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第11章

第269話

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「ケイ殿」

「はい」

 今後の予定が決まり、ドワーフ王国に滞在していたケイ。
 何もしないのは暇なので、王城の訓練場を借りて軽く体を動かしていた。
 一汗かいて休憩していると、セベリノがケイに声をかけてきた。
 その後ろには、一人の男性が付いてきている。
 肌が青紫のような色をしている所を見ると、魔人族の人間なのだろう。
 身長は170cm位のケイに対し、頭半分くらい上の大きさ。
 筋肉も重くならない程度につけ、良い感じにバランスが取れているように見える。
 顏はエグザ〇ルにいそうな、ワイルド系イケメンといった感じだろうか。

「こちらは魔人大陸南端に位置するエナグアという国の方で、兵を統率する役割を担うバレリオ殿です」

「どうも……」

 今回ケイが戦闘指導をするにあたり、ケイの手伝いのために連れて来たのだろう。
 セベリノの紹介を受け、ケイはバレリオに軽く頭を下げて挨拶をする。
 バレリオも、軽く頭を下げて返礼したのだが、

「バレリオ殿、こちら……」

「お待ちください。セベリノ様」

 ケイのことを紹介しようとしたセベリノの言葉を遮るように、バレリオは一歩前に足を進める。
 そして、ケイの全身を値踏みするように眺める。

「……? 何か?」

 紹介途中で遮られたことはともかく、ケイに失礼な目線を向けるバレリオに、セベリノは真顔になる。
 次期王というより、実質王の立場なのだから、ムッとしたのを顔に出しては駄目だろうと、セベリノに思う。
 近寄ってくる時から、バレリオはケイに睨みを利かせていた。
 なので、ケイとしてはやっぱり来たかといった感じだ。

「ドワーフの方々には日ごろから感謝の念が尽きないのですが、このご提案に私は些か疑問を感じております」

「……と言いますと?」

 他の大陸と比べて魔素が濃く、それによって湧き出る魔物はかなり強力。
 逃げて逃げて何とか仲間を増やしてきた魔人族に、戦う武器を与えてくれたドワーフ王国。
 それによって魔物と戦い、逃げ回るのではなく定住するということができるようになった。
 今では国と呼べるほどに大きくなったエナグアの地。
 ドワーフの力がなければ成しえなかったことだと、国民みんなが分かっている。
 感謝しているというのは、紛れもない本心だ。
 しかし、今回の人族侵攻に対して兵を訓練すると言っても、何故ドワーフの国の者ではないのか。

「魔人族の間にもエルフという種族のことは知られております。我々と同様に人族から追い出された種族だと、しかし、我々と違い戦うこともせずに滅びたとも聞いております」

「バレリオ殿、ケイ殿に失礼ですぞ!」

 滅びたというのは合っているようで合っていない。
 ケイという存在がまだいる以上幌似たとは言えないが、ケイがこの後死んだ場合、エルフは滅んだと言っても過言ではない。
 しかし、息子や孫たちの中にエルフの血は受け継がれている。
 純血か混血かという違いがあるが、そんな事たいした話ではない。
 そういった意味では滅びたというのは適切ではない。
 そのことはケイ自身が分かっていることだし、他の種族が軽々に口に出すことではない。
 バレリオの失礼な物言いに、セベリノの方が先に腹を立ててしまった。

「セベリノ殿、構いませんよ」

 実の所、ケイは特に何とも思っていない。
 エルフが戦わず、人族に搾取されて来たのは事実だ。
 しかし、ケイがアンヘルの体に転生する前の話だ。
 ケイからしたら、それもただの情報でしかなく、実体験ではないので感情が動くことはない。
 なので、ケイは怒気を揚げそうなセベリノを冷静に制止する。

「それで、バレリオ殿はどうしたいと?」

 目付きからいって、もしかしたらこのように挑発をしてくるのも予想していたし、これからバレリオが言いたいこともなんとなくだが予想できる。
 なので、ケイはその挑発に乗ってみることにした。

「手合わせ願いたい!」

「いいですよ」

 ケイは内心でやっぱりかと思った。
 予想していた通りの言葉に、ケイはあっさりと受け入れる返事をする。
 「君たちでは勝てないから訓練してくれる人連れて来たよ!」と言われて、あっさり受け入れられるほど人間の感情は簡単にできてはいない。
 バレリオがこうしてくるのも当然だ。
 ケイが同じ立場になったとしても似たようなことをしていたかもしれない。

「い、良いのですか?」

「えぇ、早速やりましょう!」

 あまりにもあっさり受け入れられたので、逆にバレリオの方が慌てたようだ。
 ケイからすると、その反応にやり返してやった感もなくはないが、そんなことを見せる訳もなく、それよりももっと慌てさせてやりたくなる。
 そのため、まるでケイの方が先に誘ったかのように、訓練場の中心に向かって歩き出した。

「えっ? えぇ……」

 策略は成功したらしく、バレリオは促されたことに戸惑いながら、ケイの後へと付いて行く。

「セベリノ殿。すいませんが審判をお願いします」

「ハハ……、分かりました!」

 バレリオがケイの実力を知りたくて挑発していたのは、ケイの反応を見てから気付いた。
 アンヘル島はエルフ王国という位置づけになってはいるが、まだまだ国と呼べるような規模ではない。
 格で言えばドワーフ王国の方が数段上だ。
 しかし、王としての器の大きさを考えた時、この僅かな対応力の差をだけでセベリノはケイの方が上に思えてしまった。
 今も、いつの間にかケイのペースになっている。
 セベリノは思わず笑ってしまい、ケイの頼みを了承した。

「じゃあ、やろうか?」

「お、おうっ!」

 手合わせなので、当然致命傷を与えないことがルールだ。
 本人が分からないうちに肩に力が入っている様子のバレリオに対し、ケイは余裕の様子で銃を一丁抜きクルクルと回転させる。
 そして、2人はセベリノの合図を待ったのだった。

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