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1学年 前期

第8話

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「始め!!」

「ヒャッハー!! くらえや!!」

 三門の合図により、伸たち4人と渡辺たち4人の戦いが開始された。
 そして、開始早々石塚がテンション高くピンポン玉サイズの魔力弾を連射させた。
 伸の策による先制攻撃だ。

『石、それはやられる奴の出す掛け声だ……』

 指示通りの先制攻撃は良いのだが、伸としてはその掛け声が気になる所だ。
 何だかこっちが悪者に思えてくるような掛け声だ。
 伸たちと隊を組むことになった石塚と吉井は、2人とも魔力を飛ばすことに特化した魔術師だが、少しその得意な分野が違った。
 石塚は連射が得意なタイプで、吉井は超遠距離狙撃を得意とするタイプだ。
 共に魔力を飛ばしたりするなどの攻撃が得意だが、戦う距離が変わってくる。
 中・遠距離の石塚、遠・超遠距離の吉井と言ったところだろうか。

「土壁!!」

「ナイス! 幸!」

 先制攻撃に反応したのは、D組の千倉幸代だった。
 咄嗟に地面に手を突いて土の壁を作り出し、石塚の魔力弾の攻撃を防いだ。
 同じくD組で彼氏の佐野守が、彼女の援護に感謝の言葉を発した。

「いきなりかよ!」

「野蛮人が!」

 千倉の作り出した土壁に隠れ、渡辺とF組の大橋博が好戦的な石塚に文句染みたことを言う。
 様子見をするつもりでいたからか、反応が遅れたことを誤魔化すための言葉だろう。

「俺が右、博が左で行くぞ!」

「おうっ!」

 このまま土壁に隠れていては、いつまで経っても勝負はつかない。
 石塚の連射攻撃の的を変えるべく、佐野と大橋は左右に分かれて土壁から飛び出した。

「石、左! 吉、右!」

「「了解!!」」

 壁から左右に出てきた2人を見て、伸が指示を出す。
 伸たちから見て左から出てきた佐野は、短刀(木製)の二刀流。
 単発の吉井よりも、連射型の石塚で対処するのが望ましいと考えての判断だ。

「オラッ!!」

「ぐっ!」

 石塚の魔力弾の連射に対し、佐野は避けるのと短刀で弾くことで対処する。
 連射速度が速いからか、中距離での攻撃と防御になった。

「くっ!」

「フッ! 1発の威力はあるようだが、避けてしまえばなんてことない!」

 右から出て来た大橋の方は、若干問題があった。
 吉井の魔力弾は、石塚のように連射出来ない。
 そのため、大橋は攻撃を躱しつつ、吉井との距離を少しずつ距離を詰めてきていた。
 石塚と吉井も、遠距離攻撃主体とは言っても武器を持っている。
 大和の魔術師が近接戦用に持つ木刀だ。
 しかし、剣術技術としては防御重視で、距離を取るために持っているだけというのが正しいかもしれない。
 槍が得意なのか、大橋は長い棒を持っている。
 大橋の技術によるが、接近戦になったら距離を取る前に吉井は負けてしまうかもしれない。

「吉!」

「行かせるか!」

「くっ!」

 接近されたら、吉井が負けになるかもしれない。
 それを阻止するために、了が援護に向かおうとする。
 しかし、それを見越していたのか、了に対して渡辺が木刀で斬りかかってきた。
 その攻撃に対処しなくてはならず、了が吉井の援護に行くことができなくなった。

「もらった!」

 了の援護がなくなったため、吉井はとうとう大橋の間合いに入ってしまった。
 移動加速による刺突攻撃が、吉井の腹へ目掛けて繰り出される。
 吉井は木刀を構えてはいるが、そのまま直撃して負けになると大橋は思っただろう。

“バシッ!!”

「なっ!」

 刺突が吉井に当たる前に、大橋の腕に魔力弾が直撃する。
 それによって刺突の軌道が、吉井の脇腹を掠るようにしてズレた。

「ふっ!」

「あっ!」

 攻撃が外れ、大橋は無防備の状態。
 そこに振るだけでよく、吉井の木刀が大橋の首筋に添えられた。

「大橋アウト!」

「吉! 避けろ!」

「がっ!!」

 真剣なら大橋の首は飛んでいた。
 そのため、三門は大橋の敗退を宣言する。
 それに安心した吉井に、伸は慌てたように声を出すが間に合わなかった。
 飛んできた魔力弾が腹に直撃し、吉井は軽く体を飛ばされた。

「吉井アウト!」

 石塚は佐野、了は渡辺の相手をしている。
 伸はというと、土壁に隠れつつ仲間の様子を窺っている千倉を相手にしていた。
 とは言っても、仲間の援護をさせないために、千倉が動けないようにするという地味な行為だ。
 しかし、吉井に危険が迫り、伸は動かなくてはならなくなった。
 魔力弾を飛ばし、棒の軌道をずらすことで吉井の勝利を得られたが、その隙に千倉からも魔力弾が発射されていた。
 その魔力弾によって吉井がやられ、痛み分けの状態になってしまった。
 本当はその千倉の魔力弾も止められたが、そんな速度で反射したら実力バレる可能性がある。
 申し訳ないが、死ぬわけでもないので吉井には負けてもらった。

「どうした? 人気者の振られ男!」

「くっ!! こいつ……」

 了と渡辺の戦いは、了が優勢に進めているようだ。
 渡辺はB組ではトップの実力と成績の持ち主だ。
 それでも、入試で試験官に一本入れて勝っている了の方が近接戦においての実力は上だ。
 渡辺は問題児の了が自分以上だと気付いて驚いているようだが、伸としては当然に思える。

「守!!」

「っ!!」

 石塚と佐野の方は、攻撃する石塚、避けつつ防ぐ佐野という状況のまま拮抗していた。
 恋人の援護をするためか、吉井を倒した千倉は佐野への援護をするべく石塚に向かって魔力弾を2発飛ばした。
 横から回り込むような軌道で飛んできた魔力弾が、左右から迫り来る。
 その攻撃を躱すため、石塚は一時佐野への攻撃をやめて回避に徹する。

「今だ!!」

「速っ!!」

 僅かに止まった隙を突き、佐野は魔術で移動速度を加速する。
 それにより、一気に石塚への距離を縮めて、両手の短刀を振ってきた。

「がっ!?」「ぐっ!?」

 木刀を腰に差していても、石塚は最後までそれを抜かない。
 短刀が自分に迫る中、伸たちと戦った時のように魔力弾を連射して反撃する。
 佐野の短刀が石塚の腹に当たるのと同時に、石塚の放った魔力弾が佐野に当たった。
 2人はほぼ同時にうめき声を上げて、お互い後方へと弾かれた。

「石塚、佐野! 両者アウト!」

 どっちも攻撃が当たったことにより、三門は両者アウトの判定を出した。
 またも痛み分けといった結果になった。

「守!!」

「彼氏の心配か?」

「っ!!」

 この結果は、伸の予想通りの展開だった。
 渡辺たちのメンバーは、それぞれのクラスでもトップクラスの実力者の集まりだ。
 それに引きかえ、了、石塚、吉井の3人は特化した能力の魔術師。
 3人の能力と、伸が実力を隠しながら戦うとなると、1人が1人と相打ちし、女子の千倉と伸の一騎打ちに持ち込めば勝てると思った。
 そんな無茶な指示に従ってくれ、石塚は見事に相打ちに持ち込んでくれた。
 彼氏がやられて動揺したのか、千倉は動揺していた。
 そんな中、伸は石塚のことは気にせず、土壁に隠れる千倉との距離を詰めていた。

「ハッ!」

「このっ!!」

「っ!!」

「千倉アウト!」

 案の定、女子の千倉は近接戦は全く得意ではないようだ。
 しかし、伸の木刀が振り下ろされるのを気にすることなく、魔力弾を放ってくる。
 発射されてすぐに伸の木刀が千倉の首筋に添えられ、千倉の負けが決定したのだが、問題が起きた。

「うがっ!!」

 千倉が放った魔力弾は伸に向けてのものではなかった。
 渡辺と戦っていた了に向けてのもので、背を向けていた了が気付いた時には背中に直撃していた。

「金井アウト!」

「……マジかよ?」

 相手のチームでは千倉が一番冷静だったのかもしれない。
 伸たちの相打ち作戦を逆手に取ったのか、自分が負けると分かって渡辺を残すことに最後の力を使ったようだ。
 これで残ったのは渡辺と伸になってしまった。
 思わぬ組み合わせになってしまい、伸は思わず愚痴をこぼした。

「よくやったぞ、幸代! くらえ!!」

「…………」

 了相手に追い込まれていたが、その了を巻き添いにした千倉に、渡辺は感謝の言葉をかける。
 影の薄い伸が相手なら余裕で勝てると踏んだのか、渡辺は何の小細工なしに伸へと突っ込んで来た。

「へぶっ!!」

「ほいっ!」

「渡辺アウト!」

 実力を隠しているため分からないといっても、伸相手にいくら何でも舐め過ぎだ。
 突っ込んで来た渡辺の足に向かって、気付かれないように地面から小さい石を突起させる。
 それに躓いた渡辺は、みっともなく顔面から地面にダイブした。
 そんな渡辺に容赦する事無く、伸は木刀で渡辺の頭を小突いた。

「勝者Ⅽ組!」

「「「「よっしゃ!!」」」」

 最後に無様を晒した渡辺が負けになり、これによって4対4のチーム戦は伸たちの勝利で終わることになったのだった。

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