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第12章

第297話

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「様子が違う?」

「ハイ……」

 獣人王国のカンタルボスに寄り、いつも通りリカルドに絞られた孫のラウルと共に、ケイはドワーフ王国へと入国した。
 そして、マカリオの後を継いで王となったセベリノとの面会時に、今回のことを話し合おうとしたところで早々に聞いていたのと話が変わった。

「どのように?」

「どうやら我々の勘違いだったのか、この大陸に来ている人族はみんな避難してきたと言う話です」

「攻め込んで来たのではないのですか?」 

「えぇ……」

 セベリノの話によると、最近魔人大陸の北東付近に人族が上陸してきているという報告を受け、また攻め込んで来たと思ってまたケイまたに頼もうと呼び寄せたのだが、きちんと確認を取ってみるとどうやら違っていたらしい。
 その人族たちは攻め込んで来たのではなく、ただ避難して来たとの話だったそうだ。

「何から避難してきたのですか?」

「どうも、魔物のスタンピードが起きたらしく、それから逃げるためにこの大陸に逃れてきた者が多いそうです」

 魔物のスタンピードが人族の北で起き、それから逃れるために海へ脱出した者たちがそのまま魔人大陸へ避難をしたことによって今回の勘違いが起こったとのことだった。
 魔人たちからしたら、人族は市民だろうが何だろうが関係なく危険な人種という印象しかない。
 そのため、人族たちが流れ着いた地の近くの村の住人は、エナグアに助けを求めてきた。
 そして、エナグアはもしもの時の事を考えてドワーフに協力を求めて来たらしい。

「スタンピードならば、我々が出る幕はないですね?」

「……いや、もしよろしかったら解決に協力してもらえればと……」

 人族の国がスタンピードで滅んだとしても、はっきり言ってアンヘル島には何の被害も起きない。
 そうなると、わざわざケイたちが問題解決に向かわなくても、魔人とドワーフが協力すれば解決できることのように思える。
 流れ着いた人族を、スタンピードの被害のがない人族大陸の国に戻してしまえばいいのだから。
 それなのに、なんであまり関係のないケイに協力を求めてくるのだろう。

「何故我々が……?」

「ここだけの話、ケイ殿の場合は転移魔法があるではないですか……」

「なるほど……」

 前回の時もそうだったが、転移のことを知っているからかセベリノはケイの転移を当てにする傾向にあるようだ。
 長距離をあっという間に移動出来てしまうのだから、それに頼ってしまいたくなる気持ちも分からなくはない。
 人族大陸のことを解決しようとするなら、転移して状況を確認できるケイに任せるのがてっとり早いのだろう。

「……いいですよ」

「っ!?」

「本当ですか!? ありがとうございます!!」

 結局、ケイはセベリノの頼みを受け入れた。
 側でずっと黙って聞いていただけのラウルは、魔人大陸の問題ごとをわざわざ受けると思っていなかったため、ケイが了承した瞬間目を見開いた。
 頼んだセベリノでも了承してもらえるとは思っていなかったのか、ケイの返事に喜びの笑みを浮かべた。

「では、まずは保護した者たちの話でも聞きに行きたいと思います」

「エナグアに案内の人間を手配するように頼んでおきます!」

 現在、避難してきた人族たちはただの市民だったらしく、近くの村人の指示に素直に従っておとなしくしているという話だった。
 スタンピードが起きた場所などのことを詳しく聞いてから人族大陸に転移することにしたケイは、まずはその保護されている者たちに話を聞こうと、魔人大陸へ向かうことにした。
 




「……どうして関係ない魔人大陸の問題ごとを引き受けたかって顔してるな?」

「その通りだね」

 セベリノとの話し合いも終わって、とりあえず今日はここに宿泊することになったのだが、与えられた部屋へ向かう途中でケイはラウルに話しかけた。
 話を受けた時に不思議そうな顔をしていたのは、しっかり視界に捉えていた。
 その顔をした理由は分かっているので、ケイは説明しておくことにした。

「確かに面倒だが、ドワーフ族の最新魔道具をタダでもらえるんだからありがたいだろ?」

「……たしかに」

 ドワーフの魔道具は、この世界ではどこの国も欲しがる製品ばかりだ。
 買おうと思えば、高額な資金を支払わないと手に入れられない物ばかり。
 それなのに、アンヘル島にある魔道具は全てタダ。
 前回魔人大陸のことで協力したことによる報酬として沢山の魔道具をもらい、今も多くの家庭で現役稼働している。
 ラウルの家にもいくつかの魔道具が置かれ、かなり助かっているはずだ。
 ケイのその問いに対し、ラウルとしては何も言い返せなくなってしまった。

「それに、あの島にばかりいると、世界の状況が掴めないからな……」

 いい年こいて家出まがいのことをしたこともあり、ケイは魔人大陸から帰ってからずっとおとなしくしていた。
 別に島での生活はつまらないと思うことは無く、むしろ子供たちの遊び相手をしているのは楽しい日々でしかない。
 しかし、それもあってか、最近の世界情勢が分からなくなっている。
 獣人・魔人・ドワーフのことはレイナルドとカルロスが動いてくれるので、情報はちゃんと入ってきているが、人族の方はなかなか情報が入って来ない。
 今回のことを引き受けたのは、魔道具をもらえるということもあるが、少しでも人族のことを知るという目的もあってのことだ。

「ついでに調べるって事?」

「あぁ、そうだ」

 スタンピードなんかが起きている所へ近付くのはたしかに危険だが、どうしようもないと判断したらただ逃げれば良いだけのこと。
 今回は人族大陸の北との話だが、もしかしたらアンヘル島に近い南の国のことも噂が届いている可能性もある。
  折角人族大陸行くなら、少しでも今の情勢を知っておいて損はないはずだ。
 もしかしたら、魔人大陸だけでなくアンヘル島へ攻めてこようとしている国があるということも知れるかもしれない。
 攻めて来ると言う事が分かっていれば、対処もしやすいというもの。
 なんの情報もなかったとしても、決して無駄にはならないはずだ。

「レイナルドとカルロスも人族大陸のことを知っておいた方が良いだろうからな……」

 アンヘル島を仕切っているのはもうケイではなく、実質レイナルドとカルロスが協力して発展させようと頑張っているように思える。
 そのため、ケイも何かしらの面で協力しようとすると、危険になるかもしれない人族大陸の情報を仕入れてくることだと考えた。

「……父さんと叔父さんもちょこちょこいなくなってるよ」

「えっ! そうなのか?」

 しかし、ケイの呟きに対し、ラウルが意外なことを言って来た。
 他の国との交流以外で島からは出ていないと思っていたレイナルドとカルロスが、ケイの知らない所でいなくなっていたらしい。

「半日だけとかそんな長い時間は出かけている訳ではないようだけど……」

「そうか……、言ってくれればいいのに」

 レイナルドたちも人族のことは常に警戒しているようだ。
 昔、島に攻め込んで来た国を潰すために2人も人族大陸に行ったことがある。
 その時以降行っていないと思っていたが、どうやら違っていたようだ。
 攻め込んでくる可能性があるとすれば人族大陸の南西の国になる。
 2人の魔力量から転移できる距離を考えれば、その周辺の国に行って情報を仕入れているのかもしれない。
 そうなると、ケイが今回情報収集に行く意味がないようにも思えてくる。

「まぁ、帰ったら話し合うとするか……」

 何だか行く意味が薄れた気がするが、セベリノには協力すると言ってしまったので、今さら辞めますやという訳にはいかない。
 今更ながら、情報を仕入れているか2人に聞いておくべきだった。
 そんなこと思いながら、ケイは仕方なく明日の準備をするしかなかった。

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