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1学年 前期
第1話
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「……受かったか」
東にある島国、大和皇国。
その国に8つしかない学問と魔術を教える国立の学園の1つ、八郷地区にある高校の受験合否格通知が今日受験者たちに届けられた。
この国立の魔術学園は、卒業すれば就職において有利に働く。
それゆえにエリートの集まりとされているため、入試の合格者は涙を流す程喜ぶのが普通だ。
しかし、届けられた通知に書かれた合格の文字を確認したこの少年は、たいした感情を示さぬまま一言呟いた。
まるで合格することが分っていたかのような反応だ。
「まぁ、当然だな……」
まるで、ではなかった。
魔術学園の受験内容は筆記試験と魔術能力審査。
普通科高校の受験と同じ5科目と魔術に関する筆記試験を受けた後、魔術能力の審査を受けて合否を判定する。
筆記試験の点数も当然合否の判定に関わっているが、それ以上に魔法能力審査の方が重要視される。
筆記の合格ラインが6、7割前後と言われているたため、7割回答してその時点でこの少年は解答をやめた。
真面目に解答して、首席合格者になるのを回避するためだ。
主席合格者は、入学式の時に新入生代表挨拶をおこなうというのが決まっている。
それが嫌だったために必要最低限の解答に抑えたのだ。
自己採点ではそのラインは突破していたので、この時点で受かると思っていた。
分かっていたことなので、別に驚くことがないというのが少年の正直な感想なのだろう。
「んじゃ、入学式までのんびりするか……」
合格通知に軽く目を通し、少年はもう一度寝るために布団へと戻っていった。
少年の名前は新田伸。
一応この物語の主人公である。
◆◆◆◆◆
「おっす! 俺、金井了。よろしく!」
「あぁ、新田伸だ」
入学式開始前、たまたま隣に座った少年が伸に話しかけてきた。
伸よりも体格がよく、健康的な印象を受ける少年。
無視するのもおかしいため、伸も挨拶を返した。
「伸でいいか? 俺も了でいいからよ!」
「あぁ。よろしく、了!」
初対面でも物怖じしない態度は好ましい。
了から出された手に伸も手を伸ばし、2人は握手を交わした。
「伸はどこから来たんだ?」
「花紡からだ」
大和皇国の中で東に位置する八郷地区。
その西にある花紡州が伸の出身地だ。
市とは言っても、伸が住んでいたところは外れの方で、畑に囲まれた長閑な場所だ。
この学園のある浅都州の西隣の町だ。
「隣だな! 俺は右菅からだ」
「そうか……」
右菅州は花紡州の北東に位置する州で、浅都のベッドタウンという印象の強い州だ。
人口も多く、花紡に比べると少し発展している州と言ったところだ。
「んっ? あれ柊じゃないか?」
「柊って、あの……」
黒髪のロングで、可愛らしい感じの容姿をした女子が壇上近くの新入生用の椅子へと腰かけた。
その女子を見て、了が言った柊という言葉に伸は反応する。
この世界には、魔物と呼ばれる危険な異形の生物が存在する。
それから国を守るために、強力な力を有した一族がそれぞれの地区に存在している。
八郷地区において最大の魔術一族が柊家であり、魔術学園に入ろとしている者で名を知らない者はいないだろう。
「同じ年齢の女子がいるって聞いてたけど、何でこの学園に来たんだ? 官林地区の方がよかったんじゃ……」
「そうだな……」
柊家は戸谷雷という州を基盤としていて、花紡の北西に面している。
八郷地区の西に位置する官林地区。
少し遠いが、戸谷雷からなら官林地区にある学園でもよいはず。
というよりも、首都である官林があるのだから、柊家ならそちらを選んでも良かったような気がする。
魔術学園はエリートと言われるが、その中でもやはり官林の学園の方が上に見られる傾向にあるので、何でそちらに行かなかったのだろう。
「まぁ、他人の考えることなんて分からないしな……」
柊がこの八郷学園を選んだ理由なんて、本人にしか分からないことだ。
それが分かった所で、有名一族の柊に関わることなど無いだろう。
そのため、伸は考えるのをやめた。
「おぉ……、お前結構ドライだな」
伸たちのような新入生だけでなく、この場にいる保護者・教職員・関係者の誰もが柊家の令嬢の存在に気がいっている。
しかし、そんな中あっさりと興味をなくしている伸に、了は鼻白んだ。
柊家と言うだけでなくても、彼女はかなりの美人だ。
健全な男子なら、もっと興味を示してもいいように感じる。
「あんな有名人に関わったら、きっとなんか揉め事に巻き込まれるぞ! 俺は平凡に3年間を過ごしたいんだ」
田舎者の伸が、もしも柊と仲良くなろうと近付こうものなら、きっと他の男子からの嫉妬を受ける可能性がある。
そんなことになったら、せっかく入った学園生活が過ごしづらくなるかもしれない。
伸としては、モブでも良いから平凡に過ごすことを望んでいる。
「卒業すれば魔闘組合に試験無しで入れるからな……」
この世界には、魔物と呼ばれる異形の姿をした生物が出現することがある。
魔術の素となる魔素が原因である。
魔物は危険であるため、それと戦う者にも相応の実力を必要としている。
その魔物と戦う者を管理しているのが魔闘組合で、その組織に登録していない者は、魔物から取れる肉やら皮などの素材を売買することが難しい。
倒した魔物の強さによっては1日で大金を手に入れられる可能性があり、それがあるため魔闘組合に所属するのが魔術師が人気の職業となっている。
魔闘組合に所属するには試験があり、それに合格しない限り登録できないことになっている。
国立の魔術学園の卒業資格はその試験の免除になるため、伸の言うように平凡に卒業したいと思う者も少なからずいるため、了もなんとなく伸の発言に納得する。
「……でも、ちょっとは青春ぽいことしても罰は当たんなくねえか?」
「別に了も俺と同じようにしろなんて言わないさ……」
高校生なのだから、了の言うように多少青春ぽいことを期待するのも分からなくはない。
平凡に過ごしたいというのは伸の考えだ。
そのため、了は好きにすればいい。
会って間もないが、了と話しているとは何となく馬が合うと思える。
しかし、揉め事を持ってくることだけは勘弁願いたいところだ。
「おっと! 始まるみたいだ……」
了と色々話している間に、いつの間にか入学式の開始時刻になったようだ。
司会役も入ってきたのを見て、了は居住まいを正した。
「新入生代表挨拶! 柊綾愛!!」
「はい!」
檀上付近に座っていたのは、どうやら主席入学による代表挨拶をするためだったようだ。
名前を呼ばれた柊家の女子は、返事をして壇上へと上がっていった。
そして、そのまま代表挨拶を始めた。
『それにしても、キレイになったもんだ……』
壇上で新入生代表の挨拶の文章を読み上げる綾愛。
その姿を眺めつつ、伸は心の中で呟いた。
実は昔、伸は綾愛と会った事がある。
その時から幼さが消えているが、面影は残っている。
壇上の綾愛を見ていたら、昔のことを思いだして伸は懐かしく感じていた。
『……なかなか魔力も多いが、あの程度で主席か……』
魔術師として有名な柊家。
みんなから主席入学も当然と思われているし、綾愛本人もそう思っているかもしれない。
しかし、伸の中では冷めた目で見ていた。
誰にも気づかれないように壇上に立つ綾愛の魔力量を見てみると、はっきり言ってたいしたことがない。
というより、魔闘組合に所属している人間もいることだろうが、ここの会場にいる全員が伸にとっては大差なく感じる。
『まぁ、俺がおかしいだけか……』
本来、この会場にいる人間は、魔術師としてはかなり上のランクの者たちが集まっている。
たいしたことなく見えるのは、伸自身が思ったことが正解だ。
実力を隠しているが、実は伸は15歳にして大和皇国最強だ。
しかし、そのことを知っている者は存在していない。
東にある島国、大和皇国。
その国に8つしかない学問と魔術を教える国立の学園の1つ、八郷地区にある高校の受験合否格通知が今日受験者たちに届けられた。
この国立の魔術学園は、卒業すれば就職において有利に働く。
それゆえにエリートの集まりとされているため、入試の合格者は涙を流す程喜ぶのが普通だ。
しかし、届けられた通知に書かれた合格の文字を確認したこの少年は、たいした感情を示さぬまま一言呟いた。
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「まぁ、当然だな……」
まるで、ではなかった。
魔術学園の受験内容は筆記試験と魔術能力審査。
普通科高校の受験と同じ5科目と魔術に関する筆記試験を受けた後、魔術能力の審査を受けて合否を判定する。
筆記試験の点数も当然合否の判定に関わっているが、それ以上に魔法能力審査の方が重要視される。
筆記の合格ラインが6、7割前後と言われているたため、7割回答してその時点でこの少年は解答をやめた。
真面目に解答して、首席合格者になるのを回避するためだ。
主席合格者は、入学式の時に新入生代表挨拶をおこなうというのが決まっている。
それが嫌だったために必要最低限の解答に抑えたのだ。
自己採点ではそのラインは突破していたので、この時点で受かると思っていた。
分かっていたことなので、別に驚くことがないというのが少年の正直な感想なのだろう。
「んじゃ、入学式までのんびりするか……」
合格通知に軽く目を通し、少年はもう一度寝るために布団へと戻っていった。
少年の名前は新田伸。
一応この物語の主人公である。
◆◆◆◆◆
「おっす! 俺、金井了。よろしく!」
「あぁ、新田伸だ」
入学式開始前、たまたま隣に座った少年が伸に話しかけてきた。
伸よりも体格がよく、健康的な印象を受ける少年。
無視するのもおかしいため、伸も挨拶を返した。
「伸でいいか? 俺も了でいいからよ!」
「あぁ。よろしく、了!」
初対面でも物怖じしない態度は好ましい。
了から出された手に伸も手を伸ばし、2人は握手を交わした。
「伸はどこから来たんだ?」
「花紡からだ」
大和皇国の中で東に位置する八郷地区。
その西にある花紡州が伸の出身地だ。
市とは言っても、伸が住んでいたところは外れの方で、畑に囲まれた長閑な場所だ。
この学園のある浅都州の西隣の町だ。
「隣だな! 俺は右菅からだ」
「そうか……」
右菅州は花紡州の北東に位置する州で、浅都のベッドタウンという印象の強い州だ。
人口も多く、花紡に比べると少し発展している州と言ったところだ。
「んっ? あれ柊じゃないか?」
「柊って、あの……」
黒髪のロングで、可愛らしい感じの容姿をした女子が壇上近くの新入生用の椅子へと腰かけた。
その女子を見て、了が言った柊という言葉に伸は反応する。
この世界には、魔物と呼ばれる危険な異形の生物が存在する。
それから国を守るために、強力な力を有した一族がそれぞれの地区に存在している。
八郷地区において最大の魔術一族が柊家であり、魔術学園に入ろとしている者で名を知らない者はいないだろう。
「同じ年齢の女子がいるって聞いてたけど、何でこの学園に来たんだ? 官林地区の方がよかったんじゃ……」
「そうだな……」
柊家は戸谷雷という州を基盤としていて、花紡の北西に面している。
八郷地区の西に位置する官林地区。
少し遠いが、戸谷雷からなら官林地区にある学園でもよいはず。
というよりも、首都である官林があるのだから、柊家ならそちらを選んでも良かったような気がする。
魔術学園はエリートと言われるが、その中でもやはり官林の学園の方が上に見られる傾向にあるので、何でそちらに行かなかったのだろう。
「まぁ、他人の考えることなんて分からないしな……」
柊がこの八郷学園を選んだ理由なんて、本人にしか分からないことだ。
それが分かった所で、有名一族の柊に関わることなど無いだろう。
そのため、伸は考えるのをやめた。
「おぉ……、お前結構ドライだな」
伸たちのような新入生だけでなく、この場にいる保護者・教職員・関係者の誰もが柊家の令嬢の存在に気がいっている。
しかし、そんな中あっさりと興味をなくしている伸に、了は鼻白んだ。
柊家と言うだけでなくても、彼女はかなりの美人だ。
健全な男子なら、もっと興味を示してもいいように感じる。
「あんな有名人に関わったら、きっとなんか揉め事に巻き込まれるぞ! 俺は平凡に3年間を過ごしたいんだ」
田舎者の伸が、もしも柊と仲良くなろうと近付こうものなら、きっと他の男子からの嫉妬を受ける可能性がある。
そんなことになったら、せっかく入った学園生活が過ごしづらくなるかもしれない。
伸としては、モブでも良いから平凡に過ごすことを望んでいる。
「卒業すれば魔闘組合に試験無しで入れるからな……」
この世界には、魔物と呼ばれる異形の姿をした生物が出現することがある。
魔術の素となる魔素が原因である。
魔物は危険であるため、それと戦う者にも相応の実力を必要としている。
その魔物と戦う者を管理しているのが魔闘組合で、その組織に登録していない者は、魔物から取れる肉やら皮などの素材を売買することが難しい。
倒した魔物の強さによっては1日で大金を手に入れられる可能性があり、それがあるため魔闘組合に所属するのが魔術師が人気の職業となっている。
魔闘組合に所属するには試験があり、それに合格しない限り登録できないことになっている。
国立の魔術学園の卒業資格はその試験の免除になるため、伸の言うように平凡に卒業したいと思う者も少なからずいるため、了もなんとなく伸の発言に納得する。
「……でも、ちょっとは青春ぽいことしても罰は当たんなくねえか?」
「別に了も俺と同じようにしろなんて言わないさ……」
高校生なのだから、了の言うように多少青春ぽいことを期待するのも分からなくはない。
平凡に過ごしたいというのは伸の考えだ。
そのため、了は好きにすればいい。
会って間もないが、了と話しているとは何となく馬が合うと思える。
しかし、揉め事を持ってくることだけは勘弁願いたいところだ。
「おっと! 始まるみたいだ……」
了と色々話している間に、いつの間にか入学式の開始時刻になったようだ。
司会役も入ってきたのを見て、了は居住まいを正した。
「新入生代表挨拶! 柊綾愛!!」
「はい!」
檀上付近に座っていたのは、どうやら主席入学による代表挨拶をするためだったようだ。
名前を呼ばれた柊家の女子は、返事をして壇上へと上がっていった。
そして、そのまま代表挨拶を始めた。
『それにしても、キレイになったもんだ……』
壇上で新入生代表の挨拶の文章を読み上げる綾愛。
その姿を眺めつつ、伸は心の中で呟いた。
実は昔、伸は綾愛と会った事がある。
その時から幼さが消えているが、面影は残っている。
壇上の綾愛を見ていたら、昔のことを思いだして伸は懐かしく感じていた。
『……なかなか魔力も多いが、あの程度で主席か……』
魔術師として有名な柊家。
みんなから主席入学も当然と思われているし、綾愛本人もそう思っているかもしれない。
しかし、伸の中では冷めた目で見ていた。
誰にも気づかれないように壇上に立つ綾愛の魔力量を見てみると、はっきり言ってたいしたことがない。
というより、魔闘組合に所属している人間もいることだろうが、ここの会場にいる全員が伸にとっては大差なく感じる。
『まぁ、俺がおかしいだけか……』
本来、この会場にいる人間は、魔術師としてはかなり上のランクの者たちが集まっている。
たいしたことなく見えるのは、伸自身が思ったことが正解だ。
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しかし、そのことを知っている者は存在していない。
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