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第10章

第254話

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「んっ? 南門が騒がしくないか?」

 ケイたちがいるのは西門。
 現在は出現した魔物を他の兵が倒しているので、見ているだけですることがない。
 八坂が率いている西の領の者たちは、魔物の脅威も無きなったために数を合わせるための招集へと変わっている。
 アスプへの対処法や、マノマンバへの攻撃をしたケイを連れてきたとことによる功労があるからか、この状況でも八坂たちは特に気にしていないようだ。
 善貞だけは何もすることがないのが不満そうだが、数日前に起きた坂岡との戦いで消耗した兵たちの考えると仕方がないと諦めていた。
 そんな中、することもなく周囲を眺めていた善貞が、いち早く南門の方の騒がしさに気が付いた。

「突入を開始したのかもな……」

 兵たちには、最初に開いた門から城内への突入を開始する手はずになっている。
 そのため、何か動きがあれば報告が来て現場待機に移るはずだ。

「っ!?」

 魔物の数はかなりのもので、突入するにはかなりの時間がかかるとは思ってはいたが、恐らく突入が始まったのだろうとケイも高を括っていた。
 そのため、南門の方には特に探知を広げていなかった。
 しかし、報告が入るよりも先に情報を得ようと、ケイは南門の方へと探知を広げてみた。
 すると、状況を確認した瞬間に目を見開いた。

「どうした? ケイ殿……」

 ケイの反応に気が付いた八坂は、何があったのか分からず問いかける。
 西門では何も起こる気配もないのに、焦った様子をしたのが気になったようだ。

「まずい! 南門で何者かが暴れている!」

「えっ?」

「何っ!? どういうことですか!?」

 ケイとは違って遠くまで探知を広げることができないからか、短い説明だけでは全部を理解できる訳もない。 
 珍しくケイが慌てていることに、善貞は首を傾げ、八坂は驚きつつも問いかけてくる。

「南門で異常事態が発生!! 念のため半数を残し、残りは南門へと向かえ!!」

「どうやら報告が入ったみたいだな?」

 ケイが説明する前に、部隊を仕切る者にも報告が入ったようだ。
 それによって、逃走防止のために残る部隊を残し、他は南門への援護に向かうことになった。

「我々はどうすればいいのですか?」

 八坂率いる西領の者たちは、後からの参加組。
 参加するにあたって、ある程度場面場面の立ち振る舞いの説明を受けていたはず。
 ケイがマノマンバへ攻撃したのは、いわば突発的な行動でしかなかった。
 そのため、ケイはとどめまでは刺さず、魔法を封じただけにとどめたのだ。

「この場合、我々は順位的には逃走防止の役が一番上に来ます。そのため、ここで待機になると思われます」

「……それはまずいな」

 後発組は、城へ攻め込む部隊から上手くすり抜けて逃走しようとする者の捕縛が最大の役割だ。
 南門がどういう状況下は詳しく分からないが、基本その役割は変わらない。
 そのため、この場に残る半数とは、大体が八坂率いる西領の者たちになる。
 八坂からそのことを聞いたケイは、眉間にシワを寄せて思案する表情へと変わる。

「……というと?」

「暴れているのがまともじゃない! マノマンバよりも危険な奴だ!」

 南門で暴れている者の力をしっかりと分析したわけではないので分からないが、簡単に見積もってもマノマンバ以上だ。
 いくら多くの兵を集めているとは言っても、かなり危険な相手のように思える。
 場合によっては、全滅させられてしまうのではないかと不安になって来る。
 ケイが敵と味方の戦力を考え、勝てるかどうかの計算をするが、確信持って勝つと言いきれない。

「誠ですかっ!? …………ならば、ケイ殿だけでも向かってください!」

 ケイの言葉に、八坂は事の重大さに気が付いた。
 そして、僅かに逡巡した後、ケイだけを南門へと向かうことを勧めてきた。

「……宜しいのですか?」

 ケイは八坂の食客としての参戦という形になっている。
 本来なら、八坂同様この場に待機するのが筋なのだが、八坂は南門へ向かうことを許している。
 そうなると、これまでここの指揮を執っていた男との係わりが問題になって来る。
 逃走防止に集めただけの八坂たちに、勝手をされては不快に思われる可能性がある。
 今後のことを考えれば、勝手をして余計な軋轢を作るようなことはしない方が良いかもしれない。
 そう思って、ケイは確認の問いをした。

「大丈夫です! 隊長の男は知り合いですので、すぐに伝えてきます!」

 どうやら、聞いていた通り八坂は顔が広いのかもしれない。
 隊長の男と知り合いだというなら大した問題はないだろう。
 ケイへ答えを返すと、八坂はすぐさま隊長の男の所へと走って行った。

「ケイ……」

「流石にお前は連れていけない。それ程の相手だ。キュウたちとここにいろ!」

「わ、分かった!」

 自分の実戦での戦闘を見せて何か感じてもらえればいいと思って連れてきたが、南門の敵のことを考えると、善貞を連れて行くのは躊躇われる。
 そのため、ケイは自分の従魔であるキュウとクウを側に置いて、善貞をこの場に置いて行くことにした。

「ケイ殿! 話は付けました。隊長の西厚にしあつには簡単ながら説明して了承を得ました。彼に付いて行ってください!」

「了解した!」

 伝えに行っていた八坂が走って戻ってくると、捲し立てるように説明をした。
 どうやら、八坂が指さした西厚とか言う男に付いて行けば良いらしい。
 それを受けたケイは、西厚とやらの方へ向かって走り出した。

「よく相手の方は受け入れてくれましたね?」

 ケイを見送った所で、善貞が八坂へ問いかける。
 知り合いだったとしても、戦場では勝手な行動は味方を危険にさせる可能性が高いため、ケイの同行を断られる可能性は十分にあった。
 八坂の言って戻ってくる時間の短さを考えると、それが結構すんなり通ったように思われる。
 善貞がそう思うのも仕方がないことだ。

「マノマンバの件があったからすんなりいったのだ。結局はケイ殿自身のお陰だ」

 善貞の問いに、八坂は答えを返す。
 アスプの時の戦闘方法の提案や、マノマンバの魔法を封じた件があり、西厚の中で八坂の意見は聞くべきものだと判断していた。
 そのため、意見がすんなりと通ったのだ。
 しかし、その裏で八坂の説得の仕方も良かったのかもしれない。

「ケイ殿を連れて行けば必ず役に立つ! それどころか、多大なる功労を手に入れることができるはずだ! 何なら最初から西方殿の食客ということにしてもらってもいい。だから彼を連れて行ってくれないか?」
 
 八坂のこの言葉と、ケイがマノマンバの腕を吹き飛ばした印象が強かったからか、西厚はすぐに受け入れることにしたのだ。
 あれほどの実力の食客なら、南門の方でもきっと役に立つのは目に見えている。
 八坂とは仲はいいが、異人に頼るのはどうかという思いも僅かにあった。
 だが、功を全て譲ってくれるとまで八坂に言われたら、断る理由もない。
 そのため、西厚があっさりとケイを受け入れることになったのだ。
 しかし、この事をケイたちが知るのは、後になってのことだった。

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