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第13章

第350話

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「フフッ! まずまずだな……」

 足元に転がっていた人間の腕を拾い上げ、肉にかじりつき、租借しながら感想を述べる。
 黒い服装に黒い翼。
 この者が魔王サカリアスである
 これまでケイたちが封印した魔王たちと、見た目に大差はない。
 強いて違うとすれば顔の形くらいのものだろう。

「やはり食事は質より量だな。その点、人族は数だけは多いから食い尽しには困らない」

 サカリアスが人族を選んだ理由は、他の魔王たちが好みの味を求めるのに対し、単純に量を求めてのことだ。
 食事を終えたサカリアスは、周りを取り囲む人族の軍に目を向ける。
 突如現れ、町1つを消し去った魔王に対し、東西にある国から軍が差し向けられた。
 どうやら、両国が主張し合う国境線にいるらしい。
 実力差も分からず兵を仕向けてきたためそれら全てを返り討ちにしたら、今度は両国とも大軍を率いてやってきた。
 それを見て、サカリアスは舌なめずりして両軍の動きを見ることにした。

「魔力を込めろ!! 何としてもあの化け物を仕留めるのだ!!」

「「「「「ハッ!!」」」」」

 予てより問題となっていた東のルステ王国との国境沿いに、一体の化け物が出現した。
 町を破壊し、先遣隊として送った兵たちを皆殺しにしたという話だった。
 大陸北西の地を支配するエルスール王国としては、数年前に魔族によって壊滅寸前だった国を吸収して国土を広げて波に乗るいい機会だと思ったが、そんな事を言っていられス状況ではなくなった。
 その化け物退治に、軍は本腰を入れなければならなくなった。
 先遣隊があっさりとやられた以上、出し惜しみしている場合ではない。
 国によって開発されたおおきな筒に向けて、指揮官の指示を受けた者たちが魔力を注ぎ込み始めた。

「おぉ、合成魔法か……」

 離れた位置からこちらへ向けて何かしているのが見える。
 西の方角にいる軍がやっていることを見て、サカリアスは楽しそうに呟く。
 数が多くても、人族は1人1人が弱い。
 ならば、その弱い力でも力を合わせることで強力な攻撃をできるようにと開発されたのが合成魔法だ。
 たしかに自分相手に強力な攻撃となると、合成魔法を撃つしか方法はないだろう。

「おっ? こっちもか?」

 反対にいる東の軍の方を見ると、これまた同じように筒のような物に魔力を溜め始めている。
 多少筒の形に違いがあるとは言っても、やはり考えることは同じなようだ。

「確かにあれだけの量の魔力攻撃は通用するだろうが……」

「撃てっ!!」「撃てっ!!」

 東西の指揮官が、合わせた訳でもなくほぼ同時に号令をかける。
 それにより、東西からサカリアスに向けて強力な魔力砲が発射された。

“ズドーーーン!!”
 ほぼ同時に発射された魔力砲は一直線にサカリアスへと飛んで行き、直撃すると大爆発を巻き起こした。

「やった!!」

「死んだか!?」

 大爆発によって巻き上がった土煙によって見えないが、確実に魔力砲が直撃した。
 いかに化け物でも、ひとたまりもないはず。
 そう考えた東西の指揮官は、勝利を確信するように笑みを受けべた。

「残念。この程度で死ぬほどやわではないのでな」

 爆発によって巻き起こった土煙が治まると、指揮官たちの言葉に答えるかのようにサカリアスが無傷の状態で姿を現した。

「そんな……」

「いいね! その絶望した表情」

 強力な魔力砲が直撃したにもかかわらず、全く無傷。
 実際の所は、体の一部を残して粉々に吹き飛んだのだが、土煙が治まるまでに再生したのだ。
 そんな特性を知らなければ、誰だってこの状況に驚くことだろう。
 東西の指揮官や兵たちが、信じられないと言ったような表情でこちらを見ている。
 その驚愕の表情を見て、サカリアスは心底嬉しそうに笑みを浮かべた。

「では、反撃と行こう……、しかし、どちらから潰すべきだ?」

 驚愕の表情を見るために、回復したとはいえ痛い思いをしたのだ。
 そのお返しをしないと気が済まないため反撃に出ようとしたサカリアスだったが、東西の軍が掲げている国旗を見ると別々の国。
 片方へ攻撃しているうちに、もう片方に逃げられるかもしれない。
 どちらを攻撃するか決めかねるように、サカリアスは左右に首を振る。

「迷ったら……両方だ!」

「「「「「っっっ!!」」」」」「「「「「っっっ!!」」」」」

 どちらを攻撃するか悩んでいたサカリアスは、両手を広げて両軍ヘ向けて照準を合わせる。
 そして、先程東西から放たれた魔力砲と同程度の魔力を込めた風魔法を、両軍へ向けて発動させた。
 サカリアスによって放たれた魔法により、両陣営に巨大な竜巻が巻き起こった。

「ギャアァー!!」「ウガッ!!」「グヘッ!!」

「ハハハッ! 雑魚でも殺しは楽しいな」

 竜巻に呑まれ、大量の人間が風の刃によって切り刻まれて行く。
 それによって、東西から無数の悲鳴が聞こえてくる。
 その悲鳴を聞きながら、サカリアスは楽しそうに笑い声を上げた。

「……んっ?」

 巨大竜巻が治まると、そこには両軍とも死屍累々といった光景が広がっていた。
 運よく生きんこった者もいるが、恐怖に震え、とてもではないが戦えるような状況ではない。
 食料が山積みされてご満悦のサカリアスだったが、自分に向かってゆっくりと歩いてくるものを見て首を傾げる。

「お前が魔王だな? 」

「あぁ、俺の名前はサカリアスだ。……何だお前は?」

 その者は声が届く距離まで来ると足を止め、サカリアスに向かって問いかける。
 問いに対し、サカリアスは返答するが、この人間が何しに来たのか分からないため問い返す。

「名前だけ聞いといてやろうと思って来ただけだ」

「……何?」

 名前を聞いた男は、サカリアスの問いに適当に答えるとすぐに踵を返して離れていった。
 わざわざ名前を聞きに来ただけとは意味が分からない。
 そのため、サカリアスは首を傾げるしかなかった。

「んっ?」

「じゃあな!」

「なっ!?」

 ある程度の距離を取った所で、その男はまたサカリアスの方へ体を向けた。
 そして、一言呟くと地面へ向けて魔力を放出した。
 すると、サカリアスの足下を中心として魔法陣が浮かび上がった。

「貴様!」

「最後のお前が一番楽だったよ。人族何か狙うからそうなるんだ」

 魔法陣が浮かび上がり、サカリアスは身動きが取れなくなった。
 そんなサカリアスに一言告げると、男はその場から消えるようにいなくなった。

「なんだ!?」「吸い込まれる……」

 魔法陣の中に入っているのはサカリアスだけではない。
 東西の生き残りと山積みの死体もだ。
 それらもサカリアス同様に身動きができず、段々と地面に吸収されていった。

「くそっ! くそーーー!!」

 魔力抵抗の差なのか、人族たちと違いゆっくりと地面に吸い込まれて行くサカリアス。
 このような状況になるとは思っていなかったため、怒りの表情で叫びながら地面へと消え去っていったのだった。

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