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2学年 後期

第166話

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「何故だ……? ……どうなっている!?」

 伸に言われた通り探知を広げるナタニエル。
 しかし、いくら探知を広げても、部下たちの魔力を感じられない。
 何がどうなっているのか分からず、ナタニエルの中では段々と焦る気持ちが生まれてきた。

「バカな……」

 自慢の鼻を魔力で強化し、探知の感度をさらに上げて状況を確認する。
 すると、部下たちが倒れて動かなくなっているのを感じ取った。
 会場の外を守らせていた者だけではない。
 他会場に残してきた者たちまで死んでいる。
 それを確信したナタニエルは、信じられない気持ちで戸惑いの声を漏らすしかなかった。

「分かったか? 全員死んでるだろ?」

「…………」

 口を開けて唖然としている表情を見て、伸はナタニエルが周囲の状況を理解したのだと判断する。
 そして、先程自分が言ったことが正しかったことを確認するように問いかけた。
 しかし、問いかけられたナタニエルは、戸惑いから抜け出せず伸を無言で見つめるしかできなかった。

「…………誰だ?」

「んっ?」

 自分の問いに対する答えを待っていた伸だったが、ナタニエルの口からこぼれるように質問が返ってきた。
 その質問の仕方では、何を聞きたいのか分からないため、伸は首を傾げた。

「あいつらを倒せるような者が、そう何人も日向にいるわけがない! 誰があいつらをやったんだ!?」

 他会場に置いてきた部下たちには、綾愛や名家の者たちの相手をさせた。
 援軍により数が増えれば負ける可能性はあるが、それを阻止するために会場の外にも部下を配備していた。
 それにより、日向の中ではかなりの実力者の集まりだとは言っても、部下たちに勝てるような者はいないはず。
 だというのに、探知した結果は全員が死んでいる状況。
 誰が、どうやって倒したというのか理解できない。
 そのため、ナタニエルは何かを知っていそうな伸へ捲し立てるように問いかけた。

「えっ? 教える必要はなだろ? だってお前死ぬんだし……」

「…………何だと?」

 問いかけられた伸は、平然とした表情で答えを返す。
 嘘などなく、本気でそう思っているというような表情に、原因が分からない状況に慌てていたナタニエルの頭が一気に冷える。
 そして、怒りで瞳孔が開いた眼で伸を睨みつけた。

「あっ、そうだ! 大人しく捕まれば生かしてやるけど?」

「…………」

 あふれ出る殺気とその目付きから、ナタニエルが完全に怒り狂っているのは分かる。
 普通の魔闘師なら、殺気による恐怖から身を細かく震わせる事だろう。
 しかし、伸はその殺気を受けても平然としており、むしろ更に怒りを煽るような言葉を投げかけた。
 その言葉を受け、ナタニエルの全身の毛が逆立つ。
 まさに怒髪衝天といった様子だ。

「……ハハッ! ハーハッハッ!!」

 逆立った毛が治まったと思ったら、ナタニエルは急に大きな笑い声を上げる。

「この俺が、まさか人間のガキにここまで舐めた口を利かれるなんてな……」

 魔人の中でも上位に位置する魔人軍の自分が、日向でも上位に立つ鷹藤や柊などではなく、名も知らない子供に圧され、虚仮にされている。

「フザケルナッ!!」

「「っ!?」」

 怒りが頂点を過ぎ、逆に笑えてきたと言ったところだろう。
 しかし、死にたくなければ捕まれなどと言われて我慢できるはずがない。
 ここまで我慢してきた怒りが噴き出した。
 それと共に、ナタニエルが身に纏う魔力の量も膨れ上がる。
 それを見て、柊家当主の俊夫と鷹藤家当主の康義は、一瞬体が固まる。
 康義と共に戦い、良い勝負をしていたと思っていたが、ナタニエルの本気を出すまでは至っていなかったということだ。
 もしも、あのまま戦っていれば、負けていた可能性がかなり高かったということだ。
 そのことを理解し、最悪の結末が想像できた2人は顔を青くした。

「俺がいつ本気だと言った!? 少しできるからって調子に乗りやがって!!」

「…………」

 魔力量の上昇とは、身体強化の上昇。
 これまで以上の移動速度と攻撃力で戦えるということだ。
 いくら反応が速かろうと、それは先程までの話。
 本気の自分なら、これまでのように対応できるはずがない。
 その考えから、ナタニエルは伸を殺すために全力で戦うことにした。
 刀を構えたナタニエルに対し、伸も無言で刀を構える。

“シュンッ!!”

「「っっっ!?」」

 ナタニエルの姿が消える。
 動作すら視認できなかった俊夫と康義は、声を出すことすらできずに目を開いた。

“キンッ!!”

「「っっっ!?」」

 ナタニエルの姿が消えたすぐ後で、硬質な音が鳴り響く。
 伸とナタニエルの刀がぶつかり合った音だ。
 その音と共に、俊夫と康義はまたも驚きの表情へ変わる。
 自分たちが見失っている間に距離を詰めたナタニエルの移動速度もだが、それに反応して攻撃を防いだ伸に対する驚きにもだ。

「き、貴様……、何で……?」

 驚いたのは俊夫と康義の2人だけではない。
 魔人特有の強靭な肉体を利用し、限界ギリギリまで身体強化しての高速移動による攻撃。
 反応できる人間など、片手で数えきれるほどしかいないはず。
 それなのに、伸はこれまでと変わらない表情で受け止めている。
 信じられない思いから、攻撃を受け止められたナタニエルは思わず声を漏らした。

「……何だ? 反応できないと思ったのか?」

 たしかに少し前よりも速くなったし、攻撃力も上がっている。
 だからと言って、何で自分が反応できないと思ったのだろうか。
 ナタニエルが漏らした声に対し、伸は不思議そうに尋ねた。

「バ、バカな……」

 ここにきて、ナタニエルはようやく目の前にいる伸が、そこら辺にいる人間とは違うということに気付いたようだ。
 というよりも、最悪の可能性として微かに頭には浮かんでいた。
 しかし、そんな事はあり得ないという思いから、その考えを排除していたというのが正しいのかもしれない。
 その最悪の可能性が現実化し、ナタニエルの怒りは恐れへと変わっていった。

「良いのか?」

「……?」

 恐れと驚きで思考が停止したナタニエルに対し、伸は問いかける。
 その問いの意味が理解できないナタニエルは、訳が分からず首を傾げた。

「シッ!!」

「ギャッ!!」

 思考停止して動かないでいるが、今は戦闘中だ。
 動かないでいたら、ただの的でしかない。
 わざわざ聞く必要はないのに問いかけてやったというのに、全く反応しないナタニエルに対し、伸は刀で斬りかかった。
 伸の斬り上げによって、ようやく戦闘中だと思い出したのか、ナタニエルは懸命に体を引く。
 それは超反応と言ってもいいが、気付くのが遅すぎた。
 完全に躱すことができず、伸の斬り上げによってナタニエルの左手が舞い上がった。

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