上 下
255 / 375
第10章

第255話

しおりを挟む
「何だ? これは……」

 八坂の配慮もあって、西厚率いる他の隊と共にケイは南門へと向かった。
 そして、たどり着いた時には、多くの日向兵が蛇に纏わりつかれていた所だった。
 その様子に、ケイと共に来た兵たちは疑問の声をあげる。

「あいつが操っているのか……?」

 まだこの場に着いたばかりのため、現状を理解できない西厚の兵たち。
 ケイも分かっている訳ではないが、誰がこの状況を作り上げているのかはすぐに分かった。
 城の内部から、ゾロゾロと溢れるように蛇が出現しているのにもかかわらず、1人の人間の周りには綺麗な円を描くように蛇が近付かないでいる。
 その者が、蛇を使って近寄る兵に差し向けているのだと予想できた。

「っ!? 奴が綱泉佐志峰です!!」

「奴が!?」

 この城の周囲に集まった兵たちは、本をただせば綱泉と上重を捕縛するのが目的である。
 たったそれだけのために大量の軍が城を包囲をしたのだが、降伏をするどころか魔物を使った徹底抗戦をしかけてきた。
 異常な種と数の魔物によって侵入を困難にさせられたが、その捕縛対象の1人が姿を現したということになる。
 だが、それも解せない。
 話だとバカ大名と密かに言われている綱泉佐志峰が、何故1人で現れ、何故大量の魔物を操っているのか疑問に思えてくる。

「蛇が……」

 佐志峰に操られている蛇の魔物たちは、近付く兵に纏わりつくと、噛みつき・締め付け、捕まえた兵をすぐに戦闘不能へと追い込んで行っている。
 しかも、

「く、食っているのか?」

 蛇によって戦闘不能に追い込まれた兵は、そのまま纏わりついたままの蛇たちに襲い掛かられている。
 そして、小さな悲鳴のような物が聞こえると、蛇たちの隙間から血が噴き出し、食い散らかされていった。
 まだ意識があるのにもかかわらず食われていく悲惨な姿に、他の日向の兵たちは顔を青くする。
 佐志峰に斬りかかりたいが、近付く前に蛇に止められて自分も同じようになるのではと、頭に映像が浮かんでいるのだろう。
 攻めかからなければならないのは分かっていても、二の足を踏んでしまっている。

「どうした? かかって来ないのか?」

 段々と近付こうとする兵がいなくなり、佐志峰はヘラヘラとした笑みを浮かべて挑発するような発言をしてくる。
 思いを逆撫でするようなその態度に、誰もが怒りを覚える。
 しかし、一気に攻めかかるならまだしも、バラバラに行こうものならあっという間に蛇たちの餌食になりかねない。
 それを考えると、どうしても攻めかかることができいない。

「おのれー!!」

「あっ!」「おいっ!」

 佐志峰の先程の態度やの、仲間が生きたまま食われていくことが耐えられないのか、中には無謀にも斬りかかって行く者もいる。
 今も仲間たちが止めるのも聞かずに佐志峰へと1人の兵士が向かって行った。

「「「「「シャーー!!」」」」」

「くっ!? くそっ!!」

 飛び出した兵は、寄って来る蛇を斬りながら佐志峰へと迫る。
 しかし、佐志峰に近付けば近付くほどに寄手来る蛇の数は増えてくる。
 一旦引き、勢いを付けてもう一度斬りかかろうとするが、その時には周囲を蛇に囲まれており、もうその場で刀を振り回して対応する以外出来なくなっていた。

「ぐっ、ぐあっ!? ぐあーー……!!」

 その場から動けなくなると、もう蛇たちが纏わりついてくるのを止められず、ジワジワと蛇たちが集まって来て兵を動けなくしていった。
 そして、その兵はそのまま悲鳴と共に蛇に喰われて行った。

「勇敢と無謀は違ものだよ。君!」

 顏の部分だけ埋もれず、悲鳴を上げながら喰われて行っている兵に対し、佐志峰は目を向けて忠告するように言葉をかける。

「調子に乗ってるな……」

「おのれ!! 佐志峰ー!!」

 その様子を見ていたケイは、余裕の態度で囲んでいる兵を眺めている佐志峰の態度に、イラつきを覚える。
 側にいる西厚は、八坂とは違い激情家のきらいがあるようだ。
 先程の兵のように、感情に任せてツッコんで行くかもしれない様子に、ケイもちょっと不安に思えてくる。

「「んっ?」」

 佐志峰の前で何もできずにいる日向の兵たち。
 しかし、このまま睨み合っていても事態は進まない。
 どうするべきかと誰もが考えていたところ、数人の人間が軍の一歩前へ出てきた。

「んっ? ほぅ……異人か?」

 その出てきた者たちを見て、佐志峰は意外そうな表情に変わる。
 元々、日向は日本の江戸時代のように閉鎖している訳ではない。
 港町があまりないため、入ってくる大陸の人間は少なく、大陸とは違う異文化を味わうくらいの感覚で入ってくる者が多い。
 商人も、日向内で出来上がっているネットワークに入って行くには、かなりの時間と労力がかかると踏んでいる。
 そのため、港間で取引をすることでウィンウィンの関係を保つようにしているようだ。
 つまり、日向内で大陸の人間に会うことは少ないが、全く皆無という訳でもない。
 日向の要人とかかわりのある大陸の冒険者もいない訳ではない。

「恐らく、彼らは大陸の冒険者です」

「冒険者……」

 彼らの姿を見たケイは、すぐにそうだと分かった。
 姿や装備している武器を見れば、大陸の人間ならだれでも判断できる。
 しかし、日向の人間だと顔立ちの違いに目が行き、異人ということ以外見ただけでは分からないのかもしれない。
 西厚も同じらしく、ケイの説明に小さく呟いた。

「行くぞ!!」

「「「「おうっ!!」」」」

 佐志峰だけでなく、他の日向の人間も見つめる中、その冒険者たちは一気に走り出したのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【R18】World after 1 minute 1分後の先読み能力で金貨100万枚稼いだ僕は異世界で奴隷ハーレムを築きます

ロータス
ファンタジー
死んだでもなく、女神に誘われたでもなく、気づいたときには異世界へと転移された僕こと小川 秀作。 鑑定もなければ、ステータスも開かない、魔法も使えなければ、女神のサポートもない。 何もない、現代でも異世界でもダメダメな僕が唯一使えるスキル。 World after 1 minute。 1分後の未来をシミュレーションできるスキルだった。 そして目の前にはギャンブルが出来るコロセウムとなぜか握られている1枚の金貨。 運命というにはあまりにあからさまなそこに僕は足を踏み入れる。 そして僕の名は、コロセウムに轟くことになる。 コロセウム史上最大の勝ち金を手に入れた人間として。

私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ
恋愛
代々王宮医師を輩出しているオルディアン伯爵家の双子の妹として生まれたヴィオラ。 物心ついた頃から病弱の双子の兄を溺愛する母に冷遇されていた。王族の専属侍医である父は王宮に常駐し、領地の邸には不在がちなため、誰も夫人によるヴィオラへの仕打ちを諫められる者はいなかった。 母に拒絶され続け、冷たい日々の中でヴィオラを支えたのは幼き頃の初恋の相手であり、婚約者であるフォルスター侯爵家嫡男ルカディオとの約束だった。 『俺が騎士になったらすぐにヴィオを迎えに行くから待っていて。ヴィオの事は俺が一生守るから』 だが、その約束は守られる事はなかった。 15歳の時、愛するルカディオと再会したヴィオラは残酷な現実を知り、心が壊れていく。 そんなヴィオラに、1人の青年が近づき、やがて国を巻き込む運命が廻り出す。 『約束する。お前の心も身体も、俺が守るから。だからもう頑張らなくていい』 それは誰の声だったか。 でもヴィオラの壊れた心にその声は届かない。 もうヴィオラは約束なんてしない。 信じたって最後には裏切られるのだ。 だってこれは既に決まっているシナリオだから。 そう。『悪役令嬢』の私は、破滅する為だけに生まれてきた、ただの当て馬なのだから。

強引に婚約破棄された最強聖女は愚かな王国に復讐をする!

悠月 風華
ファンタジー
〖神の意思〗により選ばれた聖女、ルミエール・オプスキュリテは 婚約者であったデルソーレ王国第一王子、クシオンに 『真実の愛に目覚めたから』と言われ、 強引に婚約破棄&国外追放を命じられる。 大切な母の形見を売り払い、6年間散々虐げておいて、 幸せになれるとは思うなよ……? *ゆるゆるの設定なので、どこか辻褄が 合わないところがあると思います。 ✣ノベルアップ+にて投稿しているオリジナル小説です。 ✣表紙は柚唄ソラ様のpixivよりお借りしました。 https://www.pixiv.net/artworks/90902111

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

ミュージカル小説 ~踊る公園~

右京之介
現代文学
集英社ライトノベル新人賞1次選考通過作品。 その街に広い空き地があった。 暴力団砂猫組は、地元の皆さんに喜んでもらおうと、そこへ公園を作った。 一方、宗教団体神々教は対抗して、神々公園を作り上げた。 ここに熾烈な公園戦争が勃発した。 ミュージカル小説という美しいタイトルとは名ばかり。 戦いはエスカレートし、お互いが殺し屋を雇い、果てしなき公園戦争へと突入して行く。

清純Domの献身~純潔は狂犬Subに貪られて~

天岸 あおい
BL
※多忙につき休載中。再開は三月以降になりそうです。 Dom/Subユニバースでガラの悪い人狼Sub×清純な童顔の人間Dom。 子供の頃から人に尽くしたがりだった古矢守流。 ある日、公園の藪で行き倒れている青年を保護する。 人狼の青年、アグーガル。 Sub持ちだったアグーガルはDomたちから逃れ、異世界からこっちの世界へ落ちてきた。 アグーガルはすぐに守流からDomの気配を感じるが本人は無自覚。しかし本能に突き動かされて尽くそうとする守流に、アグーガルは契約を持ちかける。 自分を追い詰めたDomへ復讐するかのように、何も知らない守流を淫らに仕込み、Subに乱れるDomを穿って優越感と多幸感を味わうアグーガル。 そんな思いを肌で感じ取りながらも、彼の幸せを心から望み、彼の喜びを自分の悦びに変え、淫らに堕ちていく守流。 本来の支配する側/される側が逆転しつつも、本能と復讐から始まった関係は次第に深い絆を生んでいく――。 ※Dom受け。逆転することはなく固定です。 ※R18パートは話タイトルの前に『●』が付きます。なお付いていない話でも、キスや愛撫などは隙あらば挟まります。SM色は弱く、羞恥プレイ・快楽責めメイン。

処理中です...