上 下
251 / 375
第10章

第251話

しおりを挟む
「誰だ?」「異人?」

 1人戦場を歩くケイに、日向の剣士たちは何をするのかと呟きの
 突如現れたマノマンバと呼ばれる魔法を使う蛇の相手に、成す術がない日向の兵たち。
 日向に来て分かったことだが、日向の剣士たちは魔法に弱い。
 美学だか何だか知らないが、それが今顕著な欠点として表れている。
 このままでは、いつまで経っても城のにいる綱泉と上重を捕えることができない。
 仕方がないので、ケイは一肌脱ぐことにした。

「八坂様。ケイはどうするのでしょう?」

「う~む……、私にも分からないが、ケイ殿なら何とかしてくれるだろう」

 ケイがいなくなったため、ケイの従魔のキュウとクウと共に後方で控える善貞。
 見たこともどう対処しなければならないかも分からない魔物に、1人で挑むなんて馬鹿げている。
 しかし、ケイがとんでもない強さだということは、善貞は知っている。
 それに、魔物の対処法の説明は、分かりやすく的確だった。
 マノマンバとか言う魔物を相手にするのにも、きっと何か策があるのだろうと内心考えていた。
 それは八坂も同じらしく、とりあえずは黙って見ているつもりのようだ。

「マノマンバは魔法を使う魔物……」

 対処法が見つからない日向の兵たちを下げ、1人マノマンバへと近付くケイ。
 その歩を進めている途中、頭の中で浮かべたマノマンバの特徴を小さく口に出す。

「他の蛇の魔物と同じく、牙や尻尾の攻撃が危険。それ以上に、巨体に似合わず発達した手のような物から繰り出される魔法が危険……だったかな?」

「シャーー!!」

 特徴を呟きながら歩いていたケイは、先程放った魔法の射程距離ギリギリの所で足を止め、マノマンバの顔を見上げる。
 先程の魔法で焼いた兵を食していたマノマンバは、新たな獲物に威嚇の声をあげる。

「シャーー!!」

「っと!?」

 威嚇に対して何の反応を示さず、ずっと自分を見上げているだけのケイに、ジッとしていることが我慢できなかったのか、マノマンバの方が先に動き出した。
 尻尾を振って叩き潰そうとしてくるマノマンバの攻撃に、ケイは余裕を持って横へと回避する。

「シャー!!」

「こっちが狙いか?」

 尻尾の攻撃を躱したケイだったが、そこにはマノマンバの牙が迫っていた。
 どうやら尻尾を躱されることを見越していたようだ。
 だが、ケイはその攻撃にも慌てる事無く対処する。
 マノマンバの毒は神経毒。
 食らったら、ケイでもあっという間に行動不能に陥ってしまう。
 そのため、ケイは迫り来る牙から逃れるように、後方へと飛び退く。

「なるほど……コンボ攻撃ってわけか?」

 躱したケイが見たのは、マノマンバについている手に魔力が集まっている姿だ。
 尻尾で潰せればそれでよし、躱されたなら牙で仕留める。
 それもダメなら魔法で攻撃。
 尻尾と牙の攻撃で、いつの間にか距離が縮まっていたのも計算通りなのかもしれない。
 魔法を放てる頃には射程圏内に入っていた。

「流石にこのコンボは乗ってなかったな……」

 先程の神経毒の情報も、先程も呟いていたマノマンバの特徴も、全部エルフの魔物図鑑に描かれていた情報だ。
 エルフはどういう訳だか非殺生を掲げていた。
 ケイにはそれが馬鹿げたルールにしか思えなかったため速攻で無視することにしたが、弱いなら弱いなりに工夫を凝らしてきたのかもしれないと今では思っている。
 それが魔物の図鑑だ。
 アンヘルが持っていた物だが、色々な魔物が描き記されていた。
 噂から仕入れた特徴を記したものも混じっていたが、大体書かれていたのと特徴は同じだった。
 情報は力。
 前世の情報社会のことを思いだし、自然とその言葉が浮かんできた。
 そう考えると、自分たちの厳しい境遇に陥りながらもここまでの情報を仕入れた昔のエルフ達には、称賛したい気持ちになる。
 だが、戦うよりも逃げることを優先していた先代たちからすると、尻尾の攻撃で殺られる可能性が高いので、コンボなんて関係なかったのかもしれない。
 図鑑のマノマンバの説明の欄にも、コンボのことなんて記されていなかった。
 そのことを、ケイは愚痴るように呟いた。

「でも……十分な有益な情報ですよ!」

 先代たちの記した図鑑には、ケイも何度か助けられた。
 特に、転生したての頃、アンヘル島にいる魔物の情報は役に立った。
 情報から対策を練って戦うことも出来たし、毒の有無なんて、毒消しが無いような当初の状況では、厳重警戒するべきことが分かっているだけでも貴重だった。
 そのような恩恵から考えると、このようなコンボが書かれていない事位、今のケイにはなんてことないことだ。

「特に……」

 マノマンバは魔法を放つ寸前。
 それに対し、ケイはいつもの2丁拳銃を抜いて構える。
 魔法勝負になったら、エルフの自分に勝てる者などいない。
 それくらいの自信が持てるくらいに、訓練を重ねてきたつもりだ。
 魔物で魔法を使う種類は結構多い。
 当然その魔法の威力に強弱はあるが、大体が似たような特徴がある。
 それが魔力コントロールの速度だ。
 マノマンバを例に挙げるならば、威力ある魔法を放つのに、手に集まる魔力速度がかなり遅い。
 尻尾や牙の攻撃をしてきたのも、その魔力が集まる時間を稼ぐのが目的な部分もあるのかもしれない。

「マノマンバで手を欠損したものは、魔法が使えなかったという一文には……」

 先程の言葉の続きを呟きながら、ケイは銃に魔力を集める。
 マノマンバとは違い、ケイが魔力を集める速度はあっという間だ。

「ねっ!」

“ドンッ!!”

 台詞の最後の言葉と共に、ケイはマノマンバよりも速く魔法を放つ。
 2丁の拳銃から同時に放たれた巨大で高威力の魔力弾は、一気にマノマンバへと飛んで行った。

「っ!?」

 魔法を放つ寸前に飛んできた魔力弾に、マノマンバは驚き目を見開く。

「っっっっ!!」

 予想外の反撃に対応できなかったマンバは、ケイが放った魔力弾の直撃を食らって血を噴き出す。
 その痛みに、マノマンバは声にならない悲鳴のようなものを漏らす。
 怪我を負わせたのは2本の手の部分。
 胴体に付いた根元の部分に直撃を受けて、見事に2本とも吹き飛んで行った。 

「これで魔法は使えないだろ?」

 図鑑通りであるならば、マノマンバはあの手があるから魔法が使えるのだ。
 人間についているあの形状の物が付いていれば、自分たちも魔法を使えると思ったのだろう。
 恐らく、魔法を使う人間を参考にしてそのように進化したのかもしれない。
 魔法はイメージが大切。
 手があるから魔法が使えるというイメージがあるから、手がなければ魔法は使えないとマノマンバはなってしまうのだ。

「後は、牙と尻尾に気を付けて皆さんにお任せします」

「「「「「お、おぉー!!」」」」」

 戻ってきたケイによって、マノマンバが魔法が使えなくなっと知った日向の兵たちは、これで怖い物はないと言うかのように、気合の声をあげると共にマノマンバへと攻めかかって行った。
 魔法を失ったマノマンバなら、このままケイでも倒せるが、異人の自分が手柄の独り占めは後々面倒になるかもしれない。
 そのため、後は彼らに任せ、ケイは善貞たちの下へ戻って行ったのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA
ファンタジー
~完結済み~ 「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」 この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。 その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。 生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、 生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。 だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。 それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく 帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。 いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。 ※あらすじは第一章の内容です。 ――― 本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

処理中です...