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第11章

第270話

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「初め!!」

 セベリノの合図により、ケイとバレリオの戦いが始まった。

『さて、魔人の実力はどんなもんかな?』

 セベリノが紹介してくるくらいなのだから、きっとバレリオは魔人の中でもかなりの戦闘力の持ち主のはずだ。
 挑発に乗ったようにして戦う事にしたのも、魔人の実力を知るいい機会になると思ったからでもある。
 そのため、どんなものが飛び出してくるのか、ケイは内心宝箱を開けるように心楽しみにしている。

「ハァッ!!」

 少しのにらみ合いの後、先に動いたのはバレリオだった。
 バレリオの持つ武器は ドワーフ製とのこと。
 どんな仕掛けが施されているのか分からない。
 それにも注意をしなければならない。
 そのため、ケイはまずは様子を見ることにした。

『速い! だが……』

 バレリオの持っている武器は、ぱっと見ると片刃の剣。
 一応ケイに気を使っているのか、峰打ちで打ち込んできている。
 ケイとの距離を一気に詰める瞬発力は速く、なかなか素晴らしい。
 しかし、ケイはその一撃をわざと受けるなんてことはしない。
 ステップを踏むようにして、ケイはバレリオの攻撃を躱した。

「っ!?」

 戦いが始まる前、そして始まってからも、バレリオの内心は乱れていた。
 落ち着こうと思ったが、余裕そうなケイの表情に釣られたように攻撃をしかけてしまった。
 普段ならしないような雑な攻撃だが、それでも落ち着くきっかけにはなると思ったのだが、攻撃を躱されたバレリオは更に慌てた。
 躱される可能性は考えていたが、その躱され方が予想外だった。
 ケイが目の前から消えたからだ。

「っ!? っ!?」

 魔人大陸の強力な魔物を相手にしても、このように姿を見失うと言うようなことはなかった。
 信じられないというように、バレリオは首を振ってケイの姿を見つけようとする。

「……こっちだよ」

「っ!?」

 バレリオの視界に入らないように動いていたケイだったが、一向に見つけてもらえないため、背後から声をかけてあげた。
 その声に反応したバレリオは、さっき見た時いなかった場所にケイがいることに目を見開く。

「……その剣の力を見せてもらえるかな?」

 なんとなくだがバレリオの戦い方が分かってきた。
 もしも、これが魔人たちの実力だとしたら、むしろ何で今まで魔物を倒せてきたんだと疑問に思えてくる。
 人族が相手だと言っても、数で不利な魔人たちが勝つには完全に実力不足だ。
 後は、ドワーフ製の武器の性能を見ておきたいため、ケイはバレリオに見せてもらおうとした。

「おのれ!」

 別にケイは挑発したわけではない。
 しかし、言葉を受け取ったバレリオの方はそうではなかった。
 舐められていると判断したらしく、こめかみに青筋を立ててケイを睨みつける。

「ハァー!!」

「……炎?」

 ケイが呟いた通り、バレリオが剣に魔力を流した途端、剣を纏うように炎が沸き上がった。

『……もしかして、マカリオ殿は……』

 それを見て、ケイはセベリノの父であるドワーフ国王の顔を思いだした。

『そう言えば子供の頃の知識しかなかったんだっけ?』

 このことは2人の間だけの秘密になっているが、ケイ同様、ドワーフ国王のマカリオは転生者だ。
 マカリオの場合は、日本の小学5年生までの記憶しかないと言っていた。
 そのことを思いだすと、目の前の剣のことが理解できた。

「いいか! この剣はな……」

「魔剣とでも言いたいのか?」

「魔……えっ?」

 自信満々のどや顔でケイに対して剣のことを話そうとしたバレリオだが、その言葉の途中でケイに正解を言われ、次に言うべき言葉が出て来ずどうしていいか分からないといったような表情になる。
 セベリノからは、ケイが自分たちが使う武器のことをまだ説明していないと聞いていた。
 なので、見せびらかすという思いもあったバレリオだったが、何だか恥ずかしいことになってしまった。

『まぁ、思いつくよな……』

 この世界において魔道具開発のスペシャリスト。
 そのドワーフの中でマカリオが周りから天才と言われるようになったのが、この武器の開発によるところが大きい。
 魔力を炎や水に変換するということは当たり前のことだ。
 生活魔法と呼ばれるように、竈に火を入れる時に指先の魔力を火に変えて着火するなんて、大人になれば当たり前のように瞬時にできる。
 しかし、魔力を火に変えて戦うことにしようする時は、少しの間ができる。
 それも訓練次第で素早くできるようになるのだが、その訓練が地味で面倒なため根気がいる。
 剣術の技術はあるのに、その変換が苦手な人間も中にはいる。
 それはかなりもったいない。
 ならば、魔力を流すだけで火に変換してくれる武器を作ればいいという発想にたどり着く。

『小学生なら魔剣に憧れても仕方ないよな……』

 マカリオの場合、その発想にたどり着く以前に、魔剣という物の存在への憧れが先にあったのではないかとケイは思う。
 ケイも同じくらいの年齢の時に同じような考えをしたことがあったからだ。
 そんな小学生が、本当に魔法がある世界に来たら作ってみたくなっても仕方ない。
 ただ、

『もしかして、黒歴史になってるんじゃないか?』

 この世界で、魔剣なんて初めて見た。
 性能を考えたら、世界にもう少し広まっていても良いような気がする。
 それが、魔人だけしか使っていないとなると、マカリオが大人になり、キラキラした目で魔剣を使う魔人を見た時、何だか恥ずかしい思いに駆られたのではないかと予想できた。
 だから、魔人だけにしか使わせないようにしたのだろう。
 何故そう思うかと言ったら、ケイも同じ立場なら同じ対応をしていたと思うからだ。

「ハァ!!」

 変な空気が流れたのもつかの間。
 バレリオは炎を纏った魔剣(笑)で、ケイへと攻撃をしかけてきた。

「良し! もういいよ」

「っ!?」

 念のために銃を抜いたのは無意味だった。
 剣の性能も見れたことだし、バレリオの大体の実力は分かったつもりだ。
 これ以上の戦いは無意味になるので、ケイはこの戦いを終わらせることにした。
 別にこのまま何もしなくて引き分けのような終わりでも構わないのだが、そうはしない。
 ケイは、戦う前のバレリオの挑発には何とも思っていない。
 何とも思ってはいないのだが、完全に受け流す程人間ができていない。
 前世とこの世界でもう70年くらい生きているが、エルフの肉体は20代前半のまま変わらない。
 肉体につられるのか、精神もそこまで変わっていないように感じる。
 つまり、何が言いたいかというと、

“ドガッ!!”

 ちょっと腹いせに、ケイは強めの一撃をバレリオに食らわしたのだった。
 拳で顎を撃ち抜かれたバレリオは、あっさり目を回して前のめりに倒れた。
 糸が切れた操り人形のように崩れ落ちたバレリオに、ちょっとやり過ぎたかなと思う反面、ちょっとスッキリしたケイだった。

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