エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
316 / 375
第12章

第316話

しおりを挟む
「よう! バレリオ!」

「おぉ! ケイ殿!!」

 エナグアへ戻ったケイとラウルは、そのまま元戦闘部隊の隊長だったバレリオの下へと向かった。
 自宅付近に道場を開設して、子供に武術を教えているという話だった。
 そこでケイの目的の人物であるラファエルが指導を受けているという話なので、人に聞いた道を進んでようやく道場を発見することができた。
 道場の敷地内へ向かおうとしたところで、丁度玄関が開いてバレリオに会うことができた。
 ケイが軽い挨拶をすると、バレリオの方も覚えていてくれたらしく、すぐにケイに握手を求めてきた。

「もう……6年だっけか?」

「えぇ! お懐かしい限りです!」

 エナグアの前回問題を解決してからだいぶ時間が流れている。
 とは言っても、段々と年数を数えるのが面倒になってきたためか、ケイにとって1年はだいぶ短い時間になってきていて、6年といってもたいした時間に感じない。

「ちょっと老けたか?」

「ケイ殿はお変わりないようでうらやましいですな!」

 戦闘部隊を脱隊したからなのか、バレリオは皺が増えて老けたように感じる。
 魔人は人族より少し長生きすると言われているが、ケイからするとたいした差でもなく、やはりエルフの自分は他の種族の成長とは違うのだと思わされる。
 バレリオの言うように、自分は他と違って20代から変わりない見た目なのが、ケイとしては良いのか悪いのかどちらとも言えない。
 妻の美花のように、大切な人を見送ることの辛さには慣れないからだ。

「ケイ様!!」

「おぉ! ラファエルか? でかくなったな!」

 バレリオに案内されて道場内に入ると、そこには少年が剣を振って稽古をしている最中だった。
 その少年は、素振りの途中でありながら、入ってきた人間を見てすぐに気付いたのか、素振りを中断してケイへと駆け寄ってきた。
 オシアスに似たその少年の顔に、ケイもすぐに誰だか分かった。
 以前の舌足らずだった話し方も改善され、身長も年相応にかなり伸びていた。

「6年だから今は10歳か……」

 体や言葉遣いは成長しているようだが、笑顔の方は昔と変わることがない。
 昔を思い出して、ケイは思わずラファエルの頭を撫でた。
 4歳くらいだったのが6年でだいぶ成長したようなので、ケイとしても懐かしい限りだ。

「オシアスにも久しぶりに会ってし、お前にも会っとこうと思ってな」

「そうですか。約束通りまたお会いできてうれしいです」

「あ、あぁ……」

 たしか前回別れる時にまた来ることを約束していた。
 完全に忘れていたケイとは違い、ラファエルの方はその約束を覚えていたようだ。
 喜んでくれているが、何とも言いにくい返事をするくらいしかケイにはできなかった。

「キュウも久しぶり!」

“コクッ!”

 ケイの肩に乗っているキュウとも久しぶりだ。
 そのため、ラファエルはキュウにも挨拶をする。
 キュウの方もラファエルのことを覚えていたのか、頷くことで返事をした。

「ケイ殿。そちらお方は?」

「あぁ! 紹介が遅れたな。俺の孫のラウルだ」

 懐かしい顔ぶれに、ケイはバレリオに尋ねられるまでラウルのことを忘れていた。
 そのことに気付き、ようやくケイはラウルを2人に紹介することにした。
 ラウルもケイが自分を言われるまで忘れられていたことに気付き、非難染みた眼を送っていた。

「孫!? さすがはエルフのケイ殿。随分大きなお孫さんがいるのですな……」

「お孫さん!?」

「どうも! 祖父がお世話になっております」

 ラウルを紹介された2人は、あまりのことに驚きの声をあげた。
 ケイの見た目が若いから、孫と言われてもいまいち納得できないのかもしれない。
 むしろ、兄弟と言ってもらった方がしっくりくるような感じだ。

「ラファエルの実力を確認しようと思ったんだが、ちょっと俺は戦闘で魔力を使いまくったあとでな。代わりにこいつが相手するから、全力でぶつかっていいぞ」

「そうですか……」

 昔のようにケイに指導してもらえるのかと思ったが、相手がラウルになると聞いて、ラファエルはなんとなく残念そうに呟く。
 完全に獣人の姿のラウルに、魔力操作ができないと思っているかもしれない。
 昔ケイが指導した通り、ずっと訓練を重ねていたとしたら大抵の相手はたいしたことがないと思っているかもしれない。
 ラファエルはそれで人を見下すことはないだろうが、自分より上の人間に会えないことでやや天狗になりかけているかもしれない。

「見た目は獣人だからって甘く見るなよ。ちゃんと俺の血も受け継いでいるんだ。実力は相当なものだぞ」

「わ、分かりました!」

 獣人は魔力を使わなくても強いのだが、ラウルはケイの血を引き継いでいる。
 身体能力に加えて、更に魔力を使えるということが予想されると、ラファエルは自分でも気付かないうちに勝てると思い込んでいたことを恥じた。
 ケイの言葉で気を引き締めたラファエルは、まっすぐにラウルへと体を向けた。

「ラウルさん。よろしくお願いします!」

「あぁ! じいちゃんが認める才能がどんなもんか楽しみにしているよ」

 油断しているうちにさっさと倒してしまおうという思いがラウルにはあったのだが、ケイの一言でラファエルの意識が変わってしまった。
 余計なことをして迷惑な祖父だと思いつつ、ラウルは頭を下げてきたラファエルに言葉を返した。
 ケイが褒めるほどの才能の持ち主だ。
 きっとこの若さでかなりの実力があるのだろう。
 ラウルとしても、なんとなく楽しみな気分になってきた。

「念のため、ここが壊れないように強化しておこう」

 このまま全力で戦うとなると、バレリオの道場に被害が出てしまうかもしれない。
 場所を借りるのだから、ケイはせめて道場を強化しておくことにした。

「ハッ!!」

 魔力を一気に放出して、ケイは道場の強化を図る。
 ケイの魔力に包まれた内部は、決着が付くまではもつはずだ。

「あぁ……、魔力切れ寸前できつい」

 せっかく少し回復したのと残っていた魔力を使ってしまったため、ケイは魔力切れ寸前になってしまい一気に疲労度が増した。
 そのまま座り込み、ここからは大人しく観戦することにした。

「ケイ殿、大丈夫ですか?」

「すまん。バレリオが審判役をやってくれ!」

「……分かりました」

 辛そうなケイに心配になり、バレリオが問いかける。
 少しすれば落ちくと思うが、この状態で審判をやるのはかなり辛い。
 そのため、ケイはバレリオに審判役を任せることにした。

「それでは!」

「「………………」」

 ラウルとラファエルは、お互い少し離れた所に立ち開始の合図を待つ。
 両者が持つのは訓練用の木剣で、ルールとしては負けを認めさせれば勝ちで、相手を死に至らしめなければ何でもありといったところだ。
 開始の合図を前にして、戦う2人はお互い無言で木剣を構えたのだった。

「始め!!」

「ハァッ!!」

 開始の合図と同時に、お互い魔闘術を発動する。
 そして、先に動いたのはラファエルの方で、床を蹴り、ラウルとの距離を一気につめた。
 魔闘術を発動する速度も、それによって一気に距離を詰める速度もかなりのものだ。

『この年でこれはたしかに天才かもな……』

 その速度に、ラウルは内心驚きを覚えつつも感心していた。
 これほどスムーズに魔力を使えるようになるには、きっと地道な訓練をおこなってきたのだろう。
 天才という言葉で片付けるのは良くないが、ケイの言いたいことも分からないでもなかった。

「速い!?」

 ラウルの胴を狙った横薙ぎが当たると思っていたのに、何の感触も感じないことに驚く。
 それもそのはず、ラウルが一瞬のうちに後退して横薙ぎを躱していたのだ。

『まぁ、魔人にしてはだが……』

 ラファエルに実力と才能はあるのは分かった。
 しかし、魔力の操作に長けた人種それがエルフだ。
 地の濃さは4分の1とはいえ、魔力を操る才はラウルも祖父のケイから受け継いでいる。
 しかも練度という意味では、年齢的なこともあってこちらの方が上だ。
 これが全力なのかも分からないので、ラウルはもう少しラファエルの動きを見ることにした。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...