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第14章

第369話

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「どこへっ!?」

 ケイを見失った玄武は、右へ左へキョロキョロと顔を動かし、その姿を探した。
 探知でもその姿を探すが、その動きが速すぎるのか、一向にその姿は発見できない。

「……ここだ!」

 全神経を周囲の探知に集中し、玄武はケイの姿を探そうとする。
 そして、微かに感じていた気配が、自分の目の前に来たと感じた所で、持っている鎚による攻撃を放った。

「残念!」

「なっ!!」

 振り下ろされた鎚は空振りに終わる。
 玄武が探知した気配は、鎚が当たる瞬間に加速したのだ。
 攻撃が空振りになった玄武は、完全に無防備。
 そんな玄武の懐に、ケイは姿を現した。

「フンッ!!」

「うごっ!!」

 懐に入ったケイは、拳銃を握ったまま玄武の腹へと拳を打ち込む。
 その衝撃で、玄武の巨体がわずかに浮き上がった。 

「フンッ! 打撃など……なっ!!」

 全身を鎧によって覆われている玄武。
 その鎧に自信があるためか、打撃を回避するという思考を持っていないのだろうか。
 多少の衝撃を受けつつも、平気な顔してケイに裏拳を飛ばして振り払う。
 その攻撃が当たることはなかったが、ケイに距離を取らせることで追撃を阻止することができた。
 そして、かなりの衝撃の攻撃だったが、それを弾いてしまう自分の鎧を自慢しようとしたところで異変に気付く。
 どんな攻撃も防ぐ自身のある自慢の鎧に、先程の一撃でヒビが入っていたからだ。

「亀なら腹の方が弱いと思ったが、正解だったようだな?」

 人化しているとは言っても、玄武の元の姿は亀のような姿。
 防御力が高いと言っても、それは背面側の方であって、腹側はそれ程でもないと予想した。
 この状態の攻撃でも防がれるようならきついと感じていたが、ヒビが入ったことでケイは笑みを浮かべた。

“スッ!”

「おのれっ!!」

「フッ!」

 ケイは、再度移動を開始する素振りを見せる。
 速度が違い過ぎることを理解した玄武は、ケイを近付かせまいと土魔法を発動した。
 串刺しを狙った地面から無数の棘が出現する。
 しかし、その攻撃もケイには通用しない。
 出現する棘をスイスイと躱し、ケイはまたも玄武との距離を詰めた。

「くっ!!」

「無駄!」

 接近された玄武は、振り払う目的で鎚を横に振る。
 そんな苦し紛れの攻撃が当たる訳もなく、ケイは身を屈めて回避しながら、またも玄武の懐へと入った。

「ハァーー!!」

「うぐぐぐっ!!」

 懐に入ったケイは、拳で玄武の腹部を連打する。
 殴るたびに鎧がヒビ入り、内部に伝わる衝撃で玄武は表情を歪めた。

「調子に乗るな!!」

 これ以上攻撃を受けると、腹部の鎧が完全に破壊されてしまう、
 強固で自慢の鎧を破壊するような攻撃を、生身で喰らったらただでは済まない。
 なんとかケイを自分から話すために、玄武は回し蹴りを放った。

「シッ!!」

「ガッ!!」

 玄武の蹴りが迫るが、ケイはその蹴り寄りも速く動く。
 意識が下に向いたことにより、ケイはがら空きになった玄武の顔面に拳を打ち込んだ。
 兜は被っていても、晒している顔を殴られてはダメージを受けないわけがない。
 玄武は強烈な一撃に目を回しながら、数歩たたらを踏んだ。

「ハッ!!」

「グッ!!」

 ケイは追撃の手を止めない。
 体勢を崩した玄武の顔面に、すぐさま銃口を向けて引き金を引いた。
 顔面に受けた攻撃で一瞬意識が飛んだ玄武だったが、すぐに我に返り、ケイの攻撃に反応する。

“バキッ!!”

「何っ!?」

 至近距離から弾丸を交わすのは不可能。
 そう判断した玄武は、兜で受けることを選択する。
 その選択は成功し、顔面に直撃することは回避した。
 しかし、弾丸を受けた兜は、威力に耐えきれず音を立てて崩れ落ちた。

「くそっ!!」

 何の対策もなしに戦っては、ケイの好きに痛めつけられる。
 そう判断した玄武は、まずは距離を取ることを選択し、影移動によってその場から姿を消した。

「逃がすか!」

「……そうか!!」

 影移動によって距離を取った玄武。
 しかし、どこに移動したのかは探知すれば分かる。
 すぐに玄武の居場所を見つけたケイは、そちらへ向けて移動を開始する。
 ケイの速度を考えると、思考できる時間は数秒。
 その時間を使用して、玄武はケイに勝つためにどうするべきかを必死に考える。
 そして、ケイが間合いに入る前に勝利のための策に思い至り、それを実行した。

「っ!! チッ!! 気付きやがったか……」

 玄武がとった行動。
 それは、亀のように背中の鎧の中に身を隠すという行為だ。
 攻撃を捨てた完全に防御に専念するような対応に、ケイは思わず舌打をする。
 ケイにとって、一番嫌な対策方法だったからだ。

「お前は強い。しかし、その状態がいつまで続くかな?」

 莫大な量の魔力を身に纏っての戦闘。
 それをコントロールしながらの戦闘は、予想通り脅威だ。
 しかし、いくら魔力に愛されたエルフだからといって、それだけのことがいつまでも続けられるとは思えない。
 攻撃が与えられないことは、僅かな時間で証明された。
 ならば、身に着けている鎧の中で最強の防御力を誇る甲羅に閉じこもり、その状態が治まるまでの時間を耐えきれば良いだけだ。

「なら……」

 完全防御で時間が過ぎるのを待つことを選択した玄武に、ケイはゆっくりと近付き、深く息を吸う。
 そして、

「ハーー!! オラオラオラオラ……!!」

 反撃がないのであれば、強固とは言っても破壊するだけ。
 ケイは全力で拳を連打し、玄武の甲羅破壊を開始した。

「ぐううう……」

 必死で防御している玄武は、甲羅の内部で呻き声を上げる。
 甲羅によりダメージを受けていないが、衝撃が内部にまで伝わて来ているからだ。

『くそっ!! 間に合え!!』

 連打連打で玄武の甲羅にもヒビが入り始める。
 しかし、この状態の魔闘術を開始して数分経っている。
 強力な力を得る代わりに、魔力の消耗が激しいため、この状態がどこまで持つか分からない。
 なかなか甲羅を破壊できないことに、ケイは内心焦っていた。

「ハーーッ!! っ…………」

 ケイの放った拳により、玄武の甲羅が破壊される。
 しかし、そうなった所でケイの身に纏っていた魔力が治まってしまった。

「ぐうぅ……、ハハッ! 勝利は我に傾いたようだな?」

 甲羅が破壊されて絶体絶命の状態になったが、ケイの魔力が治まったのを見て、玄武は高笑いを始めた。
 無敵のような状態も時間切れ、後は戦う力もたいして残っていない状況だろう。
 劇的逆転勝利を得たと感じた玄武は、立ち上がり、動かなくなったケイへと近付いて行った。 

「さらばだエルフよ」

 ヒリヒリするようなケイとの戦闘を楽しめた玄武は、最後に一言呟いて武器となる鎚を振り上げた。










「誰が時間切れだっていった?」

“ボッ!!”

「なっ!?」

 玄武の鎚が振り下ろされる直前、ケイが顔を上げて呟く。
 それと同時に、ケイはまたも高濃度の魔力による魔闘術を発動させた。
 魔力切れ寸前だと思っていただけに、玄武は目を見開くことしかできなかった。

「死ね!!」

「……バカ…な……」

 一言呟くと、ケイは一瞬にして玄武の背後へと移動する。
 その手には、死んだ妻の形見である刀が握られていた。
 そして、ケイがその刀を鞘に納めると、玄武は全身から大量の出血をして崩れ落ちていった。

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