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第12章

第306話

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「このっ!!」

「がぁっ!!」

 アンデッドを召喚していた者を倒した冒険者のシーロとエミリアノ。
 召喚を止めることには成功したが、召喚されてしまった魔物は消えることはない。
 しかし、これまでのように誰かの指示を受けているかのような連携をしてくることはなく、アンデッドらしくただ近くの人間へとまっすぐに襲い掛かっている。
 その分楽になったこともあり、魔物たちに対して冷静に対処した人族の兵たちは、グールをはじめとしたアンデッドたちをどんどん数を減らしていった。
 シーロとエミリアノも兵や他の冒険者たちと共に戦い、多くの魔物を倒していた。

「ふぅ~……、一通り倒し終えたか?」

「あぁ、後は他の人に任せれば終わりだろう」

 自分たちの周りのアンデッドたちを倒し終えたシーロとエミリアノは、ようやく一息吐いた。
 まだ何体かのアンデッドがうろついているが、それはもう他の者たちに任せて、自分たちはもう宿屋にでも戻って体を休めたいところだ。

「人間にしてはなかなかの者もいるようだな?」

「「っ!?」」

 一息吐いていたところ突然声が聞こえて来たため、2人は慌てて反応した。
 シーロは剣を、エミリアノは大槌をその声のした方に向けると、そこには黒いマントに全身を包み込んだ者が1人立っていた。

「「………………」」

 2人はすぐにその者の魔力を探知してみる。
 そして、その瞬間に鳥肌が立った。
 目の前にいる者が、とんでもない魔力を有しているということを察知したからだ。
 2人も多くの修羅場を潜り抜けて来た事から、ある程度魔力量には自信があった。
 しかし、そんな自分たちよりも大きな魔力をこの者から探知したことで、倒すことは極めて困難だということを否が応でも感じてしまった。

“スッ!!”

「…………?」

 冷たい汗が背中を流れるのを感じているシーロに、その黒マントの者は手を上げて、ゆっくりと手の平を向けてくる。
 魔力を探知したことによる衝撃で、シーロはその動きをただ黙って見ていることしかできないでいた。

「っ!!」

“ドンッ!!”

「ぐっ!」

 黒マントが何をする気か僅かに遅れて気付いたシーロは、慌てて魔力の障壁を発動させた。
 シーロへ向けた手の平から、強力な魔力が放出される。
 その魔力を水へと変えて、水弾としてシーロへと放ってきたのだ。
 僅かな時間で発射した攻撃なのにもかかわらず、魔力の障壁に当たった瞬間にかなりの衝撃を受けた。
 あまりの威力に、強制的に後退させられることになった。

「な、何て威力だ……」

「おぉ! よく防いだ!」

 衝撃の凄さにシーロが驚いていると、黒マントの男は楽しそうに笑みを浮かべた。
 シーロが防いだのは、はっきり言って運が良かったと言えなくはない。
 というのも、攻撃に対する反応の遅れを取り戻すために、魔力の調整をしている暇がなかった。
 そのため、全力で障壁を張ることに意識を向けたことで助かっただけで、もしも威力を調整しようとしていたら、さっきの魔法で障壁を打ち破られ、シーロは大ダメージを受けていたことだろう。

「くっ! 貴様何者だ!?」

 シーロへの攻撃を黙って見ていることしかできなかったエミリアノは、黒マントの者に問いかける。
 魔力の量からして、とても人間離れしているが、どうして自分たちに攻撃してきているのか分からない。
 「人間にしては」などと言っている所を見ると、まるで自分は人間ではないと言っているようだ。
 しかし、姿は人間の男性のように見える所から、どういうことなのか考えさせられる。

「自分の名を名乗らずに問うてくるとは無礼な奴だ……」

 別に名乗ってから聞かないといけないように言っているが、それは暗黙のルールのようなものでしかない。
 それに、敵を前にいちいちそんなことを気にしている暇などない。
 黒マントの愚痴のような言葉に反応しているほど、エミリアノたちには余裕がない。

「まぁいい、我が名はギジェルモだ! 人とは異なる生命体である!」

「……人と異なる?」

 ケイたちは魔族だと気付いているが、大体の者は魔族と言っても通用しない。
 それに、馬鹿正直に話す必要もないとギジェルモは感じ取ったのだろう。
 含みを持たせるように留めた。
 その考えが成功し、エミリアノはどういう意味なのか悩むように呟いている。

「次は我の問いに答えよ! 少し前の攻撃は貴様らの仕業か?」

「攻撃?」

「なんのことだ!?」

 攻撃と言われても、シローとエミリアノはよく分からない。
 今初めてギジェルモのことを目にしたのだから。

「……どうやらお主らではないようだな。遠距離から強力な弾丸を放ってきた者がいたのだが……」

 少し前にギジェルモ目掛けて、いきなり弾丸が飛んできた。
 距離が離れていたことで何とか反応できたが、最低限の防具として前腕部分に装着していた金属で弾くことに成功したのだが、かなり強力な一撃だった。
 誰が撃ったのかは分からずにいた所、派手に活躍している者たちが目に入った。
 それがシーロとエミリアノだ。
 もしかしたら弾丸を放って来たのは彼らかと思い、ギジェルモはちょっかいをかけてみたのだが、反応を見る限り違うようだ。

「まぁ、所詮はただの一撃。受けたとて我を抹消するまでには至らぬ」

「何をいっているんだ!?」

 ギジェルモからすると、例え飛んできた弾丸が直撃をしていたとしても死ぬことはなかった。
 しかし、離れた位置からの1撃にしてはかなりの威力だったため、どんな者が放ったのか気になったため、確認をしに来たのだ。
 シーロたちからすると何を言っているのか分からず、ギジェルモが独り言を呟いているようにしか思えない。

「シーロ!!」

「おうっ!!」

「んっ? かかってくるのか?」

 ギジェルモが何か呟いているのを見て、エミリアノはシーロの名前を叫ぶ。
 長い付き合いだからか、この状況で自分たちがどうするべきかを理解し返事をする。
 考え事をしている隙に2人が何か思いついたような反応をしたので、ギジェルモはもしかして自分に向かって来るのかと考えた。

「「逃げる!!」」

「………………」

 いきなりギジェルモに背を向けたと思ってら、シーロとエミリアノは全速力で逃げ出していった。
 どんな攻撃をしてくるのか期待していたのだが、まさかの逃走にギジェルモは呆気に取られてしまった。
 ギジェルモが呆気に取られている隙に、2人の姿は消え去っていた。

「ある意味なかなか潔いな……」

 まさか2人がいきなり逃げ出すとは思ってもいなかった。
 追いかけてもいいが、ギジェルモからすると所詮シーロたちが自分に勝つことはできないと分かっている。
 そのため、逃げられてしまっても別に構わない。

「しかし、先程の者たちに負けるとは……」

 先程までシーロたちがいた近くに、アンデッドの魔物を召喚し操作していた魔族の死体が転がっている。
 自分を見て逃げ出すような人間に殺されるとは、同じ魔族でありながら期待外れも良いところだ。

「所詮は魔族でも弱き種族ということか……」

 魔物が進化し、人間同様に言語を話せるようになった者を魔族と言うが、何の魔物が進化したかによって強さに差が出てくるようだ。
 所詮ゾンビが魔族化しただけの存在でしかなかったようだ。
 魔族化しても知能の方が低く、ギジェルモがゾンビをグールへと変化させる方法を教えたやってようやく駒として使えるようになったくらいだ。

「さて、逃げた者たちがどう攻めて来るのか楽しみだ」

 シーロたち程の実力者が逃げたからと言って、このままで済むはずがない。
 きっと何か策を考えて攻めて来ることだろう。
 そう言った人間の小細工を潰したうえで勝利を収めるからこそ、戦いを楽しめるというものだ。
 シーロたちが戻ってくるまで、ギジェルモは待つことにしたのだった。

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