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第11章
第289話
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「ナチョ様! 魔人たちが住んでいる町を発見しました!」
エヌーノ王国の王太子であるナチョのもとへ、1人の兵士が報告に来た。
兵士たちが魔人たちの魔法に注意しつつ追いかけて行ったところ、高い城壁に覆われた町らしき場所へと行き当たった。
魔人たちが中に入って行ったところを見る限り、ここが魔人たちが暮らしている町になっているようだ。
それを発見した人族兵たちは、一斉に侵入を計るために一度一ヵ所に集まり、ナチョから侵入開始の命令を待つことにした。
「よしっ! すぐにでも総攻撃をしかけろ!」
「っ!? ナチョ様! 早計な判断は危険です!」
命令待ちということを報告に来た者が伝えると、ナチョはすぐさま了承して攻撃の指示を出した。
ハシントが死んだのが余裕をなくしているらしく、魔人たちの行動を深く考えようとしていない。
そんなナチョを諫めるように、傍に仕えている老齢の男性が止める。
魔人たちの成長は、どう考えても異常だ。
ハシントが死んだ時点で、こちらは逃げるか時間をかけて慎重に事を進めるかの2択しかない。
それなのにこれまで通りのゴリ押しでは、兵数がいくら多かろうとひっくり返される可能性がある。
逃げるという選択肢を取らないなら、せめて慎重に行動をするべきだ。
「一旦兵を引かせ、しっかりとした拠点を得るなり、もう少し体制を整えるべきです!」
「そんな悠長なことなど言っていられるか! 拠点なら、魔人たちを始末した跡地を利用すればいいではないか!?」
ハシントをはじめとして、もうすでに多くの兵が命を落としている。
重傷者も多く出ている。
これ以上は、勝てたとしてもその後の色々な方面の立て直しが難しくなる。
それを見越して老齢の男性が忠告するのだが、ナチョの耳には入らない。
先の事どころか、今のことすら把握できているのか疑問に思える。
「攻撃開始だ!! 行けっ!!」
「かしこまりました!!」
結局、老齢の男性の忠告を無視し、ナチョは報告に来た兵に向かって攻撃開始の合図を出した。
それを受けた兵は、すぐさま仲間のもとへと走り出した。
「ナチョ様から突入の指示があった」
「了解! いくぞ!」
ナチョから指示を受けた兵は、いつでも攻め込めるよう体制を整えながら指示を待っていた仲間たちのもとへと辿り着いた。
そして、ナチョからの指示があることを伝えられた人族兵たちは、ハンドサインを出し合って連携を取った後、一気に隠れていた樹々から飛び出し、魔人たちの住む城壁へと走り始めた。
「来たぞっ!! 用意っ!!」
「なっ!? 奴らどれだけ大砲を用意しているんだ?」
大軍でエナグアの城壁へと迫り来る人族兵を見て、城壁にいた魔人の一人が大きな声で指示を出した。
その声が発せられたことが合図になって、城壁の一部に穴のような物が開けられた。
取り外せる窓のようになっていたらしく、その窓からは大砲の筒が飛び出してきた。
しかも、その窓は城壁の至る所にあり、そのすべてから大砲の砲口が人族たちへ向けられている。
その大砲の数に、人族兵たちは怯み、攻め込む足が僅かに鈍る。
「撃てっ!!」
“ドドドド…………!!”
合図と共に発射され、人族兵たちへ向かって砲弾が降り注いだ。
雨のように落ちてくる砲弾に、大量の人族兵が物言わぬ肉片へと変えられていく。
ここまで何発も飛んで来たら、ケイでも防御に全力にならないと大怪我を負うこと間違いない。
魔闘術を使えない者たちでは、全力で逃げ帰るしかないだろう。
「このままでは全滅する引け!」
案の定、このままではただ死にに行くようなものと判断したらしく、人族たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。
強くなったと言っても、魔人相手なら魔法に気を付けさえすればたいしたことではないと思っていたところがあり、逃げるということを想定していなかったようだ。
「逃がさん!」
「バカな!?」
散り散りになる人族たちが森の中へ身を隠そうとするが、そうすることを予想していた魔人たちは待ち受けるように人族たちの前に姿を現す。
大軍で攻められれば勝ち目がないかもしれないが、今のようにバラバラの状態になってしまえば、後はただの個人戦だ。
ビビッて逃げてきた精神状態で、まともに戦える者が少ない人族に対し、予想通りに待ち受けていた魔人たちは鍛え上げた戦闘技術を如何なく発揮できる。
慌てる人族たちは、潜んでいた魔人たちによってバッタバッタと斬り倒されて行った。
「くそっ!」
魔人たちから逃れた者たちは、そのまま森の中へと入って行く。
何とか逃げきり、国へと逃げるしかない。
「ハァ、ハァ……。ここまでくれば……」
森に逃げ込んだ兵は、周囲に魔人や仲間の姿が見えなくなり、何とか逃げ切ったと安堵する。
「……あっ!?」
「ガァァーー!!」
安堵した兵が、このままナチョのもとへと向かおうとすると、兵の目の前には巨大な熊が立ちはだかっていた。
熊の咆哮を聞いたすぐ後、その兵は何が起きたかも分からずに命を落とした。
その場を去った後に残ったのは、数か所を食われてバラバラに散らばった骨や肉片が残っているだけだった。
「おのれ! 魔物人間どもが!!」
「死ねっ!」
多くの仲間が必死に逃げているのを見ながら、ひとりの兵が恨み節のように魔人を侮辱する。
その言葉を聞いたからという訳ではないだろうが、その兵の背後には剣を振り上げているエべラルドが迫っていた。
そして、一言呟くと共に、その兵の首を斬り飛ばしたのだった。
エヌーノ王国の王太子であるナチョのもとへ、1人の兵士が報告に来た。
兵士たちが魔人たちの魔法に注意しつつ追いかけて行ったところ、高い城壁に覆われた町らしき場所へと行き当たった。
魔人たちが中に入って行ったところを見る限り、ここが魔人たちが暮らしている町になっているようだ。
それを発見した人族兵たちは、一斉に侵入を計るために一度一ヵ所に集まり、ナチョから侵入開始の命令を待つことにした。
「よしっ! すぐにでも総攻撃をしかけろ!」
「っ!? ナチョ様! 早計な判断は危険です!」
命令待ちということを報告に来た者が伝えると、ナチョはすぐさま了承して攻撃の指示を出した。
ハシントが死んだのが余裕をなくしているらしく、魔人たちの行動を深く考えようとしていない。
そんなナチョを諫めるように、傍に仕えている老齢の男性が止める。
魔人たちの成長は、どう考えても異常だ。
ハシントが死んだ時点で、こちらは逃げるか時間をかけて慎重に事を進めるかの2択しかない。
それなのにこれまで通りのゴリ押しでは、兵数がいくら多かろうとひっくり返される可能性がある。
逃げるという選択肢を取らないなら、せめて慎重に行動をするべきだ。
「一旦兵を引かせ、しっかりとした拠点を得るなり、もう少し体制を整えるべきです!」
「そんな悠長なことなど言っていられるか! 拠点なら、魔人たちを始末した跡地を利用すればいいではないか!?」
ハシントをはじめとして、もうすでに多くの兵が命を落としている。
重傷者も多く出ている。
これ以上は、勝てたとしてもその後の色々な方面の立て直しが難しくなる。
それを見越して老齢の男性が忠告するのだが、ナチョの耳には入らない。
先の事どころか、今のことすら把握できているのか疑問に思える。
「攻撃開始だ!! 行けっ!!」
「かしこまりました!!」
結局、老齢の男性の忠告を無視し、ナチョは報告に来た兵に向かって攻撃開始の合図を出した。
それを受けた兵は、すぐさま仲間のもとへと走り出した。
「ナチョ様から突入の指示があった」
「了解! いくぞ!」
ナチョから指示を受けた兵は、いつでも攻め込めるよう体制を整えながら指示を待っていた仲間たちのもとへと辿り着いた。
そして、ナチョからの指示があることを伝えられた人族兵たちは、ハンドサインを出し合って連携を取った後、一気に隠れていた樹々から飛び出し、魔人たちの住む城壁へと走り始めた。
「来たぞっ!! 用意っ!!」
「なっ!? 奴らどれだけ大砲を用意しているんだ?」
大軍でエナグアの城壁へと迫り来る人族兵を見て、城壁にいた魔人の一人が大きな声で指示を出した。
その声が発せられたことが合図になって、城壁の一部に穴のような物が開けられた。
取り外せる窓のようになっていたらしく、その窓からは大砲の筒が飛び出してきた。
しかも、その窓は城壁の至る所にあり、そのすべてから大砲の砲口が人族たちへ向けられている。
その大砲の数に、人族兵たちは怯み、攻め込む足が僅かに鈍る。
「撃てっ!!」
“ドドドド…………!!”
合図と共に発射され、人族兵たちへ向かって砲弾が降り注いだ。
雨のように落ちてくる砲弾に、大量の人族兵が物言わぬ肉片へと変えられていく。
ここまで何発も飛んで来たら、ケイでも防御に全力にならないと大怪我を負うこと間違いない。
魔闘術を使えない者たちでは、全力で逃げ帰るしかないだろう。
「このままでは全滅する引け!」
案の定、このままではただ死にに行くようなものと判断したらしく、人族たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。
強くなったと言っても、魔人相手なら魔法に気を付けさえすればたいしたことではないと思っていたところがあり、逃げるということを想定していなかったようだ。
「逃がさん!」
「バカな!?」
散り散りになる人族たちが森の中へ身を隠そうとするが、そうすることを予想していた魔人たちは待ち受けるように人族たちの前に姿を現す。
大軍で攻められれば勝ち目がないかもしれないが、今のようにバラバラの状態になってしまえば、後はただの個人戦だ。
ビビッて逃げてきた精神状態で、まともに戦える者が少ない人族に対し、予想通りに待ち受けていた魔人たちは鍛え上げた戦闘技術を如何なく発揮できる。
慌てる人族たちは、潜んでいた魔人たちによってバッタバッタと斬り倒されて行った。
「くそっ!」
魔人たちから逃れた者たちは、そのまま森の中へと入って行く。
何とか逃げきり、国へと逃げるしかない。
「ハァ、ハァ……。ここまでくれば……」
森に逃げ込んだ兵は、周囲に魔人や仲間の姿が見えなくなり、何とか逃げ切ったと安堵する。
「……あっ!?」
「ガァァーー!!」
安堵した兵が、このままナチョのもとへと向かおうとすると、兵の目の前には巨大な熊が立ちはだかっていた。
熊の咆哮を聞いたすぐ後、その兵は何が起きたかも分からずに命を落とした。
その場を去った後に残ったのは、数か所を食われてバラバラに散らばった骨や肉片が残っているだけだった。
「おのれ! 魔物人間どもが!!」
「死ねっ!」
多くの仲間が必死に逃げているのを見ながら、ひとりの兵が恨み節のように魔人を侮辱する。
その言葉を聞いたからという訳ではないだろうが、その兵の背後には剣を振り上げているエべラルドが迫っていた。
そして、一言呟くと共に、その兵の首を斬り飛ばしたのだった。
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