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第10章

第262話

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「ガアァァーー!!」

 大きな呻き声と共にビキビキという音をたて、佐志峰の肉体は変化を始める。

「……何だ?」「何が起きているんだ?」

 佐志峰が何を行なっているのか分からず、周囲を囲む日向の兵たちは首を傾げる。

「……魔力が漏れ出ている?」

 ケイ自身も、魔族のことを全て理解している訳ではない。
 佐志峰に関しては、かなり人間に近い魔力の流れをしていたので分かりにくかったが、人間の姿をしていながら、人間とは違う魔力の流れをしている存在と認識している。

「もしかして、変身する気か?」

 以前見た魔族も似たような変化をしたことを思いだした。
 これまで3体の魔族を見てことがあったが、その内2体はケイと、ケイの息子のレイナルドが狙撃してあっさり殺してしまった。
 しかし、ある国に封印されていた魔族のことはある程度知っている。
 というのも、その封印を解いてその国を消滅させたのはケイ自身だからだ。
 封印を解いた時は人間の姿をしていたが、突如肉体を変化させた。
 いまの佐志峰のように魔力が膨れ上がると、その魔族は虫の特徴を持った姿へと変身したのだった。

「ほう……、魔族の本性を見たことがあるのか?」

「……本性?」

 本性ということは、あの時の虫の魔族のように、佐志峰も魔族としての姿に戻るということなのだろうか。

「人間の姿は人間社会に入り込むための所詮は仮の姿だ。魔族としての本領を発揮するのは魔族の姿に戻った時だ!」

「っ!?」

 ケイへの言葉を言い終わると同時に、一気に変化が起こる。
 佐志峰の背中の皮膚が破れると、そこから何かが飛び出してきた。

「シャー……、随分久しぶりにこの姿に戻ったな……」

「な、何だ!?」「綱泉の体から蛇が出現したぞ!!」「しかも、喋った!!」

「…………三つ目の蛇?」

 飛び出してきたは、黄色と黒がまだらに入った鱗をしていて、額に目がついている蛇だった。
 10mくらいの全長をしており、人間どころか牛すらも一飲み出来そうなくらい太い胴体をしている。
 その蛇がどこかすっきりしたように呟くと、魔族のことを知らない日向の兵たちは、人間からこんなのが出てきたことに驚きの声をあげている。
 ケイも見たことも無いような魔物だ。
 しかし、多くの蛇を操っていた理由は、これにあるのかとなんとなく納得した。

「そう言えば、以前の魔族もそうだったけ……」

 ケイが見たことのある魔族は、虫とネズミとカエルの姿をした魔族だった。
 その姿の通り、彼らが操っていたのは、虫なら虫というように自分と同種の魔物だった。
 この蛇の魔族も、同じように蛇を操るのが最も得意なのかもしれない。 

「……アジ・ダハーカの出来損ないって所か?」

 アジ・ダハーカは、3つの頭と3つの口、6つの目を持つ姿をした魔物だ。
 それに比べて佐志峰だった蛇の魔族は、普通の蛇に目がついているだけで、姿としてはあまり似ていない。
 傷から魔物を生み出すという似たような特徴を持っているが、とても同じには思えない。

「っ!? 貴様……!!」

「何だ? 腹を立てるってことは図星か?」

 どうやら蛇の魔族自身、その思いがあったのかもしれない。
 何気なく呟いた言葉に反応した蛇の魔族は、怒りをはらんだ3つの目でケイを睨みつける。
 それを見て、ケイは挑発するような言葉を続ける。

「殺す!!」

「っと!」

 怒りが頂点に達したのか、蛇の魔族は尻尾を振り上げ、そのままケイへと振り下ろした。
 地面が凹むほどの強力な一撃だが、ケイはそれを横へ飛んで躱す。

「ハァッ!!」

「危なっ!」

 躱したケイへ、蛇の魔族はすぐさま顎を開いて牙での追撃してきた。
 恐らく、他の蛇の魔物と同様に、噛まれてしまえば毒で動けなってしまうだろう。
 その攻撃を、ケイは後方へ飛び退くことで回避する。

「思った以上に速いな……」

 魔族としての本性を表して、魔力の量が増えたようにも思える。
 佐志峰の姿の時と同じく魔闘術を使った攻撃は、威力はもちろんだが速度も増しているように思える。

「……でも、対処できる範囲だ」

 その後も攻撃をしてくる蛇の魔族だが、魔族の姿になったことによる変化を確認するかのように、ケイはそれを躱し続ける。
 もちろん人間と魔族の場合、姿・形が違うので攻撃方法も違って来るが、きちんと対応すれば攻撃を受けることはないだろう。

「しかも、その姿でも魔法を使えないようだな?」

「くっ!?」

 攻撃を躱され、しかも気にしている部分をつかれた蛇の魔族は、焦りも加わっているせいか攻撃の連携も雑になっている。
 攻撃を躱している時に、魔族の姿なら魔法を使って来るかもしれないと思っていたのだが、一向に使ってくる気配がない。
 そのことから察するに、この状態になっても魔法が使えないのだろうと判断したのだが、当たっていたようだ。

「だから日向に目を付けたのか?」

「う、うるさい!!」

 ケイの疑問は、またも図星だった。
 魔族なので魔力は豊富にある。
 なのに、それを魔法として使うことができないなんて、かなりの欠陥だ。
 しかし、人間の中には魔法を使わずに戦う種族もいると聞き、蛇の魔族はその戦闘法を見にこの国に潜入したのだ。

「しかも、その姿になった方が冷静さがなくて対処がしやすい」

「だ、黙れ!!」

 ケイの言うように、蛇の魔族は本性を表したことによって怒りの沸点が下がって攻撃が雑になっている。
 まだ佐志峰の状態の時の方が、ヒリヒリする攻撃をしてきていたように思える。

「色々知れたし、これ以上お前の相手をする必要もないな。そろそろ終わりにしてやるよ!」

「舐めるな!!」

 ケイが挑発するように手招きすると、案の定沸点の低い蛇の魔族はケイへと襲い掛かった。
 まるでスプリングのようにして体を縮めた後、その反動を利用して高速の体当たりを放ってきた。

「ハッ!!」

「うごっ!!」

 蛇の魔族と違い、ケイは魔法が使える。
 これまでとは比べ物にならないほどの速度でケイへと迫る蛇の魔族だが、直線的過ぎるため対処をしやすい。
 向かてくる巨大な砲弾のような蛇の魔族に対し、ケイは魔法で地面を隆起させる。
 タイミングを合わせて真下から隆起した地面は、そのまま蛇の魔族を上空へ打ち上げた。

「上空じゃ何もできないだろ?」

「っ!?」

 上空へ打ち上がった蛇の魔族は、何もできずに悶えている。
 落下してくるまでにできた時間で、ケイは銃に魔力を集める。
 傷を付けたら魔物が生まれるかもしれないため、一撃で跡形もなく吹き飛ばすため、体内の魔力をありったけ銃に込める。

「死ね!!」

「ま、待て……」

 蛇の魔族は、落下しながら制止の声をあげる。
 その時はもう遅く、ケイが放った魔力の砲撃に包まれて、跡形もなく消し飛んだのだった。

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