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第12章

第309話

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「貴様! 何者だ!?」

「教えるわけないだろ!」

 ヴァンパイアの魔族であるギジェルモと、人族だけでは勝ち目が無いと思い動くことにしたケイ。
 これまで余裕をかましていたギジェルモだが、突如現れたケイに驚く。
 そこいらの人族なら近寄ることすらできないような魔力を纏っているのに、平気な顔して向かい合っているのだからそう思うのも無理はない。
 プロレスの手四つ状態のまま会話を始めるが、ケイは質問に対して答える気のない対応をする。
 そして、そのまま両者は力比べのようにジワジワと手に力を込めていった。

「それもそうだ……なっ!!」

「……ムッ?」

 少しの間力比べをした両者だが、ギジェルモはそれに飽きたのか、ケイをそのまま振り回して放り投げた。
 軽々と投げ飛ばされたが、ケイは難なく着地する。
 そこへ追いかけてきたギジェルモが、拳を握って殴りかかってきた。

「……っと!」

 その拳を横っ飛びをして躱し、すぐに体勢を立て直す。
 ただ振っただけの拳にもかかわらず衝撃波が飛んで来たのか、さっきまでケイ立っていた背後の建物が破壊されて崩れ去った。

「ほぉ~……、よく躱したな。しかし、魔力自慢のように見えるが初戦は人間。貴様など相手になどならんだろう」

 攻撃を躱されたことに感心したように呟き、ギジェルモはゆっくりとケイへと体を向け直す。
 そのように余裕を見せるのは、人間を相手に負けない自信があるのだろう。

「隙だらけだ!」

「っ!! ぐあっ!!」

 余裕をかましているのはいいが、隙だらけな状態を見逃すケイではない。
 ギジェルモへと一気に接近したケイは、そのまま顔面を殴りつけた。
 その拳を受けたギジェルモは、そのまま吹き飛んで行った。

「クッ! このっ!!」

 そのまま民家に突っ込んで行きそうになるのを、ギジェルモは空中で体を捻って手前で着地した。
 着地をした後、口から血が出ていることに腹を立てたのか、ギジェルモはこめかみに青筋を浮かべた。
 口の中の傷はすぐに治ったのだが、ギジェルモとしては本性を出したのにもかかわらず出血をさせられたことが許せないため、さっきまでの余裕面も吹き飛んでいた。

「人間ごときが!!」

「フンッ!」

 腹を立てたギジェルモは、さっきまで以上の魔力を放出して地を蹴り、ケイへと襲い掛かった。
 しかし、直撃すればダメージを受けるだろうが、ギジェルモが振り回す拳はケイには当たらない。
 どうやら魔力の量が多いとはいっても、自分と同等の相手と戦うようなことを経験したことがないのか、武術の方は無駄が多すぎる。
 カンタルボス獣人王国の王であるリカルドを相手に戦ったこともあるケイからすると、ギジェルモの攻撃に対処するのはたいした問題ではない。
 攻めり来る攻撃を躱し、いなして、全部回避した。

「シッ!!」

「ガッ!?」

 躱されていることに更にイラ立ったのか、攻撃が雑になる。
 そこを狙って、ケイはカウンターで顎へと掌底を打ち込みかち上げる。

「ハッ!!」

「ウガッ!!」

 かち上げで上半身が起き上がっているギジェルモの腹へ、肘打ちを打ち込んだ。
 ケイの肘打ちにより、ギジェルモは体をくの字にして数mの距離飛んで行った。 

「ハハハ……、なるほど……随分体術が得意なようだな?」

「駄目だな……」

「んっ? 何がだ?」

 少しのやり取りで、拳の戦いでは自分の方が分が悪いことを受け入れたギジェルモは、近くに転がっていた人族兵の剣を拾い上げた。
 拳の戦いよりも、どうやら剣での戦いの方が自信があるようだ。
 そんなギジェルモに対し、ケイは独り言を小さく呟く。
 その内容が何のことを言っているのか分からず、ギジェルモは首を傾げた。

「剣は自信がないのか?」

「安い挑発だな……」

 ケイの呟きや態度が剣を持った自分への恐怖を現しているのかと勘違いしたらしく、ギジェルモは少しだけまた余裕そうな表情へと変わった。
 剣での戦いを所望するかのような問いかけに、ケイは仕方なく落ちていた剣を拾い上げた。

「ハァッ!!」

「っ!!」

 さっきまでも早かったが、余計な力が抜けたのかギジェルモの速度が上がったように感じる。
 接近と同時に振り下ろして攻撃を、ケイは剣を上げて受け止めた。

「オラオラッ!!」

 本性を出す前に兵たちを相手にしていたのを見ていたが、確かに剣術の腕はかなりのもののようだ。
 ギジェルモが繰り出す剣を、ケイは後退しながら弾いて躱していく。

「クッ!」

「ハハハ……!! 防戦一方だな!?」

 自分の剣技に逃げ回るケイの態度に優越感を感じたのか、ギジェルモはどんどん攻撃の回転を上げていった。
 たしかに、遠巻きに見ている人族の兵たちも、突如現れたケイが押されているように感じた。
 突如現れ、まともに戦っているように見えたケイに、期待をする思いが沸き上がっていたというのに、その期待も少しずつ消えていくかのような思いにさらされる。

「死ねっ!!」

“ガキンッ!!”

「フッ……! なっ!?」

 攻撃を防いだ事により、僅かにケイの体勢が崩れたように見えたギジェルモは、笑みを浮かべてケイの心臓へと剣を突き刺そうとする。
 その突きを何とか弾いたケイだが、そのせいで剣が手から飛んで行った。
 勝利を確信し次の攻撃を考えたギジェルモだったが、すぐに驚くことになった。
 右手の剣を弾かれたケイが、いつの間にかもう一本左手に持っていたのだ。

「ハッ!!」

「ゴハッ!!」

 いつの間にか持っていた左手の剣で、今度は逆にケイが心臓へ突きを放った。
 何とか躱そうとギジェルモはバックステップを計ったのだが、ケイの突きの方が早く、剣は心臓部分を深々と突き刺した。
 そのまま勢いで飛んで行ったギジェルモは、数回地面を弾んで大の字で倒れて動かなくなった。

「………………お、おぉ!」

「……か、勝ったのか?」

 心臓部分に剣を生やして動かなくなったギジェルモを見て、人族の兵たちは信じられない思いから勝利を確信できない。
 そのため、周囲の仲間と目を合わせ、自分の考えが正しいのか確認するように問いかける。

「ハハハ……!!」

「「「「「っ!!」」」」」

 勝利に感動し大きな声でガッツポーズをしようとした人族兵たちの思いを踏みにじるように、大の字の状態のギジェルモが笑い出した。
 そして、心臓部分に刺さっていた剣を引き抜くと、ゆっくりと立ち上がっていった。
 その姿に、人族兵たちは顔を青くして黙ることしかできなかった。

「バカな!! 奴は不死身なのか!?」

 立ち上がった時には剣によって穴の開いていた心臓部分の傷も塞がっており、ギジェルモは何もなかったかのように佇んでいた。
 その姿を見た者が、恐ろしさで腰を引きつつ声をあげる。
 大怪我を負ってもすぐに回復してしまうのでは、どうしたらいいのか分からなくなって軽いパニックになってしまったのだろう。

「残念だが、この通り! 私にはどんな攻撃も通用しないのだよ!」

 さっき刺された自分の心臓部分を指差しながら、ギジェルモは自慢するかのように説明を始める。
 勝利を確信した人族兵の期待を崩すように。
 そして、上手いこと策にハメたと喜んでいるであろうケイを驚かせるように。

「やっぱ、駄目だな……」

「……さっきから何を言っている!?」

 立ち上がって無傷の自分に焦るかと思っていたのだが、ケイはこれまでと変わらず無表情だった。
 そして、さっきと同様に何か確認するかのような言葉を呟いているのを見て、ギジェルモは無視されているかのような感覚になり、怒りを露わにした。

「ちょっとした確認だ。打撃や剣のダメージがどれだけお前に効くのかをな……」

「……何だと?」

 打撃や剣による攻撃がかなり効くようなら魔法を使わなくても済むかと思い試してみたのだが、やはりそれらで負った怪我はすぐに治り、魔力の消費もたいしたことがなかった。
 そのための確認として相手にしていただけだった。

「もうこっちで戦うことにしよう!」

 どうやらやっぱり光魔法でダメージを与えないと意味がないようだと確信したケイは、ホルスターから拳銃を抜き、ギジェルモへ向けたのだった。

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