上 下
344 / 375
第13章

第344話

しおりを挟む
「ハッ!!」

「グッ!!」

「このっ!!」

 ドワーフ王国に出現した魔王アマドル。
 救援を受け、魔人王国からラファエル。
 隣国であるヴァーリャ王国の国王であるハイメが、援軍としてこの地へと現れて戦っていた。
 ラファエルだけでは実力差があり、とても抑え込めるような相手ではなかったが、ハイメが来たことにより足止め程度はできるようになった。
 戦闘方法はアマドルの攻撃をハイメが抑え、ラファエルが隙をついて魔法で攻撃するという形だ。

「ハハッ! なかなか面白いな」

「チッ!」「動きが速い……」 

 ハノイが防いだところをラファエルが魔法で攻撃をするのだが、アマドルにはその攻撃が通用しない。
 アマドルはラファエルの攻撃を躱したり、装着している手甲で防いだりして全くダメージが与えられないでいた。
 しかも、アマドルの態度を見る限りまだ余裕があるような様子だ。

「このままではジリ貧だ……」

「全くだ……」

 ラファエルの呟きに、ハノイも同意する。
 余裕のあるアマドルとは違い、自分たちはギリギリの状態だ。
 アマドルの一撃はとんでもなく重い。
 それを抑えるのに必死のハノイと、かなりの魔力を込めた魔法も通用しない。
 このままでは敗戦濃厚だ。

「……ムッ?」

「「っ!?」」

 ラファエルの魔法を躱したアマドルは、何かに反応するように視線を移す。
 そのすぐ後、ラファエルたちも何かが迫っていることに気付いた。

「あっ! いた!」

「……オスカル? お前何でここに……?」

 この場に現れたのは、カルロスの息子であるオスカルだった。
 あまりにも意外な人物の登場に、ラファエルはさっきまでの緊張感が途切れそうになった。
 しかし、そんな状況ではないため、オスカルへこの場に来た理由を問いかけた。
 
「お前の国に行ったらこの国にいるって聞いたからだが……、ヤバい状況みたいだな?」

「分かったなら、手を貸してくれ」

「あぁ、分かった」

 転移の魔法を覚えたのでエナグア王国へと向かったが、目的のラファエルがいなかった。
 魔王を名乗る者の出現により、ドワーフ王国へ援軍へ行っているということだった。
 その存在は、祖父のケイにより危険だと聞いていた。
 そんな相手にラファエルが勝てるか分からない。
 そのため援軍に来たのだが、どうやら良くない空気を醸し出している。
 空気を察したオスカルに、ラファエルは参戦することを頼む。
 そのつもりで来たオスカルは、すぐに腰に差した刀と銃を抜いてアマドルへと構えを取った。

「おかしなのが来たな……」

 見た目獣人だが、エルフのクオーターであるオスカル。
 魔力の高い獣人を意外に思ったのか、アマドルはオスカルを興味深げに見つめた。

「援軍か……?」

「ハイメ様。エルフ王国のオスカルです」

 急にきた獣人。
 しかし、あまり見たことのない種族の者だ。
 ラファエルの様子だと仲間のようだ。
 そのため、ハイメはラファエルへと問いかける。
 問われたラファエルは、簡潔にオスカルのことを紹介した。

「ケイ殿のとこの?」

「孫に当たります。ハイメ様のことは祖父より窺っております。微力ながら協力させていただきます」

「あぁ、頼む」

 ラファエルのハイメという言葉で、オスカルはこの牛人がヴァーリャ王国国王のハイメだと理解する。
 祖父のケイから聞かされていたからだ。
 そのことを告げると、ハイメは笑みを浮かべて協力を了承してくれた。

「行くぞ!!」

「「はい!」」

 3対1なんてはっきり言って卑怯と思えるが、相手が相手だ。
 そんな事を気にせず、3人はアマドルへと向かって攻めかかった。





「待たせたな、セベリノ殿。カンタルボス元国王リカルドだ」

「エルフ王国レイナルドの子。ファビオです」

「同じくラウルです」

 ラファエルとハイメに加え、オスカルがアマドルと戦い出したところで、カンタルボスからリカルドたちがドワーフ王国へと到着した。
 許可なく転移で入国してしまったが、今はそんな事を言っている状況でないことは分かっている。
 そのため、リカルドたちは手短にこの国の王であるセベリノへ挨拶を交わした。

「おぉ! よく来てくれた!」

「早速魔王の下へと向かいます!」

「申し訳ない! 協力感謝いたす!」

 挨拶もそこそこに、リカルドたちは魔王と思わしき者のいる所へと向かった。
 そのリカルドたちに、魔王に引き寄せられたらしき魔物たちと戦うセベリノは感謝の言葉をかけて見送った。





「フンッ!」

「グッ!!」

 魔力の込められたアマドルの拳が迫り、オスカルは刀で防ぐ。
 しかし、威力を抑えきることなどできず、オスカルはそのまま吹き飛ばされた。

「なんて威力してんだ……」

 防御に専念していたハイメだが、ジワジワと威力の高まるアマドルの攻撃を抑えきれずに後退させられる。
 ハイメを無理やり後退させたアマドルは、その隙に攻撃担当になっているオスカルとラファエルへと襲い掛かった。
 強靭な肉体をしているハイメですら抑えきれないのだから、オスカルが抑えきれないのも当然といったところだろう。
 引き飛ばされて着地したオスカルは、痺れる手を振って感覚を取り戻した。

「オラッ!」

「グゥッ!!」

 オスカルに続いて、ラファエルにもアマドルの攻撃が飛んでくる。
 ラファエルもその攻撃を刀で防ぐが、同じく吹き飛ばされるように飛んで行った。

「オスカル! お前手数が足りないぞ!」

「……すまん。転移で結構魔力を使っちまって……」

「お前……」

 3対1になって有利になるかと思ったが、戦闘開始から全力で戦っている自分と同じ位の魔法攻撃しかしないオスカルに、ラファエルは文句を取ばす。
 その指摘に対し、オスカルは申し訳なさそうに返答した。
 その答えがどうしようもないものだったため、ラファエルは腹を立てるより呆れるしかなかった。

「ったく! 怪我をさせても回復してしまうってのに……」

 3対1になって、オスカルとラファエルの攻撃は多少アマドルに怪我を負わせることができるようになった。
 しかし、その怪我もすぐに回復してしまう。
 これでは怪我を負わせても何の意味も成さない。
 そのため、ラファエルは勝機が見いだせなかった。

「久々に動いたから体が重かったが、段々とほぐれてきた。お間らを相手にするのも飽きてきたし、そろそろ仕留めていくか……」

 体をほぐすように動かしながら、アマドルは小さく呟く。
 そして、標的を決めたのか、これまで以上の力を込めて地面を蹴った。

「まずはお前からだ!」

「っっっ!!」

 標的になったのはラファエル。
 あっという間にラファエルとの距離を詰めたアマドルは、魔力の込めた拳で殴りかかった。

“ドンッ!!”

「グウゥ……、なんて威力してやがんだ!」

「っ!?」

 アマドルの拳がラファエルへ当たる前に、その攻撃を受け止める者が現れた。
 拳を受け止めたその者は、その威力に文句を言いながら受け止めた手とは反対の手でアマドルに殴りかかった。
 その攻撃を躱し、アマドルは後退した。

「……何者だ?」

「カンタルボス王国のリカルドだ!」

 またも現れた援軍に、アマドルは面倒臭そうに問いかける。
 その問いに答え、ラファエルのことを救ったのはリカルドだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

処理中です...