上 下
359 / 375
第14章

第359話

しおりを挟む
「えっ? もう半分まで行っているの?」

 魔王サカリアスを封印した結界内に、突如できたダンジョンの攻略を続けるケイと2匹の従魔。
 彼らは一日中攻略を進めているのではなく、夜になると地上に転移して、拠点で体を休めている。
 その拠点に1週間に1度、安否確認のためにケイの息子や孫が様子を裳に来てくれている。
 魔法の指輪があるので食料のことは問題ないとは思うが、ケイのために新鮮な野菜などを持ってきている。
 そして、今回来たのがカルロスだ。
 ここは元々強力な魔物ばかりが蔓延るダンジョンで、核の破壊のために下層に近付けば近付くほどに魔物の強さが上がっていっているのと共に罠の数も増えている。
 下層に行くほど攻略難関なダンジョンを、ケイたちは順調に進めていっており、1ヵ月で半分まで攻略したとのことだ。
 ケイ加速度を聞いたカルロスは、少し呆れも混じったような驚きで父のケイへと問いかけた。

「あぁ」

「「あぁ」って……」

 まるで人ごとのように軽い返答をしてくる父に、カルロスは今度こそ呆れた。
 調査に入っただけでの印象だが、ここの魔物はまともじゃない。
 変異種のオンパレードといったような魔物ばかりが生息している。
 そんなダンジョンを、1ヵ月で半分もに攻略しているというのは、はっきり言って異常な速さだ。
 それをなんてことないように話す父も、異常な存在に思えてきた。

「……って、それは今更か……」

「……?」

 よく考えたら、父が異常なことは今に始まったことではないことをカルロスは思いだした。
 そんなカルロスの呟きに、ケイは首を傾げるしかなかった。
 物心ついた時から、父と兄は越えるべき存在として存在していた。
 成長するにつれ、兄との実力差は大差ない程になっていると思う。
 しかし、父との差と考えると、いつまで経っても追いつけないでいる。
 はっきり言って、追いつけると思えなくなっている。
 なので、この異常な速度での攻略も、父にとってはたいしたことないと思うのが普通なのかもしれない。

「無茶してないか?」

 たいしたことないかもしれないが、かなり急いでいるようにも感じる。
 他にも同じようなダンジョンが3つあるとは言っても、栄養となる生物が大量に入り込まない限りすぐに魔王が復活するとも思えない。
 そもそも、ケイが1人で全部攻略する必要はないのだから、急ぐ必要はないためカルロスは、心配そうにケイに問いかけた。

「俺と言うより、こいつらが元気といった方が良いかな。ボス以外の相手をしてくれているんだ」

「キュウとクウが?」

 カルロスの問いに対し、ケイはキュウとクウを指差し答える。
 その答えを聞いて、カルロスはケイの側にいるキュウとクウに目を向ける。
 カルロスの差し入れの野菜から作られた朝食を食べ、2匹は少しマッタリしている。

「キュウもクウも無茶するなよ?」

【大丈夫!!】「ワウッ!」

 2匹とも種族の割にはとんでもない実力をしているが、ここの魔物を相手にするのは少し厳しい気がする。
 そんな2匹がこの攻略速度を生み出しているとなると、無理しているのではないのかと、ケイ以上に心配になってくる。
 カルロスが気を付けるように言うと、2匹は元気に返答してきた。
 その様子を見る限り大丈夫そうだが、主人に従順な性格をしている2匹なので、少ししんどいくらいでは言ってこないだろう。
 特にキュウはケイの役に立てるなら命も平気で差し出してしまいそうなところがあるため、本当に大丈夫なのだろうか不安だ。

「何年一緒にいると思っているんだ? ちゃんと2匹の様子を見ているから安心しろ」

「……そうだね。それも今更だね」

 カルロスがキュウとクウのことを心配している気持ちもわかる。
 ケイも同じように思っているからだ。 
 しかし、そもそもキュウとはカルロスよりも付き合いが長いため、表情などから体調などの状態を読み解ける。
 その自分が問題ないと判断できるので、今の所は大丈夫だ。
 ケイのその力強い言葉を聞いて、カルロスは納得した。

「他の結界内は大丈夫か?」

 調査によって、他の魔王たちを封印をした結界内もここと同じようなダンジョンができていた。
 ここのダンジョンは、自分と従魔たちによって問題ないことは分かっているが、他のダンジョンま で同じとも限らない。
 他のダンジョンに異変が起きていたら、攻略を進めている場合ではないため、ケイは尋ねる。

「特に異常はないね」

「そうか」

 ケイに言われた訳ではなく、魔王封印に関わった者たちは、他のダンジョンの調査を続けている。
 南にあるエルフ王国側のダンジョンはレイナルドが、東のダンジョンはカルロス、西のダンジョンはラウルが主に担当して調査を継続しておこなっている。
 それぞれの調査によると、今の所ダンジョンに異変はないため心配ない。
 それを聞いて、ケイはひとまず安心した。

「さてと、そろそろ今日も攻略に向かうか……」

【ハ~イ!】「ワウッ!」

 カルロスが来てくれたことで、いつもよりのんびりとした朝になった。
 そろそろ出発しないと、すぐ昼になってしまう。
 急ぐ必要はないのだが、何もしていないで魔王が復活するようなことになるのは困る。
 もしも魔王が復活したとしたら、また同じように封印できるか分からない。
 そのため、少しでも不安の芽があるというのなら、摘んでおくに越したことはない。
 ダンジョンによって魔王が復活を目指しているというのならそれを潰しておこうと、ケイはいつものように攻略に向かうことにした。
 そのケイの言葉に、キュウとクウは嬉しそうに返事をした。

「……くれぐれも気を付けて」

「分かってるよ」

 気のせいだろうか。
 エルフ王国でのんびり農作業をしている時のケイも楽しそうだが、今のケイもなんとなく楽しそうな表情をしている。
 たまには休むように言うつもりでいたが、カルロスはその言葉を言う気が失せた。
 そのカルロスの思いは間違いではない。
 ケイにとって、王国でのんびりした生活も楽しいが、ここの生活も昔のように無人島生活を送っている気がして楽しいのも事実だからだ。

「じゃあ、来週また来るよ」

「あぁ」

 ケイが早々に王位を譲ってしまったため、王国はレイナルドによって運営されている。
 カルロスの仕事は、レイナルドの補佐だ。
 その仕事量は、レイナルドほどではないとは言っても結構ある。
 帰って仕事をこなすべく、カルロスはケイに挨拶をして王国に戻ることにした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

帝国の魔女

G.G
ファンタジー
冥界に漂っているあたしに向けられている、もの凄い敵意と憎悪に気づいた。冥界では意識も記憶もないはずなのに?どうやら、そいつはあたしと相打ちになった魔王らしい。そして冥界の外に引っ張られようとしている時、そいつはあたしに纏わり付こうとした。気持ち悪い!あたしは全力でそいつを拒否した。同時にあたしの前世、それも複数の記憶が蘇った。最も古い記憶、それは魔女アクシャナ。 そう、あたしは生まれ変わった。 最強の魔人、カーサイレ母様の娘として。あたしは母様の溺愛の元、すくすくと育つ。 でも、魔王の魔の手は密かに延びていた。 あたしは前世のアクシャナやその他の記憶、スキルを利用して立ち向かう。 アクシャナの強力な空間魔法、そして八百年前のホムンクルス。 帝国の秘密、そして流動する各国の思惑。 否応なく巻き込まれていく訳だけど、カーサイレ母様だけは絶対守るんだから!

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第六部完結】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

異世界の無人島で暮らすことになりました

兎屋亀吉
ファンタジー
ブラック企業に勤める普通のサラリーマン奥元慎吾28歳独身はある日神を名乗る少女から異世界へ来ないかと誘われる。チートとまではいかないまでもいくつかのスキルもくれると言うし、家族もなく今の暮らしに未練もなかった慎吾は快諾した。かくして、貯金を全額おろし多少の物資を買い込んだ慎吾は異世界へと転移した。あれ、無人島とか聞いてないんだけど。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン
ファンタジー
高校二年生にもかかわらず、見た目は小学生にも見える小柄な体格で、いつものようにクラスメイトに虐められてロッカーに閉じ込められた倉戸 新矢(くらと あらや)。身動きが取れない間に、突然の閃光と地震が教室を襲う。 気を失っていたらしく、しばらくして目覚めてみるとそこは異世界だった。 異色な職種、他人からスキルを習得できるという暴食王の職種を活かして、未知の異世界を仲間達と旅をする。

処理中です...