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1学年 後期
第108話
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「オッス! 明けましておめでとさん」
「「明けましておめでとう」」
年が明けた1月5日。
柊綾愛と杉山奈津希が待つところに、柊家系列の黒服を着た魔闘師たちに連れられて伸が現れた。
新年早々ということもあり、伸は2人に対して軽い口調で新年の挨拶をする。
それに対し、綾愛と奈津希の2人は、声を揃えて挨拶を返した。
「正月早々魔物退治とは、名門家ってのは大変だな」
「魔物に正月だとか関係ないからね」
「ごもっとも」
伸がここに来た理由。
それは、柊家の魔物退治に参加するためだ。
八郷地区の北側にある山に、大量の魔物が出現したという情報が柊家に入った。
その魔物退治に参加するか声がかかり、伸は小遣い稼ぎになると了承した。
正月だというのに仕事をしなければならないとは、柊家も大変だ。
しかし、奈津希の言う通り、魔物は正月だとか空気を読んでくれる訳もないため、倒すしかない。
「そういや、これ見たぜ」
「あぁ、それ……」
伸はふと思い出し、持っていた一冊の雑誌を取り出して綾愛に見せる。
その雑誌を見た綾愛は、若干照れくさそうな表情をする。
何故なら、その雑誌の表紙には、綾愛が載っているからだ。
「お父さんの取材のついでだって言っていたんだけど、まさか表紙になるなんて……」
「1年で魔術学園対抗戦の優勝者。柊家のことを載せるなら綾愛ちゃんのことも載せたくなるのは当然ね」
綾愛からしたら、表紙になるとまでは思っていなかったようだが、奈津希はまるで自慢するように胸を張る。
柊家に仕える家系といっても、奈津希からすると自慢の幼馴染の印象が強いからだろう。
「それにも答えたけど、優勝できたのは運があったという方が正しいわね。優勝候補の鷹藤選手が出場停止したから、私が優勝できたと言ってもいいからね」
「まぁ、そうかもな」
大会に参加していた鷹藤家の文康は、魔族の策によって大怪我を負うことになった。
傷自体は治療師たちのお陰で回復することができたが、意識がなかなか戻らず、出場を棄権するしかなかった。
その意識も大会の終了後すぐに覚め、もう何の問題もないということだ。
もしも、もっと早く目が覚めていたら、綾愛と戦っていたことだろう。
たまに伸の指導を受けていたため、綾愛も順調に実力を上げているとは思うが、文康と比べるとまだ足りない。
出場していれば、綾愛の優勝はたしかになかったかもしれない。
「あいつも悔しがっているだろうな。起きたら大会が終わってましたなんて」
「他人の不幸を喜ぶなんて悪趣味ね」
祖父を追い出した過去があることから、伸としては鷹藤家のことは好ましくない。
そのため、鷹藤家の文康のことは会話をしたこともないというのに嫌っている。
だからか、急遽出場できなくなり優勝を綾愛に掻っ攫われた文康のことを思うと、ざまあと思わず笑みが浮かんでしまう。
伸と鷹藤家の関係を知らない綾愛は、ジト目でその態度を注意した。
「おやっさんも引っ張りだこだな……」
注意された伸は、話を雑誌に戻す。
表紙は綾愛だが、その内容の多くは柊家の特集になっていて、巻頭部分は柊家当主である俊夫をメインとしたインタビュー記事だ。
「柊家の評判が上がったのは良いけど、鷹藤家と同格扱いされているのが困ったものね」
この大和皇国には、去年の1年間で魔族が4体も出現した。
その内3体は柊家が倒した……ということに世間的にはなっている。
本当の所は、伸によって倒された言って良い。
綾愛も父から聞いているため、そのことは分かっている。
だからこそ、うなぎ上りになった柊家の評価に少々困惑しているといったところだ。
特に、これまで長い間この国のトップだった鷹藤家と同列にされると、柊家としては困ってしまう。
柊家も名門ではあるが、抱えている魔闘師の規模と実力を比較すると、どうしても劣ってしまうからだ。
「まぁ、この柊家人気も、次第に治まるだろ」
「……そうね。少しの間我慢するわ」
去年がたまたまなだけで、早々魔族が出現するなんてことはない。
鷹藤家当主の康義も数十年ぶりに魔族との戦闘になったのだから、次に魔族が現れる頃には世間の意識は薄れている違いない。
そうでなくても、人間は平和が続けば危険に対して意識が薄れるものだ。
何年もしないうちに、魔族が出現した年として意識の片隅に追いやられることだろう。
「本当に柊家が鷹藤と同格になっちまえば、気にする必要もなくなるぞ」
「それはそうだけど……難しいわね」
同格扱いは過大評価だが、それを事実にしてしまえばいい。
そう伸が簡単に言うが、綾愛は冷静に否定する。
たしかに柊家を鷹藤家並にしたいところだが、そこまでするのには人材と資金が足りない気がしたためだ。
「そうかな? 去年のことで柊家の傘下に入りたがる魔闘師たちがいるだろうし、規模だけは近づけるんじゃない?」
「……そうかな?」
難色を示す綾愛に、奈津希が自分の考えを述べる。
去年の魔族討伐は、大和皇国中の魔闘師たちに強烈なインパクトを与えた。
それによって、柊家のグループに入りたがる者は多いはず。
そのなかには、実力はあるのに燻っている者がいるかもしれない。
そういった人間を確保すれば、柊家の底上げも難しくないはずだ。
奈津希に言われるとそんな気がして来たのか、綾愛は一考し始めた。
「綾愛様。そろそろ……」
「あっ! はい!」
考え始めた綾愛だったが、そこで伸をここまで連れてきた黒服の男性に話しかけられる。
山の魔物狩りの開始時刻になったからだ。
思ったより時間が経っていたらしく、綾愛は慌てて移動を開始した。
「ゴブリンなら2人に護衛なんて必要ないだろ?」
討伐へと向かうなか、伸は綾愛と奈津希に話しかける。
今回討伐する魔物はゴブリンと聞いている。
学園に入学したての頃の2人でも、たいして危険ではない相手だ。
1年で成長した今なら、よっぽどのことでもない限り怪我することなどないはずだ。
「私もそう言ったんだけど……」
「ご当主様が念のためだって」
「なるほど」
伸を護衛につけるのは、どうやら当主である俊夫の指示のようだ。
それを聞いて、伸はすんなりと納得した。
娘に対して親バカな面のある俊夫なら、たしかにそういった判断をしてもおかしくないからだ。
「まあ、俺は別に良いけど」
新年早々魔物退治に参加したのは、単純に金が目当てだ。
中学校の時から密かに魔物退治をして資金稼ぎをしていたので、別に金欠という訳ではないが、夏休みの時から飼い始めたピグミーモンキーのミモの遊び道具なんかを買うのに、ちょっと入り用になっただけだ。
最初は操作魔術の実験台でしかなかったのだが、飼い始めれば情が湧く。
伸は、暇なときはちょくちょく遊んでやるようになっていた。
『今年は揉め事なく済んで欲しいもんだ』
冬休みが終われば、すぐに後期の試験が始まり学年が上がる。
学園に入ってすぐに対決騒ぎを起こし、モグラの魔族の討伐。
対抗戦では名前持ちの魔族の襲来。
どれも、自分が関わることになってしまった。
考えてみれば、かなり濃厚な1年だったように思える。
2年になったら、去年のように揉め事に関わらないことを密かに願う伸だった。
「「明けましておめでとう」」
年が明けた1月5日。
柊綾愛と杉山奈津希が待つところに、柊家系列の黒服を着た魔闘師たちに連れられて伸が現れた。
新年早々ということもあり、伸は2人に対して軽い口調で新年の挨拶をする。
それに対し、綾愛と奈津希の2人は、声を揃えて挨拶を返した。
「正月早々魔物退治とは、名門家ってのは大変だな」
「魔物に正月だとか関係ないからね」
「ごもっとも」
伸がここに来た理由。
それは、柊家の魔物退治に参加するためだ。
八郷地区の北側にある山に、大量の魔物が出現したという情報が柊家に入った。
その魔物退治に参加するか声がかかり、伸は小遣い稼ぎになると了承した。
正月だというのに仕事をしなければならないとは、柊家も大変だ。
しかし、奈津希の言う通り、魔物は正月だとか空気を読んでくれる訳もないため、倒すしかない。
「そういや、これ見たぜ」
「あぁ、それ……」
伸はふと思い出し、持っていた一冊の雑誌を取り出して綾愛に見せる。
その雑誌を見た綾愛は、若干照れくさそうな表情をする。
何故なら、その雑誌の表紙には、綾愛が載っているからだ。
「お父さんの取材のついでだって言っていたんだけど、まさか表紙になるなんて……」
「1年で魔術学園対抗戦の優勝者。柊家のことを載せるなら綾愛ちゃんのことも載せたくなるのは当然ね」
綾愛からしたら、表紙になるとまでは思っていなかったようだが、奈津希はまるで自慢するように胸を張る。
柊家に仕える家系といっても、奈津希からすると自慢の幼馴染の印象が強いからだろう。
「それにも答えたけど、優勝できたのは運があったという方が正しいわね。優勝候補の鷹藤選手が出場停止したから、私が優勝できたと言ってもいいからね」
「まぁ、そうかもな」
大会に参加していた鷹藤家の文康は、魔族の策によって大怪我を負うことになった。
傷自体は治療師たちのお陰で回復することができたが、意識がなかなか戻らず、出場を棄権するしかなかった。
その意識も大会の終了後すぐに覚め、もう何の問題もないということだ。
もしも、もっと早く目が覚めていたら、綾愛と戦っていたことだろう。
たまに伸の指導を受けていたため、綾愛も順調に実力を上げているとは思うが、文康と比べるとまだ足りない。
出場していれば、綾愛の優勝はたしかになかったかもしれない。
「あいつも悔しがっているだろうな。起きたら大会が終わってましたなんて」
「他人の不幸を喜ぶなんて悪趣味ね」
祖父を追い出した過去があることから、伸としては鷹藤家のことは好ましくない。
そのため、鷹藤家の文康のことは会話をしたこともないというのに嫌っている。
だからか、急遽出場できなくなり優勝を綾愛に掻っ攫われた文康のことを思うと、ざまあと思わず笑みが浮かんでしまう。
伸と鷹藤家の関係を知らない綾愛は、ジト目でその態度を注意した。
「おやっさんも引っ張りだこだな……」
注意された伸は、話を雑誌に戻す。
表紙は綾愛だが、その内容の多くは柊家の特集になっていて、巻頭部分は柊家当主である俊夫をメインとしたインタビュー記事だ。
「柊家の評判が上がったのは良いけど、鷹藤家と同格扱いされているのが困ったものね」
この大和皇国には、去年の1年間で魔族が4体も出現した。
その内3体は柊家が倒した……ということに世間的にはなっている。
本当の所は、伸によって倒された言って良い。
綾愛も父から聞いているため、そのことは分かっている。
だからこそ、うなぎ上りになった柊家の評価に少々困惑しているといったところだ。
特に、これまで長い間この国のトップだった鷹藤家と同列にされると、柊家としては困ってしまう。
柊家も名門ではあるが、抱えている魔闘師の規模と実力を比較すると、どうしても劣ってしまうからだ。
「まぁ、この柊家人気も、次第に治まるだろ」
「……そうね。少しの間我慢するわ」
去年がたまたまなだけで、早々魔族が出現するなんてことはない。
鷹藤家当主の康義も数十年ぶりに魔族との戦闘になったのだから、次に魔族が現れる頃には世間の意識は薄れている違いない。
そうでなくても、人間は平和が続けば危険に対して意識が薄れるものだ。
何年もしないうちに、魔族が出現した年として意識の片隅に追いやられることだろう。
「本当に柊家が鷹藤と同格になっちまえば、気にする必要もなくなるぞ」
「それはそうだけど……難しいわね」
同格扱いは過大評価だが、それを事実にしてしまえばいい。
そう伸が簡単に言うが、綾愛は冷静に否定する。
たしかに柊家を鷹藤家並にしたいところだが、そこまでするのには人材と資金が足りない気がしたためだ。
「そうかな? 去年のことで柊家の傘下に入りたがる魔闘師たちがいるだろうし、規模だけは近づけるんじゃない?」
「……そうかな?」
難色を示す綾愛に、奈津希が自分の考えを述べる。
去年の魔族討伐は、大和皇国中の魔闘師たちに強烈なインパクトを与えた。
それによって、柊家のグループに入りたがる者は多いはず。
そのなかには、実力はあるのに燻っている者がいるかもしれない。
そういった人間を確保すれば、柊家の底上げも難しくないはずだ。
奈津希に言われるとそんな気がして来たのか、綾愛は一考し始めた。
「綾愛様。そろそろ……」
「あっ! はい!」
考え始めた綾愛だったが、そこで伸をここまで連れてきた黒服の男性に話しかけられる。
山の魔物狩りの開始時刻になったからだ。
思ったより時間が経っていたらしく、綾愛は慌てて移動を開始した。
「ゴブリンなら2人に護衛なんて必要ないだろ?」
討伐へと向かうなか、伸は綾愛と奈津希に話しかける。
今回討伐する魔物はゴブリンと聞いている。
学園に入学したての頃の2人でも、たいして危険ではない相手だ。
1年で成長した今なら、よっぽどのことでもない限り怪我することなどないはずだ。
「私もそう言ったんだけど……」
「ご当主様が念のためだって」
「なるほど」
伸を護衛につけるのは、どうやら当主である俊夫の指示のようだ。
それを聞いて、伸はすんなりと納得した。
娘に対して親バカな面のある俊夫なら、たしかにそういった判断をしてもおかしくないからだ。
「まあ、俺は別に良いけど」
新年早々魔物退治に参加したのは、単純に金が目当てだ。
中学校の時から密かに魔物退治をして資金稼ぎをしていたので、別に金欠という訳ではないが、夏休みの時から飼い始めたピグミーモンキーのミモの遊び道具なんかを買うのに、ちょっと入り用になっただけだ。
最初は操作魔術の実験台でしかなかったのだが、飼い始めれば情が湧く。
伸は、暇なときはちょくちょく遊んでやるようになっていた。
『今年は揉め事なく済んで欲しいもんだ』
冬休みが終われば、すぐに後期の試験が始まり学年が上がる。
学園に入ってすぐに対決騒ぎを起こし、モグラの魔族の討伐。
対抗戦では名前持ちの魔族の襲来。
どれも、自分が関わることになってしまった。
考えてみれば、かなり濃厚な1年だったように思える。
2年になったら、去年のように揉め事に関わらないことを密かに願う伸だった。
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