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第12章
第299話
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「こちらの村です」
「やっと着いたか……」
ケイとラウルは、オシアスの案内を受けてエナグアからほぼ一直線に突っ走ってきた。
結局数日かかったが、馬で来るよりもだいぶ短い時間で到着することができた。
目的地に着き、ラウルはようやく一息ついた。
「それにしても御2人はすごいですね……」
「……ほとんどじいちゃんが倒してたけど」
ここまでの道のりで出現した魔物は結構な数いた。
しかし、そんな魔物もケイとラウルの手によってあっさりと倒され、たいして時間を取られるようなこともなかった。
単純に向かう方角を教えて走っていただけで、何もしていないに等しいオシアスは、2人の戦闘力の高さに驚きを含んだ感想を述べた。
それに対し、ラウルは自分の思っていることを口にする。
ここまで来るまで確かにラウルも出てきた魔物を倒しはしたが、大体はケイが対処していたため、苦労した思いはあまりない。
ケイから逃れたのを始末していたというだけでも、ここの魔物を相手にしても難なく倒しているのだからラウルの戦闘力もたいしたものだ。
「っ!? おいっ!」
「……エルフだ!」
村に入り、オシアスはここの村長らと話し合った後、流れ着いたという人族の者たちの所へ案内してもらうことにした。
ケイたちもそれに付いて行くと、数人の人族が固まって椅子に座っていた。
魔人族の若者が武器を手に囲んではいるが、特に何かする訳でもなく見張っている。
ここの村の者たちもどう扱っていいか分からず、危害を加えることなくもてなされている。
人族の者たちの方もどうしていいか分からず、ただ戸惑いながらいることしかできない。
そんな人族の者たちの所へ案内されたケイたちは、人族大陸で何が起きたのかを詳しく聞くために彼らの所へ近寄った。
すると、ケイのことを見た人族の者たちは、すぐさまケイがエルフだということに気付き、驚きと共にざわつきだした。
「この方たちは、あなたたちに聞きたいことがあって訪れたエルフ王国の方々だ」
ざわつく人族たちに対し、オシアスは簡単にケイたちのことを説明をする。
生きているエルフに戸惑いつつも、その言葉で人族の者たちは少しずつ静かになった。
「エ、エルフが何を聞きたいって言うんだ?」
流れ着いた人族の者たちは8人。
みんな顔が似ているのを見る限り、一つの家族のように思える。
その中で、1人の若い男性が代表するように問いかけてきた。
「魔物のスタンピードがあって逃げてきたと聞いたが、何の魔物によるものだ?」
「……グールだ」
ケイの問いに対し、その男性は短く答える。
人族でも北の国の人間にはエルフの国のことはちゃんと伝わっていないのか、エルフ王国という言葉にいまいちピンと来ていない様子だ。
そのせいか、ケイに対して敬語を使うべきか悩んでいるような節がある。
「また面倒な……」
「グールって再生能力の高い食屍鬼って奴?」
別に敬語を使われなくてもどうでも良いが、その答えにケイは少し困る。
そんなケイに、ラウルはグールのことを問いかける。
「その通りだ。国が対処しきれないくらいの数が姿を現したという話だ」
それに答えたのは人族の男だった。
ラウルが言ったように、グールは人の肉体を食べる食屍鬼で、変身の能力を有すると言われている。
変身と言ってもハイエナに変化することが多く、狼の群れかと思ったらグールだったということがあるらしい。
しかも、再生能力も高いことから、魔石を破壊しない限り何度も再生して襲い掛かってくるという面倒くさい相手だ。
それが大量となると一国が本腰入れて当たらないと、潰されかねない危険な魔物だ。
「あんたらは西の方の村の住人だと聞いたが、グールはどう向かってると思う?」
「恐らく東へ向かっている」
食屍鬼のグールなら、食料となる人を求めて移動するはず。
そうなると、より人間の多い方向へ向かって行くはずだ。
それを確認するために人族大陸の地図を開いて見せると、聞かれた男性は指さしながら東にある町を指差した。
「とりあえず行ってみるか……」
「……何しに行くんだ?」
色々と質問をして、魔物の種類と動向はなんとなく分かった。
後はとりあえず行って確認してから、ケイは手を出すか決めることにした。
そのケイの呟きに、人族の男はふと疑問に思った。
「場合によっては退治しにだ」
「何でだ?」
男の質問にケイは答えるが、その答えにまたも首を傾げる。
人族に散々ひどい目に遭ってきたはずのエルフが、わざわざ人族の国を助けに行く理由が分からなかったからだ。
「人族が魔人大陸に来られても迷惑なだけだからな」
「……緊急時でもなければ、我々もこちらに来ることは無かったよ」
人族はこれまでエルフや魔人に、多くの仕打ちをしてきた。
魔人たちは肌の色が違うというだけで呪いの象徴として迫害され、この大陸へと追いやった。
エルフは生き人形として奴隷にする物扱い。
それを考えれば、この人族たちを生かそうが殺そうが関係ないところだろう。
しかし、ここの村の魔人たちは、武器を持っての監視をしているとは言っても、彼らに雨風凌げる場所と食事を提供している。
ケイとしては彼らの行為に敬意を表し、この人族たちをどうこうする気はない。
自分たちのことを興味ないように相手するケイに、人族の男は変なプライドからか強がりのような言葉を返した。
「……言葉の使い方には気を付けろよ。この場でお前ら全員魔物の餌にしてもいいんだからな」
「………くっ!」
強力な魔物が蔓延る地で魔人の者たちに保護されているというのに、たいして感謝が感じられない態度をしている男に、ケイは少しイラっときた。
そのため、ケイは少しだけ威圧するような言葉をかけた。
ケイとラウルの冷たい視線に気圧された男は、腰が引けて青い顔へと変わった。
「他の人種に迷惑ばかりかける人族なんてはっきり言って害悪でしかない。助けてもらっているのにその態度は、人間として低俗な人種の証明になるということをわきまえろ」
「…………っ!」
たしかにこれまでの歴史を考えれば、魔人たちに人族を助ける意味はない。
それでも助けているのは、ここの村の者たちが同じ人として困っている者を放っておくことができなかったからだ。
助けてもらって感謝の態度も示さないような人種は、人としての格が低いと自分で言っているに等しい。
ケイの正論に対し、男は何も言い返せなくなりうつむいてしまった。
「さて……行くとするか?」
「何で向かうのですか? 船はお持ちですか?」
この人族のことは、この後に来ることになっているエナグアの兵に任せることにして、ケイはとりあえず人族大陸に行ってみることにした。
村から出たケイは、人気のない所から早速転移しようとしたが、この村に残るオシアスが見送りについてきた。
転移魔法のことを知らないオシアスは、ケイたちが人族大陸へどうやって向かうつもりなのか問いかけてきた。
「オシアスには教えてもいいか……」
「…………?」
転移するので気にするなと言えればいいのだが、一応秘密にしていることなのでどうしたものかとケイは少し悩む。
しかし、オシアスなら言いふらすようなこともしないだろうと、説明することにした。
ケイの呟きに、何のことだか分からないオシアスは首を傾げる。
「ここだけの話だが、俺とラウルは転移魔法が使える」
「……転移……ですか?」
エナグアの図書館にある書物には色々な魔法が書かれていたが、そんな魔法があるなんて聞いたことも見たこともなかった。
そのため、ケイの言葉にオシアスはピンとこない。
「距離と移動する人間の数によって使用魔力の量が変わるが、俺とラウルなら人族大陸へは一瞬だ」
「そんなことが可能なのですか!?」
そんな便利な魔法があるなんて、オシアスは想像もしたことがなかった。
ケイがすごい人間だということは分かっていたつもりだが、ここまですごいとは思わなかった。
転移魔法の説明を受けたオシアスは、目を見開いて驚いた。
「秘密にしろよ。知れ渡ったら面倒だからな」
「と、当然です!」
遠くへ一瞬で移動できる魔法なんて、その有用性を考えたら秘密にしておくべきことだ。
そんな重要な秘密を教えてもらえて、オシアスは秘密にすることの余計な悩みを課せられたような思いがするが、そんな秘密を教えてもらえるほど信用してもらえていることに嬉しい思いもしている。
「じゃあ、行って来る!」「では!」
「……お気をつけて」
話をしている途中で転移の扉を出現させたケイは、軽い口調でその扉を開く。
そして、ラウルと共に簡単に別れの言葉を告げると、その扉をくぐっていった。
見送りの言葉を返したら、本当にケイたちがあっという間に姿がなくなったため、オシアスはまたも内心驚いたのだった。
「やっと着いたか……」
ケイとラウルは、オシアスの案内を受けてエナグアからほぼ一直線に突っ走ってきた。
結局数日かかったが、馬で来るよりもだいぶ短い時間で到着することができた。
目的地に着き、ラウルはようやく一息ついた。
「それにしても御2人はすごいですね……」
「……ほとんどじいちゃんが倒してたけど」
ここまでの道のりで出現した魔物は結構な数いた。
しかし、そんな魔物もケイとラウルの手によってあっさりと倒され、たいして時間を取られるようなこともなかった。
単純に向かう方角を教えて走っていただけで、何もしていないに等しいオシアスは、2人の戦闘力の高さに驚きを含んだ感想を述べた。
それに対し、ラウルは自分の思っていることを口にする。
ここまで来るまで確かにラウルも出てきた魔物を倒しはしたが、大体はケイが対処していたため、苦労した思いはあまりない。
ケイから逃れたのを始末していたというだけでも、ここの魔物を相手にしても難なく倒しているのだからラウルの戦闘力もたいしたものだ。
「っ!? おいっ!」
「……エルフだ!」
村に入り、オシアスはここの村長らと話し合った後、流れ着いたという人族の者たちの所へ案内してもらうことにした。
ケイたちもそれに付いて行くと、数人の人族が固まって椅子に座っていた。
魔人族の若者が武器を手に囲んではいるが、特に何かする訳でもなく見張っている。
ここの村の者たちもどう扱っていいか分からず、危害を加えることなくもてなされている。
人族の者たちの方もどうしていいか分からず、ただ戸惑いながらいることしかできない。
そんな人族の者たちの所へ案内されたケイたちは、人族大陸で何が起きたのかを詳しく聞くために彼らの所へ近寄った。
すると、ケイのことを見た人族の者たちは、すぐさまケイがエルフだということに気付き、驚きと共にざわつきだした。
「この方たちは、あなたたちに聞きたいことがあって訪れたエルフ王国の方々だ」
ざわつく人族たちに対し、オシアスは簡単にケイたちのことを説明をする。
生きているエルフに戸惑いつつも、その言葉で人族の者たちは少しずつ静かになった。
「エ、エルフが何を聞きたいって言うんだ?」
流れ着いた人族の者たちは8人。
みんな顔が似ているのを見る限り、一つの家族のように思える。
その中で、1人の若い男性が代表するように問いかけてきた。
「魔物のスタンピードがあって逃げてきたと聞いたが、何の魔物によるものだ?」
「……グールだ」
ケイの問いに対し、その男性は短く答える。
人族でも北の国の人間にはエルフの国のことはちゃんと伝わっていないのか、エルフ王国という言葉にいまいちピンと来ていない様子だ。
そのせいか、ケイに対して敬語を使うべきか悩んでいるような節がある。
「また面倒な……」
「グールって再生能力の高い食屍鬼って奴?」
別に敬語を使われなくてもどうでも良いが、その答えにケイは少し困る。
そんなケイに、ラウルはグールのことを問いかける。
「その通りだ。国が対処しきれないくらいの数が姿を現したという話だ」
それに答えたのは人族の男だった。
ラウルが言ったように、グールは人の肉体を食べる食屍鬼で、変身の能力を有すると言われている。
変身と言ってもハイエナに変化することが多く、狼の群れかと思ったらグールだったということがあるらしい。
しかも、再生能力も高いことから、魔石を破壊しない限り何度も再生して襲い掛かってくるという面倒くさい相手だ。
それが大量となると一国が本腰入れて当たらないと、潰されかねない危険な魔物だ。
「あんたらは西の方の村の住人だと聞いたが、グールはどう向かってると思う?」
「恐らく東へ向かっている」
食屍鬼のグールなら、食料となる人を求めて移動するはず。
そうなると、より人間の多い方向へ向かって行くはずだ。
それを確認するために人族大陸の地図を開いて見せると、聞かれた男性は指さしながら東にある町を指差した。
「とりあえず行ってみるか……」
「……何しに行くんだ?」
色々と質問をして、魔物の種類と動向はなんとなく分かった。
後はとりあえず行って確認してから、ケイは手を出すか決めることにした。
そのケイの呟きに、人族の男はふと疑問に思った。
「場合によっては退治しにだ」
「何でだ?」
男の質問にケイは答えるが、その答えにまたも首を傾げる。
人族に散々ひどい目に遭ってきたはずのエルフが、わざわざ人族の国を助けに行く理由が分からなかったからだ。
「人族が魔人大陸に来られても迷惑なだけだからな」
「……緊急時でもなければ、我々もこちらに来ることは無かったよ」
人族はこれまでエルフや魔人に、多くの仕打ちをしてきた。
魔人たちは肌の色が違うというだけで呪いの象徴として迫害され、この大陸へと追いやった。
エルフは生き人形として奴隷にする物扱い。
それを考えれば、この人族たちを生かそうが殺そうが関係ないところだろう。
しかし、ここの村の魔人たちは、武器を持っての監視をしているとは言っても、彼らに雨風凌げる場所と食事を提供している。
ケイとしては彼らの行為に敬意を表し、この人族たちをどうこうする気はない。
自分たちのことを興味ないように相手するケイに、人族の男は変なプライドからか強がりのような言葉を返した。
「……言葉の使い方には気を付けろよ。この場でお前ら全員魔物の餌にしてもいいんだからな」
「………くっ!」
強力な魔物が蔓延る地で魔人の者たちに保護されているというのに、たいして感謝が感じられない態度をしている男に、ケイは少しイラっときた。
そのため、ケイは少しだけ威圧するような言葉をかけた。
ケイとラウルの冷たい視線に気圧された男は、腰が引けて青い顔へと変わった。
「他の人種に迷惑ばかりかける人族なんてはっきり言って害悪でしかない。助けてもらっているのにその態度は、人間として低俗な人種の証明になるということをわきまえろ」
「…………っ!」
たしかにこれまでの歴史を考えれば、魔人たちに人族を助ける意味はない。
それでも助けているのは、ここの村の者たちが同じ人として困っている者を放っておくことができなかったからだ。
助けてもらって感謝の態度も示さないような人種は、人としての格が低いと自分で言っているに等しい。
ケイの正論に対し、男は何も言い返せなくなりうつむいてしまった。
「さて……行くとするか?」
「何で向かうのですか? 船はお持ちですか?」
この人族のことは、この後に来ることになっているエナグアの兵に任せることにして、ケイはとりあえず人族大陸に行ってみることにした。
村から出たケイは、人気のない所から早速転移しようとしたが、この村に残るオシアスが見送りについてきた。
転移魔法のことを知らないオシアスは、ケイたちが人族大陸へどうやって向かうつもりなのか問いかけてきた。
「オシアスには教えてもいいか……」
「…………?」
転移するので気にするなと言えればいいのだが、一応秘密にしていることなのでどうしたものかとケイは少し悩む。
しかし、オシアスなら言いふらすようなこともしないだろうと、説明することにした。
ケイの呟きに、何のことだか分からないオシアスは首を傾げる。
「ここだけの話だが、俺とラウルは転移魔法が使える」
「……転移……ですか?」
エナグアの図書館にある書物には色々な魔法が書かれていたが、そんな魔法があるなんて聞いたことも見たこともなかった。
そのため、ケイの言葉にオシアスはピンとこない。
「距離と移動する人間の数によって使用魔力の量が変わるが、俺とラウルなら人族大陸へは一瞬だ」
「そんなことが可能なのですか!?」
そんな便利な魔法があるなんて、オシアスは想像もしたことがなかった。
ケイがすごい人間だということは分かっていたつもりだが、ここまですごいとは思わなかった。
転移魔法の説明を受けたオシアスは、目を見開いて驚いた。
「秘密にしろよ。知れ渡ったら面倒だからな」
「と、当然です!」
遠くへ一瞬で移動できる魔法なんて、その有用性を考えたら秘密にしておくべきことだ。
そんな重要な秘密を教えてもらえて、オシアスは秘密にすることの余計な悩みを課せられたような思いがするが、そんな秘密を教えてもらえるほど信用してもらえていることに嬉しい思いもしている。
「じゃあ、行って来る!」「では!」
「……お気をつけて」
話をしている途中で転移の扉を出現させたケイは、軽い口調でその扉を開く。
そして、ラウルと共に簡単に別れの言葉を告げると、その扉をくぐっていった。
見送りの言葉を返したら、本当にケイたちがあっという間に姿がなくなったため、オシアスはまたも内心驚いたのだった。
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