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第10章

第253話

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“ゴゴゴゴッ……!!”

「んっ?」「何だ?」

 同竜城の門は、東西南の3方にあり、ケイたちがいるのは西門。
 東西の門は、大きさ的には大したことがなく、囲んでいる兵も逃走防止の意味合いが強い。
 普段は市民や商人が使うことが多い門であり、今の状況だと逃走用に使われる可能性がある。
 北は岩壁地帯になっているため、逃げるなどと言う行為はできない。
 他領からくる客人などを受け入れるのは一番大きい南門。
 ケイたちが見た時、南門は城内への侵入を阻止するために魔物の数ばかり目立っていた。
 他の門と比べると何倍もの数だが、兵たちの努力もあって、兵たちよって何とか全てを倒し終えることに成功する。
 そのため、他の門よりもいち早く城内へと侵入を試みようとしていたのだが、突如その城門が開きだした。

「兵でも出てくるのか?」

「いや…………」

 城門前にいる兵たちが城内にいる兵が突撃して来るのかと身構えるが、すぐに違うということに気が付く。
 
「一人? しかもあれは……」

 呟きの通り、城門が開いて立っているのは一人。
 身なりや聞かされていた顔の特徴を考えると、この男が城主の綱泉佐志峰であるということに兵たちが気付く。

「降伏か?」

「これだけ魔物を仕向けといてか?」

 一人で出て来たにしては、刀を帯刀している所を見ると降伏をしてきているようには見えない。
 しかも、多くの魔物を仕向けたことにより、兵士たちの被害はかなり甚大なものだ。
 降伏するような思いが少しでもある人間が、こんなことをするとは思えない。
 まさか、将軍家の血を引いているから、命だけは救ってもらえるとでも思っているのだろうか。

「綱泉佐志峰!! 神妙にその場にとどまれ!」

 開いた城門の前で何故か仁王立ちしている佐志峰に、部隊を指揮する隊長の男が声をかける。
 どういう理由だかは分からないが、出てきたのなら捕縛するだけのこと。
 情報では、佐志峰の剣の腕は大したことがないと聞いている。
 刀を差しているからと言って、魔物に比べれば何の脅威にもならない。


「捕縛しろ!」

「はっ!」

 こちらの指示に従っているのか、佐志峰は動く気配がない。
 そのため、隊長の男は部下数人に指示をして、佐志峰の捕縛に向かわせた。

「フッ!!」

 佐志峰を捕縛しようとしに向かった者も魔闘術の使い手のため、別に弱いという訳ではない。
 抵抗をしてこようと、佐志峰一人では何もできないと思っているのか、油断がなかったとは言えない。
 しかし、数歩手前と行ったところまで近付いた時、佐志峰が笑みを浮かべた。

“シャッ!!”

「ギャッ!!」「ぐあっ!!」「ぐへっ!!」

「「「「「なっ!?」」」」」

 一瞬の居合斬り。
 あまりにも見事な剣技になすすべなく、捕縛に向かった兵たちは血しぶきを巻き上げてその場へ崩れ落ちた。
 その光景を見た他の兵たちは、佐志峰の一撃に驚愕の表情へと変わる。
 日向の兵たちは、何年にも渡る訓練により剣技を磨いてきた。
 それによって、接近戦なら並ぶ者無しと言い切れるだけの実力を有している。
 その者たちから見ても、佐志峰の一刀は敵ながら見事というしかないほどのものだった。
 見ただけで、その実力が並ではないということが理解できる。

「貴様……!!」

 情報では酒と女、それに魔物集めという特殊な趣味に溺れ、ほぼ飾りの領主だと聞いていた。
 だが、先程の一刀は一朝一夕で手に入れられる物ではないと言う事が分かる。
 斯く言う隊長の男も、見ほれるほどの一撃に冷たい汗が一気に噴き出て止まらない。

「た、たった一人だ!! かかれ!!」

「「「「「お、おぉっ!!」」」」」

 佐志峰があれほどの実力を隠していたとは思わなかったが、所詮は一人。
 兵士たちに囲まれれば、成すすべなく斬り捨てることができるはず。
 そう判断した隊長の男は、捕縛ではなく佐志峰を斬ることを兵たちに指示した。
 兵たちも、先程の剣技で同じことを考えたのか、周囲を囲むように佐志峰へと走り出した。

「っ!? 何だ!?」

「と、止まれ!!」

 先頭を走っていた兵たちは異変を察知し、手指示によって後方の者たちに止まるように指示を出す。
 何があったのかは分からないが、それによって兵たちはその場に立ち止まった。

「……蛇?」

 気になったのは、佐志峰の背後だ。
 城内にはまだ多くの兵が残っていると思われるのに、何の声も息遣いも聞こえない。
 しかし、何か小さいもの音だけは聞こえてくる。
 その違和感に戸惑って居ると、佐志峰の足下には一匹の蛇が近付いてきていた。

“ズ…………ズ………ズ……ズ…ズッ!!”

「……な、何だ!?」

 城の方から聞こえていた小さい音も、段々と大きくなってきている。
 何かが蠢くようなその音に、兵たちはその場から動けず、ただ何が起きているのか様子を窺うことしかできないでいた。

「行け!!」

“ドンッ!!”

「「「「「っ!?」」」」」

 佐志峰の小さい一言を合図にするように、城の内部から大量の蛇が噴き出してきた。
 数段で集まった蛇たちは、まるで巨大な一頭の蛇のように蠢くと、上空へを跳び上がり止まっていた兵たちへ向かってバラバラと降り注いでいった。

「うわっ!!「くっ!?」「このっ!!」

 まるで雨のように降り注ぐ蛇に、兵たちは撃退しようと刀を振り回す。
 しかし、数が多すぎるために全部の蛇を弾くことができず、何人もの兵が蛇の牙の餌食へと変わる。

「なっ!?」

 蛇たちの落下が治まると、数人の兵が毒にやられて動けなくなるか、命を落とした。
 それだけなら、残念だが仕方なしと思えるところだが、動けなくなった者たちはそのまま蛇の集団に埋もれ、姿が見えなくなる。
 そして、兵たちを包み込んだ蛇たちは、そのまま佐志峰の側へと戻って行った。

「いいぞ!!」

“バリッ!! ボリッ!! グチャッ!!”

「…………く、食って……る?」

 佐志峰の言葉を聞いた蛇たちは、包んで持って来た兵たちのことを貪り始めた。
 その音だけで、兵たちがどうなっていっているのか想像できる。

「…………がっ………」「…………た……すっ…………」

 意識のないものはまだしも、中にはまだ息のある者もいたためか、小さいながらも悲鳴のような物が聞こえてくる。

「くっ!?」

「佐志峰!! 貴様!!」

 仲間が生きたまま食われている様を見せられ、兵たちは怒りが沸き上がる。
 しかし、近付けば自分も同じ目に遭うという悪夢が湧いて、一歩を踏み出すことがためらわれる。

「どうした? かかって来いよ!」

「「「「「おのれっ!!」」」」」

 兵たちが二の足を踏んでいるのが分かっていながら、佐志峰は手でクイッ、クイッと手招きをして挑発をする。
 それに怒り心頭に発した兵たちは、最悪刺し違えてでもと全力で佐志峰へと斬りかかって行ったのだった。

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