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第10章

第256話

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「ほぅ~……」

 飛び出した冒険者たちの戦いぶりに、敵であるはずの佐志峰も感心したような声をあげる。
 というのも、

「ハッ!!」

「たぁ!!」

 何百もの蛇が周囲を囲む中、冒険者の者たちは問題なく斬り倒していたからだ。
 彼らの周囲には薄い膜のような物が張り巡らされており、その膜の内部へ蛇たちが侵入できないため、囲まれているとは言っても焦ることなく対応できているのだろう。
 冒険者たちの武器により、バッサバッサと真っ二つになっていく蛇たち。
 二の足を踏んでいた日向の兵たちも、その戦い方に集中していた。

「すごいですね……」

「えぇ、彼らはかなりのランクの冒険者なのでしょう」

 彼らの戦いぶりに目を見張っていたのは西厚も同じらしく、小さく呟いく。
 その呟きに、ケイは同意しつつ彼ら冒険者のことを分析していた。
 戦っているのは10人程で、組み合わせからいって2パーティーといった感じだろうか。
 回復・援護系の男性との女性、魔法攻撃担当の女性が2人、タンク役の男性2人、剣士が2人、槍使いの女性と鎖鎌を持っている男性の10名だ。
 前衛と後衛がバランスよく、どんな魔物が出ても対応できるように考えられた組み合わせのようだ。
 どういう理由でこの戦いに参加しているのかは分からないが、魔物相手に戦うことに慣れているという意味では、日向の兵たちよりも佐志峰へ近付ける可能性のあるだろう。

「……蛇が巻き付けないでいるあれは、障壁のような物ですか?」

「えぇ、あの後方に位置する者に掛けて貰っているのでしょう」

 後方に控える回復・援護係の2人を指さし、ケイは西厚へと説明をする。
 彼らも日向の者たち同様に魔闘術を使っている。
 それだけでSランク以上だと分かるが、それだけでは蛇に巻かれて餌食になるだけ。
 なので、更に防御力を上げるために障壁を張ることで蛇の侵入を防いでいるのだ。
 その障壁を張っているのが、魔法を使って攻撃しているの者に守られている回復・援護係の2人だ。

「日向の剣士方も似たようなものを使えるはずですよ」

「本当ですか?」

 冒険者の者たちの戦い方は、魔法を使わない日向の人間には珍しく感じるのかもしれない。
 しかし、別に日向の人間が蛇を相手に戦えないという訳ではない。
 冒険者たちとは少し違う方法ではあるが、方法はある。

「もしかして、アスプの睡眠眼や毒の息を防いだあれですか?」

「その通りです」

 西厚は察しが良いようだ。
 ケイが言った言葉で、アスプと戦ったことを思いだしたようだ。
 それもそのはず、あの時、ケイの提案を八坂が西厚に伝えたからこそアスプを倒すことに成功したのだから。
 あの時のように魔力を壁にすれば、冒険者たちのように長い時間戦えるという訳ではないが、少しの時間なら蛇を減らすことができるはずだ。

「ただ、問題があります。魔力の消費に気を付けないと……」

「……突如壁が消えて蛇にやれると?」

「その通りです」

 ケイの言いたいことを察したのか、西厚は言葉をつなげる。
 あの時は通常の魔闘術と違って顔を覆うことで対処したが、今度は全身を覆うという戦い方になる。
 魔闘術なら当たり前のように使いこなしている日向の兵たちでも、慣れない戦い方に勝手が分からず、消耗する魔力は激しくなる。
 きちんと自分の魔力残量を計算していないと、突然障壁が弱まったりして蛇の侵入を防ぐ効果をなくしかねない。
 その部分が注意するべきところだ。

「それを他の隊に伝えなければ……」

 西厚の部隊はアスプとの戦いで経験があるため、見本を見せることができる。
 他の隊に戦法と見本を見せれば、蛇を削ることは容易になるはずだ。
 そう思った西厚は、南門の担当である責任者に伝えに行こうと目を向ける。

「大丈夫ですよ!」

「何故?」

 伝えに行こうとする西厚を、ケイが止める。
 魔物の数を減らしていっているとは言っても、冒険者たちだけではそのうち魔力が切れてやられてしまうかもしれない。
 他国のことに尽力してくれている勇敢な戦士たちに、異人だとか関係ない。
 このまま彼らにだけ任せておくのは日向の恥になる。
 そのためには、一刻も早く対処法を他の者に伝えるべきなのに、それを止めるケイに西厚は疑問に思った。

「見てください。冒険者の者たちがいた隊の方たちが魔力を練っています」

「……それが?」

 ケイの指さして言う通り、冒険者たちが出て行ったところの部隊の者たちは魔力を練っている。
 それだけでは分からなかった西厚は、もう一度ケイに問いかけた。

「恐らく冒険者たちの彼らが私と同じ考えを伝えていたのでしょう。ですから、西厚殿も兵の方たちにいつでも動けるようご指示をした方が良いかと……」

「っ!! なるほど!!」

 魔力を体から離すのが苦手な日向の者たちでは、他人に魔力で障壁を張るようなことは今この場ではできない。
 ならば自分で張るしかないが、魔闘術を使うことに慣れてはいても、二重に魔力を纏うといった方法は試してきてはいないだろう。
 魔力を練るのにも時間がかかって戦闘向きではないが、冒険者の彼らに魔物が集中している今を無駄にできない。
 長時間の戦闘も難しいのだから、一斉にかかるタイミングを逃してはならない。
 そのため、ケイは西厚に説明をした。

「皆の者! アスプ戦を思いだせ! あの時の要領でもう一枚魔力を全身に纏うのだ!」

 ケイのもっともな意見を受け、西厚もすぐに兵たちに魔力を練るように指示を出した。
 とは言っても、西厚の部隊はそのアスプ戦で魔力を消費しているので、他の隊よりもさらに戦える時間は少ないかもしれない。

「もしもの場合は自分が援護に動きます」

「お願いいたす」

 西厚もそのことを危惧しているかもしれないと思ったケイは、その時は自分も動くと安心させるために告げた。
 その言葉に、西厚は感謝の言葉を述べた。

『恐らく動かなければならないかもしれないからな……』

 大量の蛇の魔物に目が行っていて、どこの隊も佐志峰の方には行っていない気がする。
 しかし、ケイは蛇のことよりも佐志峰の方ばかり警戒している。
 大量の蛇とは言っても、ケイからすればそこそこの魔物でしかなく、魔法を放てば一気に減らすことも不可能ではない。
 しかし、そんなことをして魔力を消費しては、気になっている佐志峰を相手にする時、疲弊した状態で戦わなければならなくなる。
 完全に佐志峰の強さが分からないうちに、そんなばくちまがいなことはできない。
 そのため、西厚や放火の日向兵に頑張ってもらうしかない。
 魔力の残量からいっても、そろそろ戦いから引き始める頃合いになってきた冒険者たちには、ケイも参加してくれたことを内心感謝していたのだった。

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