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第12章

第313話

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「くたばれ!!」

 吸血鬼の魔族であるギジェルモの強力な攻撃を右手の銃だけで防ぐが、右へ左へと飛ばされるケイ。
 そして、僅かに体勢が崩れたのを見逃さず、ケイへ強力な一撃を放とうとこれまで以上に魔力を込めた剣を振りかぶってきた。

“ニッ!!”

 着地をした時に足が滑って体制を崩したケイが立て直した時には、もうギジェルモが目の前に来ていた。
 今から避けることは不可能。
 しかも、この機を逃さず仕留めにきたギジェルモの攻撃は、受け止めても無事で済むか分からない。
 万事休すの攻撃なのにもかかわらず、ケイは密かに笑みを浮かべた。

“ヒュン!!”

「ガッ!?」

 全体重を乗せるために跳び上がっていたのが運の尽き、地を蹴って躱すことなど不可能。
 どこからともなく、ギジェルモが剣を持つ右腕を撃ち抜く光魔法を纏った弾丸が飛んできた。
 その攻撃により、ギジェルモの右腕の先が吹き飛んだ。

「ナイスだ!」

 剣ごと右腕が吹き飛ばされたことにより、ギジェルモの攻撃は無くなった。
 ならば、今度はケイが攻撃を放つ番だ。
 この位置なら援護があるのでhないかと思っていたが、思っていた通りの結果になったことに、ケイは思わず声に出して援護攻撃に感謝した。

「吹き飛べ!!」

「や、やめ……」

 援護がなかった場合のことも考えて、何とか直撃を伏せるためにケイは右腕に魔力を集めていた。
 これでその魔力をそのまま攻撃に利用できる。
 ケイの右腕に溜まった魔力を見て、ギジェルモは目を見開いて制止の声をあげようとするが、そんなの当然聞くわけがない。

「ハッ!!」

“ドンッ!!”

「ウガーッ!!」

 ケイの銃から発射された至近距離からの魔法が、躱すことができないギジェルモに直撃する。
 その威力によって、ギジェルモの下半身が消し飛び、上半身だけ吹き飛んで行った。

「ハァ、ハァ……」

 一気に膨大な魔力を消失したことにより、ケイは息を切らして座り込む。
 さすがのギジェルモも、体の半身が吹き飛べばただでは済まないはずだ。
 止めを刺すにしても、ケイはまず息を整えることに集中する。

「ハァ~……、助かったぜ。ラウル……」

 少し息も整い、ケイはようやくさっきギジェルモの右腕を吹き飛ばす攻撃をした人間に礼を言った。
 とは言っても、目の前に本人がいる訳でもないので、完全にケイの独り言のような状況だ。
 攻撃を放った人間は、ケイが言ったように孫のラウルだ。
 危険なために町の外に置いてきたが、この戦いを見ていないはずがない。
 片腕を折られた時、ケイは内心ではかなり不利な状況になったと感じていた。
 まともにやりあってもかなり危険なため、ラウルに協力をしてもらうことにした。
 ラウルがいる位置からライフルで撃つには、この位置が最適。
 魔力もだいぶ削られ、自分を仕留めることに集中している今ならギジェルモも遠距離攻撃の警戒が薄れているはず。
 元気なラウルの一撃なら通用すると思ったが、予想通りの結果になって安堵する思いだ。

「ぐうぅ……」

「……おいおい、マジかよ……?」

 下半身を消し飛ばされ、大量の出血をしているにもかかわらず、ギジェルモは腕の力で体を起き上がらせる。
 大量の魔力を消費して、また体の再生を計ろうとしているようだ。
 さすがにもう無理だろうと思っていたケイは、嫌気を感じながら立ち上がった。

「おのれ……」

「ハハッ! 魔力が尽きかけてるって言うのにしつこい野郎だな……」

 残った魔力をほとんど使うことにより、ギジェルモは下半身の再生に成功する。
 しかし、右腕の再生までは魔力不足で治せなかったようだ。
 立ち上がったギジェルモは、近くに落ちていた剣を拾ってケイへと構えた。
 ケイもこれまででかなりの魔力を消費したが、まだ多少残っている。
 しかし、魔闘術を使わなくても強力な身体能力を持っているギジェルモと違い、貧弱なエルフのケイは残っている魔力を魔闘術に使うしかない。
 片腕折れていてケイは左腕が使えないため、片腕同士の戦いといったところだろう。

「我が人間ごときに負けてなるものか!!」

「いつまでも上から言ってんじゃねえよ!! くそが!!」

 最後の勝負と言うかのように、ケイとギジェルモがぶつかり合う。
 素の身体能力で魔闘術を使う自分と互角の力を出してくるギジェルモに、種族としての差を感じてしまうが、それは前世の記憶を思いだしてからずっと分かっていたこと。
 エルフの自分がギジェルモを倒すために、集中して魔力を操作する。
 それにより、最初の内は互角の戦いをしていた2人だったが、次第に動き続けることで疲労が見えてきたギジェルモに対し、ケイがジワジワと押し始めた。

「シッ!!」

「グッ!!」

 ギジェルモの攻撃を銃で防ぎ、そのままケイは膝を打ち込む。
 これまでは普通に打撃を与えても意味がなかったが、魔力がなくなった今ではギジェルモの再生もできないようだ。
 攻撃を食らったギジェルモは、たたらを踏むようにして後退する。

「ハァッ!!」

「このままボコボコにしてやるぜ!!」

 お互い疲労の色が濃い。
 そのため、僅かな停滞の後、またもぶつかり合う。
 光魔法を放ちたいところだが、ケイの残りの魔力を考えると後一発撃てればいいといったところだ。
 そのため、もしもそれが躱されたら完全にケイの負けだ。
 確実に仕留めるためには、このまま痛めつけて動けなくするしかない。
 その言葉通り、ケイは少しずつギジェルモに打撃を加え弱らせていった。

「グウゥ……」

「ハァ、ハァ……とことんしぶとい奴だな」

 体中に痣を作り、顔も数か所腫れあがっても、ギジェルモはケイへと攻めかかってくる。
 いい加減ケイも体力が減ってきた。
 これ以上続くと、仕留めることはできないかもしれない。
 戦いながら、ケイは最終手段としてラウルに来てもらおうかと考え始めた。
 今のギジェルモが相手ならラウルは余裕で勝てるだろう。
 危険だからと言って置いてきたが、それが確実に仕留める手段かもしれない。

「っ!!」

 戦いながら周囲に目を向けていたら、ケイはあることに気付いた。
 ラウルを呼び寄せなくても何とかなる策が残っていることに気付いたケイは、彼ら・・に任せることにした。

「うぅっ!! 下等な……人間め!!」

「そんな下等な人間に負けんだよ!! お前は!!」

「ウグッ!!」

 仕留めるためにも、ギジェルモを誘導する必要がある。
 歯が折れて喋り方もおかしくなっているにもかかわらず、まだケイに攻撃を放ってくる。
 その顔面に、ケイはもう一発拳を打ち込む。

「あの方に…仕える我が……こんな……」

「その、あの方ってのは誰のことだ!!」

 止めを刺す前に、またもギジェルモは気になる言葉を放ってきた。
 あの方と呼ばれる者のことだ。
 ギジェルモが何者かの指示で動いているのだとしたら、その指示を出している者を倒さないとまた同じようなことが起きるかもしれない。
 その者を倒すにしても情報が無くては話にならない。
 そのため、ケイはギジェルモにあの方という者のことを尋ねた。

「魔王…様だ!! 魔族の王。四大魔王の1人エドムンド様だ!!」

「……魔王だと?」

 まさかの言葉にケイは一瞬止まってしまった。
 魔王なんて異世界あるあるな存在がいるなんて思いもしなかったからだ。
 しかし、そうなるとかなりまずい。
 ギジェルモ以上の強さの魔族が、もしかしたら4人以上いるということになる。
 もしもギジェルモ同様に再生能力を有していたら、ケイが倒すことは難しいかもしれない。

「死ねー!!」

「くっ……お前がな!!」

「おわっ!!」

 動きが止まったケイに対し、チャンスと思ったギジェルモは斬りかかる。
 しかし、その攻撃もケイには当たらず、反対にそのままケイに巴投げをされて上空へ放り投げられた。

「今だ!! 撃て!!」

「「「「「了解!!」」」」」

 ケイの言葉のすぐ後、上空に投げられて身動きできない状況のギジェルモへ向かって、巨大な光魔法の閃光が放たれた。
 その魔法を放ったのは、この国の冒険者や騎士たちの魔力をかき集めた集団による合成魔法だ。
 ケイが戦っている間、逃げる訳でもなく一撃を放つために用意してくれていたらしい。

「お、おのれー……!!」

 その閃光に包まれたギジェルモは、断末魔のような言葉と共に跡形もなく消え去ったのだった。

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