半分は自分がやって、残地は綾愛たちに交代する。
それがいつものことなので交代を提案したが、今は夏休みだ。
仕事はさっさと終わらせて、余った時間を海で遊ぶという手もある。
その伸の言葉を受けて、綾愛は少し考えてしまう。
いつもなら確かに半分半分でいいかもしれないが、 夏休みも満喫したいという気持ちもなくはない。
伸と共に海で遊ぶことを想像をすると、その手もありなのではないかと思えてきた。
「先輩……」
「じょ、冗談よ」
さっきは自分と同じく交代を待っていたようだったのに、急に意見を変えた綾愛に、麻里はジト目を向ける。
そんな麻里の反応を受け、綾愛は自身の発言を撤回した。
「さ、さあ! 行きましょう!」
「そうですね……」
気を取り直してと言わんばかりに、綾愛は先へと進むことを指示する。
それに従うように麻里は頷きを返す。
先へと進み始めた綾愛のことを見つめ、麻里は印象が変わりつつあった。
名家柊家の長女で、対抗戦を2連覇するような女傑。
きっとストイックな訓練を重ねることで、そこまでの実力を手に入れたのだろう。
そんな思いから麻里は地元を離れ、綾愛のいる八郷学園に通うことを決断した。
しかし、この数か月一緒にいたことで、想像とは違い、綾愛も普通の女子なんだと思うようになっていた。
印象が変わったからと言って、麻里の中で綾愛への憧れは変わっていない。
普通の女子という面を持っていても、強くなれるのだという印象に変わっただけだ。
『新田先輩の実力は柊先輩よりも上。だからといっても、私の目標は柊先輩よ』
大量のゴブリン殲滅。
あんなことは綾愛でもできない。
その時点で、綾愛よりも無名の伸の方が実力が上だということは分かる。
そこで正大のように伸に憧れるという思いは浮かばなかった。
もちろん実力は認めているが、自分が憧れたのは綾愛だ。
綾愛のようになるためにはどうしたら良いのか。
その思いから、綾愛に付いて行くという気持ちを変えない麻里だった。
◆◆◆◆◆
【そっちはどうだ?】
「本当に来たわ」
魔物討伐をする伸たちを、遠く離れた場所から眺めている人間がいた。
その者は、スマホを手に会話をしている。
【じゃあ、予定通り】
「そうね」
目的の人物が、聞いていた通りの場所へと出現した。
この時のために、自分たちは策を練ってきた。
【決行だ!】「決行ね!」
スマホで会話する2人は、声を揃えて先戦決行を決意したのだった。
1
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる